3-15「フィルターを通して」(2P)
『へえ、それは知らなかったよ、お嬢さん?』
『普通はああするんだ、靴を投げたりしない』
『またやって欲しいんだけど?
『頑張ろうね、スフィー♡』って』
「────感じでもない、
…………わけでもない……んですけど」
「ほう? そうなのですか?」
咄嗟にフォローをしようとして
逆に、変にぼかした言い方になってしまったミリアの言葉は、スネークの『興味』を刺激した。
スネークの前でエリックは一切笑わない。
怪訝な表情になることはあれど、にこりともクスリともしない。
8年、笑顔など見せたこともないボスを『そんなことない』というミリアの証言に、スネークの興味が向かないはずがなかった。
(──……これは、聞くしかありませんね?)
と内心呟きながら、
わざとらしく驚くスネークの思惑など知りもせず、
ミリアは
(よかったごまかせた!)と、明るく笑って口を開く。
「ええ! 割と気のいいお兄さんですよ。
なんだかんだ付き合ってくれるし。
『ちょっと』と思うこともあるけど、まあ、それは個性というか」
「ほう。
では、貴女の前ではそうではない、と?」
「んん〜〜、まあ……」
「……私には警戒と嫌悪だけでしたが」
「……だから『知り合いかなー』って思ったんですけど……?」
「知りませんねぇ」
『じー』っとした問いかけを
すまし顔のままさらりと回避。
彼の迷いのない返事に
ミリアは、一瞬間を置くが
直後こくこく数回頷くと
「そうですか、すみません〜。
うーん……
なんであんな態度とったんだろう?」
「…………どうやら、嫌われたようです」
「『いきなり嫌い』とか、あります~?」
スンッと表情を戻してジト目を送る彼女。
ミリアの感性からすれば、『いきなり嫌い』はありえない。
────しかし。
スネークの感性では違うようで、さらりと反対意見を述べるのだ。
「女性同士でもあるとは思いますが、男性同士になると多いようですよ。
……オスの本能、とでも言うのでしょうか」
「……はあ……、ホンノウ……」
「オスは本来、縄張り意識が強いですから。
瞬間的に嫌悪を抱くことも多々あるそうです」
「でもあれじゃあ話す気にもなりませんよね〜?
お友達いるのかしら」
「さあ」
「……まあ~~わたしはべつに、
彼と話すの嫌じゃないんですけどねー」
「…………」
困ったように、右手で頬を包み眉を下げる彼女に
スネークは、一つ。
石を投げた。