4-4「ちらりちらつく、”らしくない”」(1P)
”誰かの顔が 頭にチラつく” なんて経験は
今まで、あまり味わったことがない事柄だった。
思い出そうとして、思い浮かべることはある
やりこめようとして、仮説を立てることもある
しかし
────”この前”。
”あの時”から、妙にチラつく彼女の顔。
────…………ふ……、
聖堂の花園で彼は
項垂れるようにうつむき──、そして息をつく。
今は、三国連盟会議の最中だ。
集中しなければならない時にこんなこと、経験がなかった。
(…………気が散ってる。自覚がある。
…………らしくないだろ)
”自分の状態”に、苦々しく呟く盟主・エルヴィス。
マジェラという言葉が原因か
それとも王子の問いかけが原因か
頭の中『勝手に人物が浮かび上がる』現象に、戸惑い、黙る彼。
少し前まで『マジェラ』と言われたら、頭に浮かぶのは
『魔具の買い付けは』だとか
『民への普及率は』だとか
『新作の魔具は見ておかないと』だとか、そのようなことばかりだった。
しかし今、思い浮かんでいるのは服飾工房の女の顔だ。
瞬間的に
彼女の色々な表情が頭に浮かんでは消えていくが
今残ったのは『男女間の空気』に疑問をぶつけてきた、あの時の、訝しげな顔。
『この国の人、どうしてこうなの?』
『なんか決まりでもあるのかと思った』
述べる彼女の、不思議そうな顔。
マジェラのお国柄や、その出生率・婚姻率までは知る由もなかったが
男女差もなく
婚姻率も高い国で育った彼女からすれば
この国は、さぞ異常に映ったのかもしれない。
(────なるほど?
マジェラの実態はわからないけど……、
彼女が『男女の空気に違和感』を覚えたのも、当たり前なんだな)
と、胸の内でつぶやくエルヴィスの前、リチャードの思い出したかのような声が響いた。