3-13「あっあっ、んっんっ。」(4P)
──彼がこの世に生まれ落ちて26年──
ダンスを求められたことはあった。
求愛されたこともあった。
スパイ活動の中、賭け事を持ち掛けられたことも、取引をしたこともあった。
──けれど、腕相撲なんて、した記憶もなければ求められたこともない。
そして、明らかに勝てない相手に勝負を挑む女の相手をしたことも
経験したことがなかった。
(…………何がしたいんだ、君は)
と呟きつつ。
ぎりぎりじわじわ。
『あと少しでも力を入れてやれば潰れる』というところでキープしつつ
彼は、未だ諦めない彼女に呆れかえった表情を隠すことなく、
「…………もう諦めたらどうなんだ?
勝てないよ、どれだけやっても」
「わっかんないじゃん!」
「……わかるだろ」
「ちょっとまって!
ほら見てちょっと上がってきた!
ふっふっふふふふ! さては!
疲れてきてるでしょおにーさ」
ぐっ!
べちっ!
「くああああ!」
100%勝てない位置からの減らず口に、思わず力を込めてとどめを刺すエルヴィス・ディン・オリオン閣下。
無残に潰れる、ミリア・リリ・マキシマム(着付け師 24才 女性独身)。
彼は、『勝つのが好き』であった。
負けるより勝ちを取りたいし
勝つためなら策を練る
しかし、この試合においては
ここまで嬉しくない完全勝利もない。
「…………4戦4敗〜〜〜〜っ……!
勝てない────っ……!」
「…………当たり前だろ。
もういいか? 手、離して欲しいんだけど?」
言いながら、未だ『ぎゅっ』と握られている手に目を落として物申す。
しかし、その手は離れない。
──────はあ…………
(…………何やってるんだ、俺は)
カウンターの上。
馬鹿げた寸劇、潰れる女。
付き合っている自分にも辟易とする。
『何やってるんだ』という気持ちで埋め尽くされていた。