4-3「盟主《エルヴィス・ディン・オリオン》」(8P)
「…………今の言い方だと……なあ?」
「……………………」
言われ
一瞬、迷い
そして
「…………『自分の常識や感覚』の話?
…………まあ、そうかな」
僅かな間で切り返し、エルヴィスは可とも不可とも言えぬトーンで、話題の焦点をずらした。
彼の中で
『自分の常識や感覚を覆すような出来事』については、大いに心当たりがあるのだが、それを、今ここで、彼らに報告することはないだろう。
出す情報・出さない情報を瞬時に選択し
エルヴィス盟主は、拳で頬杖を着き王子に”じろり”と目を向けると、
「────。
こう見えても、色んなところにいくんでね。
おかげさまで」
「な〜るほど?」
『これ以上聞くな』と圧をかけるエルヴィスに
『ふうん?』と、リチャードは眉を跳ねる。
そんな二人を交互に赤い瞳で射抜きながら、銀髪の皇女キャロラインは口を開けると
「…………話を戻していいかしら?
小耳に挟んだのだけど、西のフェデールは出生率がいいみたいなのよ」
「へえ~~~。あのフェデールが!」
「………………西のフェデール?
……あそこは、戦火が酷かったところだろ。
…………よく盛り返してきてるな……」
「本当にね。
あと、南のマジェラもその様よ」
「────マジェラも?」
その単語に、エルヴィスは意図せず聞き返し目を上げていた。
会議で飛び出した言葉。
前より少し、馴染み深くなった国の名前。
(────”マジェラ”……)
無意識に、
胸の内でつぶやくエルヴィスの心情を知ることなく
キャロラインは意気揚々と顔を上げると、一つこくんと頷いて、
「私が聞いた話だけれど。
フェデールとマジェラは、男女に差がないようなの。
こういうところの教育をモデルにして、私たちも国を変えていきたいと考えているわ」
「…………へえ、マジェラが……ね」
「じゃあ、エルヴィス!
今度、マジェラの商人に聞いてみてくれよ!
おまえさんが一番接点あるだろ?」
「…………ああ」
『できるなら~、指南書とかある方がいいんだけどなあ~』
『そうね? 参考に資料があると助かるわ』
と、リチャードとキャロラインが資料を前に言葉を交わす、その向かい側で。
無意識のうち
気もそぞろな返事をしたエルヴィス……
いや、エリックの頭の中に、浮かび上がっている人物が一人。
『ねえねえ、おにーさん!』
(────ああ、またか)
今”視えている姿”に、こぼす。
この前から────
ことあるごとに、チラつく
服飾工房のミリアの姿。
その現象に、動揺するのは彼自身。
声にも出さずに
逃がすように、どことなく、視線を反らし、そして呟く。
「………………、」
────気が、散っている
(………………俺らしくもない)