4-2「今日は副業モデルのリックとして頑張ります」(8P)
彼の鋭い視線の先、広がる庭園は変わることなく、ただ、しんっ……と静まり返っている。
(…………なにもない、か?
…………大丈夫……か?)
ふんわりとした夜の風に当てられて、エルヴィスは、タガーに掛けていた手を下ろした。
辺りを見張る瞳は
そのまま警戒を続けているが
彼の目に映る庭園は『いつも通り』
規則正しく配置された池も、
手入れの行き届いた芝生も、静かにそこに佇んでいる。
しかし────
変わらぬ風景に、まだなお
神経を研ぎ澄ませること、しばし。
……さぁ……っと、軽い音を立て
彼の頬を、夜の風が撫でた時
────ふうっ……
(…………なんだったんだ、一体……)
そこで、やっと。
エルヴィスは体の力を抜いた。
彼の中、一瞬”とおった”感覚に名はつけられぬが、それでも。瞬時に警戒した『殺意』については杞憂だったと、エルヴィスは安堵の息をついて扉を閉める。
それは、訪れた小さな変化。
ウエストエッジ、郊外。
広大な敷地に建てられた「オリオンの屋敷」。
”がっ、こん” と音を立てて閉まる扉を
屋敷に消えゆくエルヴィスを
はるか頭上から見下ろしながら。
宵闇の中
ひときわ輝く星たちは、存在も確かに、銀色の光を放っていた。
聖堂の中庭。
手入れされた鮮やかな緑を茂らせる生垣と咲き誇る花々・吹き抜けのテラス。
8月の、燦々としながらも柔らかな日差しを綺麗に避けて、彼らは二人、テーブルに着いて花園を背負う。
盟主・エルヴィス・ディン・オリオン。
皇女・キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア。
彼らをもてなすのは二対の気品漂う茶器。
淹れたての珈琲が香りよく辺りを包み込み
王室御用達のパティシエが作るスイーツが、銀素材のスタンドを華々しく飾る。
そう。それは、お茶会。
誰がどう見ても、優雅でエレガンスなひと時。
シルクの様な銀の髪を持つ皇女と
彫刻のような顔だちをしている盟主
美と美の合わせ技。
並んだ二人を絵画に収めたいと申し出る絵師は後を絶たない。
そんな彼らは向かい合い
今日も、言葉を交わすのだ。
いつもの通り。