4-1「 事件かもしれません」(3P)
自分の過失ではない。
過失ではないが、エリックの中、濁るような感覚が湧きだすのを抑えることはできなかった。
(────人の死にざまは、想像でさえ気分のいいものじゃない……)
その場で起こったであろう悲劇と、彼女らの周りの人間。
それらをぐるりと想像し、落ちゆく心に──『喝』。
エリックは無理やり瞳を上げ切り替えると、やるせなさを怪訝に隠して口を上げた。
「────今日は朝からずっと雨が降っていたからな……外を出歩く者も少なかったんだろう」
「えぇ。
マデリンの落下時刻が確かなのは、同じアパートメントの一階の住人が証言しているからです。『外で大きな音がしたと思って見に行ったら倒れていた』と。彼は遅めの昼を摂っていた途中だそうで、戻ってきたころにはパスタは冷えきっていました」
「…………パスタの情報はいい。
同時に二人も、か…………頭が痛いな」
「この街で死亡事件なんて、何年ぶりでしょうねぇ……
戦後10年はありましたが、盟主さまが変わられてから久しくなかったというのに」
「…………」
────そう。先代オリバーの死後、彼が引き継いでからいままで。
こんなことは起きなかった。
多少の事件事故はあっても、このような死亡案件は見られなかった。
(──のに、一気に二人か……)
状況にしわが寄る。
胃の奥の方がぐっと縮む。
しかしそれを嘆いている場合でも、口にするわけにもいかないのだ。
エリックは続きを促す様に、言葉を発した。
「…………”二人同時”と言うところを見れば、限りなく事件である可能性が高いとは思うが……────そのあたりの調べは?」
「……流石に、まだですね」
その問いに、スネークが静かに首を振る。
当たり前の受け答えにエリックも小さく息を付き、そして彼は街の地図を凝視する。