1-4「総合服飾工房 Vsty」(2P)
「…………ここ、君の店なのか?」
「まさか! わたしはここの従業員。
オーナーは……奥にいるんじゃないかな?」
問いかけに、ミリアは簡単に肩をすくめて答えると、カウンターの最奥。
右奥のドアの前あたりに腹を乗せて、身を乗り出し手を伸ばす。
指先がドアノブを弾いて、
ふんわりと開く扉の隙間に『オーーナーー? 帰ったよー!』と、大きな声を流し込んだ。
『はぁーい』
彼女の声かけをうけて、扉の向こうから戻ってきたのは穏やかな女性の遠い声。
声の印象からして、おそらく初老の女性だろう。
オーナーの声を聞いて『よし』と小さく頷き、指先でドアを閉める彼女の前、エリックはもう一度。
様子を伺うように、問いかける。
「………………他に従業員は?」
「バックヤードに何人か。
針子さんがいるよ。
みんな職人さんでしゃべるの苦手だから、窓口はわたし」
言いながら、ミリアは深い茶色の髪を後ろでひとつに縛り上げ、台に置かれた荷物を広げてひょいひょいと拾いはじめた。
彼女の手の先。
慣れた手つきで回収された糸が、カウンター背後にそびえ立つ『糸が並ぶ棚』に並べられ、背景と化す。折り畳まれた布は一度広げられ、くるくると巻かれ、あっという間に 立ち並ぶ布柱に同化し壁になる。
そんな様子をカウンター上から見下ろすのは、仕立てなおしのメニューと料金が刻まれた『お品書き』だ。素材の木目もきれいに、堂々と店を飾っている。
「………………」
「────ねえ、どうしたの?
さっきから口数少ないね?」
「…………あ。
…………そうだな」
手元をカラにした彼女に、振り向き様に聞かれ、エリックは少し視線を惑わせ、
──── 一瞬 考え そして 答えた。
「……こういう店には、来たことがなくて。
ちょっと圧倒された……かな」
「ふーん?」
言いながら、右手で耳の後ろ辺りを掻くエリックは驚いていた。
こんな場所でこんなに圧倒されるなんて、思いもしなかった。
そんな胸中などつゆほども知らず。
歯切れの悪いエリックに、ミリアはカウンターに前のめりで頬杖をつくと、