3-11「ぼ?????????」(7P)
「はーよかったハッピーハッピー!
社会的に死んだかと思った、ふうううう!
九死に一生を得るとはまさにこのことですね! はあ──っ! よかた!」
と、背景に花なんぞを飛ばしながら
『キラン☆』と額の汗を拭う、現実の彼女にかき消されていく。
「………………」
そんな様子に言葉もでない。
ほっといてもホジティブな方に転がっていくのは楽ではあるのだが、転がり方が早すぎるのである。
百戦錬磨・敏腕スパイ・そして華麗なるオリオン盟主は『未知なる遭遇』に戸惑いながらも、それでもなんとか。
頭を働かせようとしていた。
(…………えーと、)
──────ふぅ──────…………
瞳を反らして息を吸い
そして彼は考える。
平静を装い、呆れ混じりの目を向けて
ミリアの楽観的な文言を聞きながら、歪む唇を隠すように頬杖を突き、ぐるりぐるりと思案する。
(────と、いうか?
……このやりとり、3回目だよな?
いい加減、名前ぐらい呼んで欲しいんだけど)
ぼっそりと呟き、こぼす愚痴。
実は、そこも地味に気になっていたのだ。
彼女の口から、ことあるごとに出てくる『おにいさん』呼び。
エリックはとっくに彼女に名前を名乗っているのに、ミリアは一向に『キミ』とか『おにいさん』とかでしか呼ばない。
諜報員ネームの『エリック』も
本名である『エルヴィス』も
名乗れば皆、すぐにその名で呼んでくるのに
彼女が口にするのは、なぜか代名詞。
「………………」
地味~に、エリックの胸の内、複雑な気持ちが噴出しはじめる。
(…………まったく。
マジェラの女性はみんなこうなのか?
名前で呼ぶ習慣がないとか?)
地味に刺激されている『彼のプライド』。
しかし。
(…………いや、そうじゃない。
そこに拘っている場合じゃない)
彼は無理やり首を振り、そして切り替えた。
彼女のペースに乗せられてどうする。
自分はスパイだ。
真相を調べるために、今後起こりうる価格高騰を防ぐために。
ここで、足踏みをしている場合じゃない。
”言う”と、決めた言葉がある。
”取る”と、決めた手段がある。
自身に言い聞かせ、
彼は、ゆっくりとその瞼を閉じる。
──────街のこと。
産業のこと。
国のこと。
領のこと。
────そして
「────なあ、ミリア。
……ちょっと掛けてくれる?」
「……はい?」
「────取引をしないか?」
#エルミリ