3-12「取り引き」(P)
『魔法』というものを『魔具に込められている力と』して、認識はしていた。
しかし、目の前で見たのは初めてだ。
突如始まった魔法劇に、驚いたのはそうなのだが──
彼は、仮にも密偵である。
とっさに動けなかったことに、反省も滲み出る。
────しかし。
(…………不思議なものだな……)
彼は意図せず呟いていた。
驚いているのは、今の自分の状態に、だ。
いきなり、手の内に現れ、こぼれだした光にも
広がり、感じた温かさにも
嫌な感じはなかったのである。
まだ、繋いだままの手に目を落とし、エリックはしばし考えて────
「────で……。
何でも良いけど、手。
そろそろ離してくれないか?」
ふと、我に返って口にする。
魔法と会話で忘れていたが、カウンターの上で握手をしっぱなしの『今』は
はっきり言って、不自然なことこの上ない。
──しかし。
「?」
「いつまで握手してるつもりなんだよ、もう用事は終わっただろ?」
「────え。まだですね?」
「は? いや、終わっただろ?」
「いやいや、
まーだ残ってるじゃないですか~♪」
エリックの戸惑いに、返ってくるのはミリアの含みある楽しそうな笑い。
「…………?」
彼が、その総力をもって『残っているもの』を脳内検索している最中。
その答えが出る前に。
ミリアは、手をぎゅっと握りしめ、満悦の笑みで言った。
「んっふっふ♪
────最後までって言ったよね?」
「────はっ?」