1-5「そうよわたしは 着付け師の女」(1P)
総合服飾工房ビスティーの中。
ミリアは先ほどであった癖毛の青年『エリック』に背を向けて、心の中でポッソリと呟いた。
(……お金持ってなさそうだもんなー
あれはきっと労働階級だな~……)
目の前にそそり立つ『糸の壁』に向かって息をこぼす。
『金にならない』と判断をつけた瞬間、商売人はとてもシビアだ。
しかし『思ったそれ』を、ミリアは死んでも口には出さなかった。
流石に出せない。
彼女もそこまで馬鹿じゃない。
出会ってすぐの人物に対して『金持ってなさそうだね!』などと、相手が相手なら殺されてもおかしくないのだ。
だかしかし。
ミリアがそう思うのには理由がある。
彼女は、着付け師だ。
客の体格や雰囲気、好みなどを聞き出し、総合的に提案するファッションプランナー。
毎日、布状態のものからアクセサリー小物まで取り扱っている、いわば『服飾のプロ』である。
毎日見ているのだから
行き交う人々の服や道具などから、大体の身分位の見当ぐらいつけられる。
むしろ、付けられなければ話にならなかった。
まあ、一口に身分と言っても様々ではあるのだが、金から浮き彫りになるその「格差」は、身だしなみにこそ如実に出る世の中である。
助けてくれた人間にこう思うのは
失礼に値するのだが────
彼女の目から見て、彼は
間違っても金を持っているような恰好はしていなかった。
シンプルな襟シャツに、ありふれたベスト。
履いている黒のパンツも、その辺りで買える。
いわば『浮かないスタイル』。
高貴な人々が身につけるものは一切ない。
腰に巻き付けた革のベルトと、そこにぶら下がる短剣を納めた鞘は…………まあそれなりのつくりだが、これはどれも同じようなものである。
どこにも『金持ち』──
ロイヤル階級やアッパー階級の要素は見つからなかったのである。
────しかし、靴だけ。
靴だけが引っかかった。