4-1「 事件かもしれません」(8P)
「またまた。わかっていらっしゃるのでしょう? あなたのお気に入り……、おっと。あなたを気に入っていらっしゃる、着付け師のミリアさんのことですよ」
「────ス ネ ー ク」
「彼女なら…………教えてくれるのでは?あなたに。それはもう、献身的に」
「────だろうな? 30分ほど時間を割いて、彼女の知りうる限りを教えてくれるだろう」
(────ほう? 肯定するんですね)
鋭い睨みでこちらを射抜いたかと思ったら、ふっと視線を反らしあっさりと挑発を受け止めたボスに、スネークは僅かに眉を上げた。
これは面白い変化である。
ターゲット──を含む女性関係の話題を、全てばっさりと遮断してきたボスの、明らかな変化に驚くスネークの前で。
堅物の盟主エリックは、『ぐっ……!』と資料を握る親指に力を入れ、『トントン』と紙を叩くと、黒く青い瞳でぎろりと彼を射抜き────発した。
「──────けど。それと『縫製ギルドが提出してきた資料が”資料の役割を果たせていない”』のは別問題だろう。資料は、誰が見てもわかるように作られていないと意味がない。今までのことを悪く言う訳じゃないが、これでは管理が杜撰すぎる。
俺が直接言うことではないだろうが、これを機に抜本的な見直しをした方が賢明だ。工業魔具もどんどん普及していき、これから様々な物の大量生産が見込まれる中、今後のギルド管理のことも考えたら、新しく記入様式を作り体制を整え」
(─────あ。ヤブヘビでした)
エリックの口から出た、山のような文言を黙って聴きながら。
スネークはこっそり思う。
(────独身の私が、ボスにこのようなことを思うのは失礼に値しますが。
……ボスとご結婚される方はさぞ苦労するでしょうねぇ……)と。
(──…お気に入りであることは、否定しないんですねぇ)とも。
#エルミリ