4-3「盟主《エルヴィス・ディン・オリオン》」(3P)
テーブルの上いっぱい、広がるのは資料。
耳に入るは、小鳥のさえずりではなくバサバサという紙の音。
用意された珈琲も焼き菓子も、囲み摘まむのではなく────邪魔にならないように除け者状態。
ロマンも愛情も、なにもなかった。
エルヴィスは用意した資料を真剣に読み込み、
キャロラインは腕を伸ばして淹れたてのコーヒーをひとくち。
そして彼女は、深紅の瞳を資料から離さず口を開け、凛としながらも圧のある声を張る。
「……ねえエルヴィス。
調査件数は────まさか全件?」
「まさか。連盟三国、全件調査するなんて骨だろ。
どの程度のサンプルを取ればいいかは、統計学者に聞いた方が適切じゃないか?」
「そうね。
調査用紙はこちらで用意しましょう。
最新の複写魔具で乗り切れるわ。
買っておいてよかった」
「────あれ、買ったのか?」
「ええ。4台ほど」
「どうだった?」
「損はしないわ、お勧めするわよ?」
流れるような会話の中、挟み込まれた雑談も交わす盟主と皇女。
彼『エルヴィス・ディン・オリオン』と『皇女キャロライン』は、かつての級友である。
王家・貴族の集まるロイヤルスクールで共に学び、今や盟主と皇女という立場になった。
学生時代は互いにライバルのような存在であったが、それも彼らの『縁の形』。互いが互いを、それでよしとしていた。
しかし
いくら『級友の仲』で『お互いがそれで良しとしている』とはいえ、監視の老中や侍女がいる中、この態度でやりとりするなど到底できるわけがない。
キャロラインはキャロラインで
『気品漂う皇女様』を演じなければならないし
エルヴィスはエルヴィスで
『同盟領の盟主』で居続けなければならない。
その、やりにくいこと。
夏の花園
日陰とはいえ、じんわりしたと暑さを感じ
首筋にまとわりつく汗をひそかに拭うエルヴィスの前。
キャロライン王女は、ばさばさと資料の中から一枚、羊皮紙を抜き出すと
「それで。
次の議題は『連合国内における女性の人権問題』ね。
……貴方に出してもらった資料見ているけれど、」
「おーそくなってすまん!」