1-4「総合服飾工房 Vsty」(1P)
広がる光景、色鮮やかな糸と布の壁。
ごたごたと置かれた道具の数々。
「…………」
まさに工房。
見慣れぬ光景に目を泳がせるエリックを置き去りに、ミリアはスタスタとカウンターを回りこみ、何食わぬ顔で言うのである。
「…………お兄さん、ここにおいていただけると有り難いです〜」
間延びした、やんわりとした口調でポンポンと台を叩く彼女に、エリックは目を向けた。
彼女が叩くのは
カウンター横に併設された、広めの台だ。
さも当然のように、『ここ』と言わんばかりに待っている。
言われて『ああ、』と短く答えながら、そこに着くまで2、3歩。
エリックは、素早く瞳を走らせた。
────店の構造を 把握するために。
見える範囲で扉は四つ。
入り口がひとつ、左手に扉が二つ、右の奥にも扉が一つ。
店内は決して広くない。
奥に靴や帽子の並んだショーケース。
カウンターは高め。大人の胸ぐらいの高さ。
飛び越えようと思えば飛び越えられる。
カウンターの右奥の扉にある扉は奥につながっているようだが──
(────左の二つの扉は?)
店内を縦に仕切る壁に、2つ。
カウンター内と客側で、こしらえの違う扉が、こちらを向いて静かに佇んでいる。
(……店のつくりから、あれが勝手口ってことはないと思うけど)
などと呟きながら、彼女に言われるがまま、カウンター右奥の「大きな台」に荷物を置いた。
彼が荷物を置いた台には、大きく刻まれた十字の線。
見慣れぬ台に、エリックは思わず口を開く。
「…………これは?」
「これ? ああ、カット台。
布を切ったりするのに使う台だよ」
「…………へぇ……」
問いかけに返ってきたごく普通のトーンに、小さく答える。
大きなカット台は、布を広げても十分な広さの中心に、まずはおおきく十字にひとつ。そして升目状に細かく、薄くラインが掘られていた。
そんな、年季の入った台とカウンターの境目は、少々ごたついていた。
隅に積まれた鉄製の重りのようなもの。
作業動線を無視してカウンターにドンと置かれた『布をかぶった何か』。
そしてその背景には、ドレスや衣装が並んでる。
総合服飾工房というだけはある。
道具の数も衣装の種類も、桁違いだ。
初めて入った『未知の空間』。
おのずと、エリックの口から、言葉は漏れ出していた。