3-15「フィルターを通して」(9P)
「────それでも。
余計なことはするな。
…………彼女に迷惑になる」
「────えぇ。承知しました」
エリックの、声の抑揚を抑えた言葉に
スネークの淀みない返事が響いた。
商工会、奥。
昼だというのにほの暗いその部屋で、
『彼』の中
じわりと生まれた
『迷い』のようなもの。
「…………」
エリックは黙る。
その陶器の仮面をつけた様な表情の下、行き交うのは
”協力者”
”情報源”
”相棒”
────”面白い”────
断片的なワード。
彼女の言葉・スネークのコトバ。
「…………、──────っ」
一瞬。
いろいろなことが駆け巡り、
黙り込んでいたエリックは、次の瞬間。
細やかに首を振り、すっと息を吸込み顔を上げた。
(…………今は、そこじゃない)
と呟く彼の表情には、先ほどの迷いはなく。
気持ちを切り替え仮面をつける。
真面目で、固い、ボスの仮面。
「…………それで。
お前は、それが言いたくて俺を呼び出したのか? そんなことのために?」
「いいえ?」
やや怪訝な口ぶりで言われ、スネークはさらりと首を振る。
そして
いままで浮かべていた『愉快なすまし顔』を消し去り
糸のような細い目を開け、こう述べたのだ。
「………………お耳に入れておかねばならないと思いましてね。
我々商工会ギルドとしては直接関係はないのですが、ここは窓口ですから」
「…………悪いな」
「いえ、お互い様です」
「……それで、どうした」
「…………はい。
死亡事故が起きました。
────いいえ、事件かもしれません」
「…………死亡事件?
場所は? 東の方か?」
「────いいえ。
ウエスト・エッジで」
男は、盟主であり、スパイであった。
スパイの暮らしは、常に
予期せぬトラブルで溢れている。
────これは、嘘を重ねる男の話。
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