3-13「あっあっ、んっんっ。」(6P)
「────もう一回!」
「……!」
エリックの思考を、ミリアの声がかき消した。
少し驚き目を向ける彼に、ミリアはカウンターを乗り出し、
「もう一回!
いざ! 尋常に! 勝負っ!」
「……もう十分だろ?
『尋常に』って、何度も使う言葉じゃないと思うし。なにより君の腕が壊れる」
「こんなことで壊れるわけないじゃん!」
「…………はあ……、どうしてそうなるんだ?
まさか他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
「はい! っというわけで勝負!」
エリックが、ミリアのテンポのいい返しに
『はいはいわかりました』調の返事を返した、その時。
「────こんにちは、失礼します」
『…………!』
声は、突如耳に飛び込んできた。
聞き慣れたその声に、ミリアは立ち上がりエリックは僅かに震えて体を震わせた。
縫製工房ビスティーの入り口。
年季の入った扉を背に、こちらを向きながら微笑みを称える、その男。
「────お久しぶりです、ミリアさん」
「……スネークさん!」
胡散臭い微笑みに、澄ました表情。
糸のような目をゆみなりに弛ませ
ミリアとエリックに微笑む彼の名は
商工会組合組長 兼 調査機関ラジアルの窓口
スネーク・ケラー。