3-10「目を覚ましてこっとぉぉぉぉぉぉぉぉん!ううっ!こっとぉぉぉぉぉぉぉんっ」(5P)
今まさに
ミリアが困っている。
思わず『大丈夫だ』とか『そうだよな』とか
『なんとかする』とか口走りそうになった。
────しかし
彼は貴族だ。金もあるし地位もある。
たとえ綿やシルクの値が上がっても、しばらく生活に困ることはないだろう。
それに、庶民や小売店の細かいやりくりについてなど、わかるはずもない。
わからないことに、安易に同意など出来はしない。
けれども、彼は諜報員でもある。
”気休めの言葉”など、捨てるほど吐いてきた。
(…………そんなこと、わかっているはずなのに
……わかったうえで、今まで、使ってきたのに)
彼の中、生まれた戸惑いを置き去りに、脳が見せるのは『この先』
困窮する彼女たちの姿だ。
先に待ち受ける混乱だ。
見える。
かなりリアルに、鮮明に。
(…………も困るんだろ。
そういうことだよな……)
綿・シルク・毛皮。
不自然な価格の高騰と、困り悩むミリアを目の当たりにして、だんまりを決め込み悩むエリックのその前で
『ああああ!』と叫びながら頭を抱えて騒ぐ彼女は
そのままダァン! と立ち上がり、ビスティーの天井に向かって声を張る!
「────っめいしゅさまーっ!
盟主さまあああああ!
きこえますか!
民は! 民は困っておりマァァァス!!」
力いっぱい、目いっぱい。
神に訴えかけるように、叫ぶ、彼女を前に
「──────……。」
ずっと考え込んでいた彼は──……
(────────…………)
まぶたを落として
肚を据え
静かに、顔をあげた。
「……なあ、ミリア。
……それなんだけど」
「……?」