3-14「愉快・不愉快・居場所ない」(1P)
────それは、毎月の業務。
会費回収とご機嫌伺いの時間。
総合服飾工房ビスティーの軋む扉をそっと引き 音を殺して声を聞く。
店の奥から聞こえる、男女の声。
「……他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
いつもの店。
いつもの工房。
女性だけで穏やかに営む総合服飾工房。
しかし今日
そこで花開いていたのは
見慣れた男と、女店員の会話だった。
思わず目を見張る光景に、
「────こんにちは、失礼します」
スネークは、すまし顔をそのままに高らかに声をかける。
まるで『見ていますよ』と言わんばかりの、響く声で。
「……スネークさん!」
「こんにちは、ミリアさん」
「…………! …………」
その日 昼の3時を回った頃。
「商工会組合長」スネーク・ケラーが声をかけると
縫製服飾工房ビスティにいた男女は、全く違う反応を見せた。
自分の声掛けに立ち上がったミリアという女店員。
素早く表情を殺した様子の青年。
明と暗。
歓迎と拒絶。
はっきりと分かれた対応を、すました瞳で嘗め回すと
(…………ほう、これはこれは。
なるほど、そうですか)
”愉快”と言わんばかりに僅かに口元を緩ませ、呟いた。
商工ギルドと互いの利益のために連携を組んでいる
組織「ラジアル」のボスが
『お誂え向き』を見つけたのは知っていた。
しかし、どこの誰かまでは────
今までも、そして今回も
絶対に漏らすことはなかった。
のに。
スネークは、店の中。
順々に
────ミリア
────ボス
と 二人交互に視線を送る。