1-5「そうよわたしは 着付け師の女」(4P)
(……アッパークラスの貴族か、ロイヤルクラスの王族か……
それともどうしようもない貧乏人か。
……そのどっちかしかない、と思うんだけど)
呟きながら、彼の様子をちらり。
気づかれないように伺った顔は、今は棚に飾られたコサージュに向けられていて、こちらの視線には気づいていない。
(────貴族……?
……王族……?
…………ってことはないでしょ。
天下のお上様がこぉんなところ歩いてるわけがないし、ああいう人にはお付きがいるし)
横顔を盗み見て、さっと視線を棚に戻し、抱えた布で綺麗なグラデーションを作っていく。
(……仮にアパロヤだったとして……、
いやいや、こんな失礼なアッパーロイヤルいる?
ソッコー付き合いに亀裂入りそうじゃない?
うーん、まあ、居ないってこともないかあ)
頭の中。
よぎる『今まで対応した貴族をはじめとするアッパークラスの皆様』。
(……いや~でもなあ。
アッパーって感じがしないんだよな〜、あの人。
アッパー特有の『ボンボン感』が感じられないんだもの。)
振り向き様、ちらりと盗み見る彼の顔。
トルソーのワンピースを眺める青年の表情は、今はとても綺麗なのだが……それより先ほどのイライラ顔の方が印象に深かった。
(そもそも、
アパロヤ様は商店街で喧嘩の制裁なんかしないよね?
『喧嘩を止める』って発想がなさそうだよね?
仮にお付きの方がいなくても、見て見ぬふりをするとか『野蛮なクズめ』『嫌だわぁ……』って立ち去るじゃん。
……か〜と言って、
貧乏人にも見えないんだよね〜
服はともかく、靴はどう見てもイイヤツだし)
ぶつぶつ。
ぽそぽそ。
手を動かしつつ回る頭。
(ん~…………じゃあ、あれか?
頑張って働いて、靴だけ良いやつ買いました系かな?
あー! それなら納得〜!
カッコつけっぽいしー!
まだ全然若そうだもんね、22歳ぐらい?
あるある、そういう時期あるあるぅ。
きっとお給料貯めて買った系だ、あのブ〜ツ〜!)
愉快に勝手に想像し、勝手に自己完結。
他人様に迷惑をかけない範囲でのそれは、ミリアの得意技だった。
(……あとはそうだなあ〜。
もしかしたら、どこかのお家に仕える使用人なのかもしれないな? 容姿はいいみたいだし、お屋敷の主さんが気に入りそうな感じだもんね。
あ、あれだ わーかった!
『あまりにみすぼらしい格好はさせられない』って、家主さんが服を支給してくれてるーとか!
あぁー! それありかもー!
きっとそれー! わたしあったま良)
「…………なあ」
「────はいっ!」