3-11「ぼ?????????」(1P)
────聞かされたことに、言葉が出ない。
服飾工房勤めの女・ミリアが、少し前に出会った青年『エリック・マーティン』。
一見、スマートで堂々としている雰囲気を纏った彼を、ミリアは『お金のない暇なお兄さん』とばかり思っていた。
出会ったその日も昼だったし。
二度目の訪問はとても長かったし。
なんだかやたらと色々話し込んでくるし。
まあ別に作業の邪魔になるわけでもないし、話し相手がいること自体は構わないので、手を動かしながら対応していたのだが────
密かに思っていたのである。
(仕事はいいのか……? このおにーさんは)と。
汚らしい身なりもしていないし、靴は一級品。
容姿も良いけれど『何をしているのかわからない暇な人』。
『出会った時もその次も、平日の真っ昼間にフラフラしているような人』。
彼女にしてみれば、まあぶっちゃけエリックの職業がなにであれなんでもいいのだが、とりあえず日中の仕事にはついていないだろうと思っていた。
それが
まさか
暇な青年エリックは、彼女の前
カウンターの向こう側
緩やかに組んだ両手を口元に含みのある笑みを浮かべ、こう言ったのだ。
「……実は……、
…………ウチのボスが困ってるんだ」
「……ボス?」
「そう。この領地の最高責任者。
エルヴィス・ディン・オリオン様だよ」
「────はっ?」
※
言われ、ミリアは完全に呆けた声をあげた。
今、今。
何を言われたのか、さ──っぱりワカラナイ。
(──えるッ、)
ビスと聞こえたが、空耳だろうか?
(────ぼっ?)
ぼす、と言った気がしたが、それも何かの間違いだろうか?
完全停止した脳の隅、かろうじて情報を処理するミリアの前。
エリック・マーティン……
いや、エルヴィス・ディン・オリオンは、きりりと彼女を見据えながら、堂々と