3-15「フィルターを通して」(1P)
(…………はあ────っ…………
……なんだったの、一体……)
総合服飾工房ビスティでの一幕。
厄介な空気を出す人間が店を後にして、すぐ。
心底疲れた声を胸の中に
指先でにぎる封筒に向かって息を吐き切るのは、着付け師のミリアだ。
いつもの職場。
自分のホーム。
そこでいきなり始まった
スネークとエリックの『無言バトル』。
挟まれたミリアの気苦労は、想像に容易いだろう。
体感、二ヶ月は老け込んだ気分である。
頬も口元も下がるし、笑顔なんて出ないし、密かに指は震えるし。
表情筋の『げっそりとした疲れ』を自覚して
(今の自分、やばいブサイクだな……
…………自信あるわ……)
と、胸の内で呟いていた。
しかし彼女は、ぐっと目を向け背を伸ばし
会費の封筒を持ったまま、カウンターの向こう側で待機しているスネークに向かうと、
「…………スネークさぁん、
……ほんとに知り合いじゃないんですか?」
「ええ、存じ上げませんねえ。
少なくとも私の方は記憶にありません。
知らない人間です」
『ほんとにぃ?』と眉をしかめながら聞くが、しかしスネークは崩れない。しれっと返され眉を下げるのはミリアの方である。
「……あぁ……、」
とひとつ項垂れる彼女は、勘繰るのが得意ではなかった。
それなりにものを考えるタイプなのだが、言われた以上のことを勝手に広めるのは好きではないのだ。
スネークの態度に
ミリアは気まずそうに頬をコリコリしながら、
「……ちょー態度悪くてすいません……
…………いつもはあんな────」
言いかけて。
脳裏によぎる、彼の態度。