1-5「そうよわたしは 着付け師の女」(3P)
(……確かに〜
うちみたいな総合服飾工房は来たこと無いだろうけど。
……「紳士服工房はあるだろ紳士服工房は」って思うんだけどな~)
パンパンの布棚を整理しながら、ミリアの疑問は止まらない。
彼の様子からして、こういう工房に入ったことがないのは、おそらく本当だろう。でなければあんな風に、圧倒されたような顔つきはできない。
だからこそ不思議だった。
それなりの家庭なら、成人した時に服を仕立てるはずなのに。
そしてその辺の小金持ちなら、男性も女性も、店に来ては普段着をセミオーダーで仕立てていくのに。
彼は言った。
『工房に入ったことがない』──と。
そんなことは──ミリアの認識の中では『考えられない』。『ちょっとありえない』。
紳士服のテーラーと、ドレスショップでは多少の違いはあれど、どこも似たようなものなのに。
(………普通、小さなころに連れてこられるとか、親の用事でタイやリボンを取りに行くとかあったりするじゃん? ボタンの付け替えを頼みに来るとか、リサイズだとか、来る機会ならいろいろあると思うんだけどなあ……?)
「…………うーん……」
“普通に暮らしていて”、“このような店を利用することがない”というと────?