1-5「そうよわたしは 着付け師の女」(2P)
どう見ても本革。
手入れもされている。
おそらく仕立ては一級品だろう。
外目から見ても仕立ての違いが明らかにわかる上、何よりその紐穴に『アイレット』という補強金属とフックまでついている。
この、アイレットとフックが『また』。
高級品の証なのだ。
ミリアの目測、それは『普通に買っても十数万メイルはくだらない』。なので密かに『金持ちの息子か何かかな』と思いもした、のだが。
(────金持ちの息子が『こういうところに来たことない』ってことはないわなあ……)
首を捻って却下する。
目の前にそびえたつ、巻き糸の壁に新しい糸を加えながら、唇を平たく潰してそう思う。
(この国で? 貴族の息子が?
工房に来たことない?
ないないない、そんなのありえない)
心の中で、好き放題首を振る。
それも、そのはず。
彼らが暮らす『シルクメイル地方・ノースブルク諸侯同盟領』はファッションの国だ。
中でも『ここ』。
オリオン盟主が治める『ウエストエッジ』は、聖地の隣にあり『女神のクローゼット』と呼ばれている。
『女神のクローゼット』に仕立て上げたのは、稀代のモデル『ココ・ジュリア』。
国交と文明の発達の中誕生した、ファッションの広告塔がその発展を促してきた。
ジュリアの功績はとても華々しく
戦後落ち込みがちであった服飾業界に花を添え、流行をもたらし、国中にドレスや服の花を咲かせたのだ。
要するに、『選りすぐりのファッションのメッカ』なのである。
よほどの貧乏人でない限り、民は皆 それなりの装いをして歩いているのが普通だ。
近年の流行りは、男性服は『紳士かつ動きやすく』、女性服に至っては『エレガントかつ可愛らしく』。
女性はふんわりとしたワンピースドレスやスカートを身にまとい、男は襟シャツにパンツという──まさにエリックが身に着ている恰好をしている男性が多い。
それでも質は様々で、安物はそれなりだし、高いものは見ればわかる。
特に金持ちは装飾や刺しゅう・裏地などにこだわり、上質なものを身に着け、金をかけるのだ。
──そのため、見る人間が見れば、一発でわかる。
『こいつ金持ってるな』と。
そんなファッションの聖地なのだから、縫製工房やスタイルショップと民は、わりと密接な関係にあるのだが──……