4-3「盟主《エルヴィス・ディン・オリオン》」(5P)
円卓にかけ、目配せをしながら資料を出すリチャードに、じろりと目を向けるのはキャロライン皇女だ。
真紅の瞳でリチャードの金の髪を睨みながら、端的に言い放つ。
「『連合国内における女性の人権問題』よ」
「あぁ〜、資料読ませてもらったよ。
……エルヴィス〜、おまえんところ、もう少しなんとかならないかぁ?」
「────やっているよ、リチャード。
俺の親の政策を知っているだろう?
…………根が深いんだ」
「私たち三国は、足並みを揃えるべきだわ?
エルヴィスには、もっと早く結果を出してほしいのだけど」
花園の円卓。
息をつくエルヴィスに、キャロラインのツンとした声が飛ぶ。
しかし、それに眉をくねらせ、あごを撫でるのはリチャードだ。
資料に目を滑らせながら、唇を上げつつ口を開くと、
「んん〜?
そういうキャロルのところも、芳しいとは言えないんじゃないか〜?
去年より落ちてるぞ?」
「──っ! …………うちは!
…………ごく最近まで継承戦争の後を引いていたの!
それどころじゃ、なかったのよっ」
「いや〜〜〜、それにしても、結果がねえ〜
アルツェン・ビルドも人のことは言えないわけだが〜〜?」
ムキになるキャロライン皇女を視界の隅に、リチャード王子はガリガリと後ろ頭をかく。
そんな二人に目線を送りつつ
エルヴィス盟主はその重い口を開くと、ため息交じりに言い放った。
「…………どうにかしたいのはどこも同じだ。
けれど、染み付いた価値観は、なかなか変わらない。
……少なくとも30年は見ておいた方がいい」
「そうなんだがなぁ〜、わかってるんだがなあ〜」
「私としては、エルヴィス?
貴方のところの『女性の労働に対する男性の意識レベル』については、早急に対処したほうがいいと思うの。
才のある女性が埋もれてしまうわ。
国としても、宝の持ち腐れよ?」
「…………ううぅーん」
資料を見ながら言うキャロラインに
難しい顔で唸るのはリチャードである。
はぁーとため息をつきながら
ぐいーんと背を逸らして空を仰ぎ
唇を山のように曲げながら、抜くように声をあげた。