4-2「今日は副業モデルのリックとして頑張ります」(2P)
稀代のモデル『ココ・ジュリア』が
転写魔具の入国と共に築きあげた『モデル』という仕事は、全くと言って良いほど人気がなかった。
原因は──そう。
転写魔具だ。
エルヴィスを筆頭に
国連は魔具の普及を推進しているのだが
生活魔具はとにかく、転写魔具は被写体を紙に映すからか
『命を吸われる』と怖がられており、
発売から20年以上経過しても普及の兆しが全く見受けられなかった。
しかし、モデルという『広告塔』はなくてはならない。
女性服は『ココジュリア・オリビア親子』が請け負っているからいいとして、問題は男性服である。
女性服が売れれば
男性服だって売れてほしい
しかし、引き受けるモデルはいない。
それを『男性の代表』として引き受けているのが、盟主『エルヴィス・ディン・オリオン』だ。
彼も、身を削る男だった。
本当なら。
彼は自分の顔を『モデル』という形で出すのは嫌だった。
盟主としても、民の前で立場を明かしたり貴族を振りかざしてはいないのに。
顔出しモデルなどしようものなら、彼が重きを置いているスパイ活動の方に支障が出てしまう。
しかしモデル役がいない。
産業は維持したい。
そこをなんとか解決できたのは
ジュリアが唱え・貫き通していた
『覆面スタイル』のおかげである。
この国で
この領で
モデルと言うものは、顔を出さないのだ。
”服を着るのは ジュリアじゃない。あなたたち”
”皆平等に、着飾る服を選んでほしい”
”私は、服を彩る素材のひとつ”
という、稀代のモデル『ココ・ジュリア』の固い意志で、今もそのスタイルは継承されている。
エリックとしては、これが無ければ引き受けられなかった。
複写魔具の吸魂リスクついては懸念が残るが
覆面さえつけて仕舞えば
『白黒で、そこまで精巧な模写ではない写し絵』で、顔が割れることはない。
それで月に数枚のピクを残して産業が盛り上がるのなら──安いものだと計算したのである。
「…………」
撮影技師がなにやら魔具をいじるのを視界の隅に、盟主は今日のことを思い出しつつ、小さく息を吐く。
朝からラジアルにつめ
ミリアの一人劇場に大笑いし
その後、スネークとエンカウント
事件のあらましを聞いて、そして今は『モデルの撮影』。
はっきり言って『多忙もここに極まれり』なスケジュールの中、疲れで鈍ってきた脳をなんとか動かし
(……屋敷に帰ったらまず……)
とスケジュール立てるエルヴィスに、コツコツと
ヒールの靴音を鳴らしながら、近づく女が一人。