4-2「今日は副業モデルのリックとして頑張ります」(1P)
────ぷわんっ。
──不思議な音。
一瞬の閃光を当てられ、黒の目隠し・瞼の向こうが白く光る。
「はい、こちらお願いしまーす!」
若干はしゃいだ男の声。
真っ黒な繊維の隙間から覗く、『転写魔具』の位置。
彼の隣、ペアの女性の腰を抱き
顔を合わせ、顎を引く。
カッ! と降り注ぐ閃光。
ぷわん! と鳴る不思議な音。
彼の黒い癖のある髪と
彼女の金の髪が、交わる寸前で静止する。
次々にポーズを決める、ドレスとスーツに身を包んだ男女に、魔具を操る男は嬉しそうに手を叩いて声を張った。
「────はいっ、OKですー!
おつかれさまでしたぁああ!」
ウエストエッジ、中枢。
ミリーア通りの一角にある、『魔具写絵撮影所』。
『……はあ……』と疲れた様子で息をつく、盟主『エルヴィス』に、転写魔具を構えていた男は手を揉みながら近づいて、
「…………あぁぁぁぁりがとうございますエルヴィス様! 盟主様直々にモデルをしていただき、私共はいつも!」
「…………ああ、構わない。
それより、ここでその名を出すのはやめてくれないか?
今は『リック・ドイル』だ。
盟主のエルヴィス・ディン・オリオンではない」
「────はいっ!」
駆け寄り速攻、手を揉みながら目尻を力一杯下げる撮影師に、エルヴィス────いや、『リック・ドイル』は黒のアイマスクを外し、ややうんざりした口調でそう言った。
いきなり開けた視界と
撮影所の特有の照明魔具に眩しそうに目を細め
『終わった』と言わんばかりに息をつく。
『覆面モデル『リック・ドイル』
これも、『彼の仕事』である。
『エルヴィス・ディン・オリオン』……並びに、『エリック・マーティン』が持つ、『もう一つの仮面』。
盟主直々にモデルの役を担うというのも、いささか異常な状態ではあるのだが、この街はファッションの街だ。服飾産業は街の過半数を支えており、生活の基盤となっている。
その産業を盛り立てていくためには、当然広告塔も必要である。
先の産業を発展させた『ココ・ジュリア』が
人々の夢を刺激し、憧れを持たせて『次世代へ』────
と、続けばよかったのだが──