4-2「今日は副業モデルのリックとして頑張ります」(6P)
朝からラジアルに詰め、ミリアのもとへ行き
一人劇場に大いに笑わせてもらった後、彼女を協力者として囲い込むことができた。
────その後に起きた、ビスティーでの『スネークとの鉢合わせ』は、エリックにとって不都合な出来事でしかなかったが
あとの情報共有の速さを考えたら、どちらかと言えばプラスに働いたと見ていいだろう。
月の数回のモデルの仕事も片付け
時刻は、黄昏。
夏の太陽もすっかり隠れ、深い藍色が広がる空の下。
彼、エリック・マーティン──、いや
エルヴィス・ディン・オリオンは屋敷に帰り着いていた。
数キロ手前の敷地入り口を抜けて
見晴らしのいい庭を横目に、ゆっくり馬を歩かせ屋敷を目指す。
厳格・荘厳という言葉がふさわしい、石造の我が家。
彼が建てたわけではない。
先々代、彼の祖父が建てた石の城だ。
もしも彼が家を建てるなら
こんなに広いモノではなく、メイドが数人いれば事足りるような、小さな屋敷を立てるだろう。
────祖父と父の、財力の証。
やたらと大きく、重い扉を開けた守衛に目くばせをして
エルヴィスは『これが済んだら、もう引き上げていい』と言葉をかける。
開かれた扉の先。
廊下に待っていたのは一人のメイドだけ。
父の時代までは、ここに大勢のメイド執事を並べたものだが──エルヴィスの代になってからは『各自作業を優先してくれ』と、盛大なお出迎えを排除した。
『帰り時間もまばらな主人を出迎えるためだけに、いつでも気配っていなければならないなんて、無駄でしかない』という理由である。
「────おかえりなさいませ、旦那様」
「……アナか。悪い、待たせたな」
玄関口、深々とお辞儀をする、メイドのアナに言葉をかける彼。
アナはとても小柄な女性のメイドだ。
普段はハウスキーパーをしていて、エルヴィスとほとんど話すことはない。
乗っていた愛馬を守衛に引き渡すエルヴィスに、アナは届いた手紙を手に、足早に駆け寄ると
「…………お手紙が届いております、旦那様」
「……ああ、手紙。どこの誰からだ」
「────キャロライン・フォンティーヌ・リ」
「わかった」
メイドの報告を皆まで言わせず遮って、彼はため息交じりに封を切る。そこまで聞けば、先は聞かずとも解る。
相手は、皇女。
『ネム国際連合』三国の一つ
セント・リクリシアの皇女
キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア。
────その性格から、『鋼鉄の女』の名をほしいままにしている、皇女様だ。
彼に取っては──
ビジネスパートナーの、一人。
(……”皇女”ということは、……)
胸の内、
予測を立てながら呟いて
照明魔具ラタンの光も煌々と灯る中。
彼はそっと羊皮紙を引き抜き────