4-1「 事件かもしれません」(6P)
(…………焦っても仕方ないことはわかってる、けど。……なんとかしないと)
ひとしれず表情を険しさで染め、ぐっと指に力を込め、瞬時に小さく首を振る。
(…………いや、別に彼女の為じゃない。素材自体の値が上がって、産業が倒れたら困るんだ)
そうだ。
ミリアのためではない。この街のためだ。
情報源の訴えが起因じゃない。もともとそのつもりだったのだ。
見えないものをそのまま、闇の奥底に隠し蓋をするような感覚で。
エリックの限りなく黒に近い青の瞳で、紙の上の違和感を探し出し────
「?」
目に飛び込んできたそれに、彼は”ぐっ”と眉間を寄せた。
「………………?
”ニモ No,8"……とか、”ルメ65の90”……とか。
価格が上がっているのはわかるが……なんのことだかさっぱりわからないな……」
「────『にも』? ですか?」
捕らえたのは『意味の分からない単語』。
隣から『にょき』っと資料を覗き込むスネークにわかるよう、エリックはトントンと指で刺し言葉をつづける。
「ほら、ここ。
書いてあるだろう。
『ニモ No,8』・『ルメ65-90”』。
せめて、これがなんなのか名前だけでも書いておいてくれれば、こちらも悩むことはないんだが……」
「おや……なんでしょうねえ?」
「……品名もない。これだけでは見当すらつけられない」
「……”ニモ”に”ルメ”ですか……」
眉を寄せるエリックの隣で、スネークも同じように眉を寄せた。
書かれているのは価格のみ。
縫製などしたこともない男二人、報告書の前で固まり首を捻る。
────『ニモ・ルメ』。
「なんでしょう?」
「…………型番か?」
「……そのよう、ですね?」
「…………なんの?」
「……さあ。私に訊かれましても。縫製や服飾は専門外ですから」
「…………」
「…………はて……、なんでしょう?」
目配せやアイコンタクトなどはすることもなく、紙を見つめて首を捻る。
エリックもこの前、ミリアからざっと話を受けたのだが、『ニモとルメ』については聞いた覚えがない。
エリックがひとり、(……なんだ、これ……『ニモ』……、『ルメ』……、シャルメ……は違うよな……? ニモ……、)と脳内データを探る中、ふと。
スネークは、気が付いたように息を吸い込むと、手袋越しの指を紙に押し当てて、