3-14「愉快・不愉快・居場所ない」(4P)
(………………)
はっきり言って最悪である。
心の声すら殺して考えるほど。
本当なら、ミリアに『それ』も言ってほしくはなかったのだが、彼女はエリックとスネークの関係を知らないのだ。
彼女の行動を責められはしない。
────動くのなら、自分の方。
対応するのは、こちらの仕事。
彼は椅子の上で考える。
右手を拳に握りながら考える。
ここでいきなり立ち上がっては、ミリアが不思議に思うだろうし。スネークに声をかけるなんてもっての他である。
エリックは1人、眉根を寄せた。
あの時、あの瞬間。
スネークの声を認識した時から、表情を殺した。
まるで貝のように黙り込み、ひたすら密かな圧をかけた。
『速やかに立ち去れ』
『なんの用だ』
『帰れ。わかっているんだろうな』と。
もちろん自分の部下である、スネーク・ケラーに対してである。しかしスネークは、それをさらりと無視して入ってきやがったのだ。
ビジネスパートナーとしてはとても優秀。
しかし、こういうところが気に食わない。
エリックにとって『今』は
言うまでもなく 最 悪 な 状 況 である。
(…………しまった)
ミリアとスネークが
『オーナーはどこだ』とか
『外はどうだ』とか
『集金袋が、えーと』とか話をしているその隣で
エリックは静かに考えた。
(『油断していた』。
……それ以上に、言えることがないな。
……これじゃあ、スパイ失格だろう)
胸の内でつぶやきながら
ちらりと目で捕らえるのは談笑するスネークの顔。
その表情にイラつきを感じながら、素早く目を伏せ表情を固めて、奥歯を噛みしめる。
(……どこから見ていたのかはわからないが、そもそも視線に気づかないなんて。
……何やってるんだ、俺は。
……常日頃から、周囲に気は配っていたはずなのに。
ミリアに気を取られていたといえばそうだが、そんなものは、言い訳だ)
そう、内省しながら。
この男が声をかける前に見たであろう光景を想像し
────胸の内で舌を打った。