4-1「 事件かもしれません」(4P)
(…………スピネル通りとヘンルーダ街道は、徒歩で30分以上離れた場所にある……
馬でも使わない限り、この二人を同時にひとりで殺すのは不可能だ。
まずは馬主をあたるか?
いや、複数犯だと決まったわけじゃない。
マデリンとジョルジャの接点もわからない)
「──……いずれにしても。今はまだ、事件か事故かわからないんだよな?」
「ええ。組織も事件と事故、ふたつの観点から調べを進めるそうです」
「ああ。ベルマンに『引き続き頼む』と伝えてくれ。…………それと、『深追いはするな』と」
「────はい。手引きさせていただきます」
素直に頷くスネークに、エリックはひとつ、陶器の仮面の下から息を吐いた。
スネーク・ケラーという男とは基本的に仲も悪いし相いれないが、こういう時は本当にスムーズに流れるのだ。
互いに同じ方向を向いているときのみに発揮されるコンビネーションだが、こちらの意図をくみ取り先回りする、《この有能さ》は──ほかのなにを差し引いても余るものであった。
(……いつもこうならいいんだけどな)
と、それでも悪態をつくエリックの傍らで。
糸目のスネークといえば、脇に書類の束を携え、こほんとひとつ咳払いをすると、
「…………それと、もう一つ」
「……まだなにかあるのか」
その、やや辟易を纏った声に、スネークは音もなく頷いた。
どちらかといえばこちらの方が本題である。
”べろり”と書類の束を差し出し、トーンもそのまま彼は言った。
「上がりたての価格調査報告書です。
毛皮だけではなく、綿と絹も高騰しています」
「………………ああ」
「落ち着いていますね、ご存じでしたか?」
「彼女から聞いた。現場にいれば、情報は『一瞬』だからな」
答えながら、手渡された資料に目を落とすエリック。
魔具ラタンが照らす室内で、エリックの蒼く黒い瞳が捕らえる情報の数々。
記載されている綿とシルクの売価。
その他の変動。
彼女と訪れた問屋の言う通り、仕入れた情報と差異はない。
────と、同時に浮かぶ、
『……困る!』