表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/592

1-4「総合服飾工房 Vsty」(1P)










 広がる光景、色鮮やかな糸と布の壁。

 ごたごたと置かれた道具の数々。


「…………」




 まさに工房。

 見慣れぬ光景に目を泳がせるエリックを置き去りに、ミリアはスタスタとカウンターを回りこみ、何食わぬ顔で言うのである。




「…………お兄さん、ここにおいていただけると有り難いです〜」

 間延びした、やんわりとした口調でポンポンと台を叩く彼女に、エリックは目を向けた。




 彼女が叩くのは

 カウンター横に併設された、広めの台だ。

 さも当然のように、『ここ』と言わんばかりに待っている。




 言われて『ああ、』と短く答えながら、そこに着くまで2、3歩。

 エリックは、素早く瞳を走らせた。





 ────店の構造を 把握するために。




 見える範囲で扉は四つ。

 入り口がひとつ、左手に扉が二つ、右の奥にも扉が一つ。

 店内は決して広くない。

 奥に靴や帽子の並んだショーケース。

 カウンターは高め。大人の胸ぐらいの高さ。

 飛び越えようと思えば飛び越えられる。




 カウンターの右奥の扉にある扉は奥につながっているようだが──



(────左の二つの扉は?)




 店内を縦に仕切る壁に、2つ。

 カウンター内と客側で、こしらえの違う扉が、こちらを向いて静かに佇んでいる。

 


(……店のつくりから、あれが勝手口ってことはないと思うけど)




 などと呟きながら、彼女に言われるがまま、カウンター右奥の「大きな台」に荷物を置いた。



 彼が荷物を置いた台には、大きく刻まれた十字の線。

 見慣れぬ台に、エリックは思わず口を開く。

 


 

「…………これは?」

「これ? ああ、カット台。

 布を切ったりするのに使う台だよ」

「…………へぇ……」



 問いかけに返ってきたごく普通のトーンに、小さく答える。




 大きなカット台は、布を広げても十分な広さの中心に、まずはおおきく十字にひとつ。そして升目状に細かく、薄くラインが掘られていた。


 そんな、年季の入った台とカウンターの境目は、少々ごたついていた。



 隅に積まれた鉄製の重りのようなもの。

 作業動線を無視してカウンターにドンと置かれた『布をかぶった何か』。


 そしてその背景には、ドレスや衣装が並んでる。


 総合服飾工房(オール・ドレッサー)というだけはある。

 道具の数も衣装の種類も、桁違いだ。




 初めて入った『未知の空間』。

 おのずと、エリックの口から、言葉は漏れ出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ