3-10「目を覚ましてこっとぉぉぉぉぉぉぉぉん!ううっ!こっとぉぉぉぉぉぉぉんっ」(2P)
「まって。ありえん。
単価15メイル上がるとか、マジであり得ん。
何が起こった? なんで?」
店について早々。
買い込んだ素材もそのまま、手で頭を抱え、どこかを見ながらぶつぶつと呟くミリア。
「え、だって綿だよ、綿。
庶民と我々のお友だちが、どうして……!
いままでこんなことっ……、ああああああああ!」
「……………………」
やかましいミリアの隣で、黙り込んで考えるのはスパイのエリックだ。
彼女の叫びを右から左へスルーして、口元を覆いながらカウンターを睨みつけている。
(──『毛皮』と言われてそれだけに注目していたけど……糸じゃなくて綿とシルクまで?
…………これは、想定外──
というか、予想していなかったな……)
「ねえ、なんで綿?
なんだろ、えええ? 何に使うの、そんな在庫切れるなんてことあるっ?」
共に服飾産業に大きく関わる彼ら。
カウンターを挟み、ビスティーの店内は──
静寂と騒音ではっきりと分かれていた。
(…………綿の高騰は痛いだろう。服飾だけじゃなく、寝具や他の産業にも関わってくるよな? 素材自体の価格の底が上がると、商品として出す時にはさらに上乗せしないと利益が出ない。
…………うちの産業の6割は服飾だぞ。
……どうするんだよ。
下手をしたら、来期の税収にだって響くことになる)
「ねえコットン?
あなた、いつからそんな高い女になったの?
わたしと『ずっ友だょ……!』って言ってくれたのは嘘だったのコットン!」
(──いや……、ここは逆に捉えるべきだ。
”毛皮に引き続き、綿とシルクの高騰に気づけた”ことは、大収穫じゃないか。
おそらく、まだ報告も上がっていないはず。
同じ服飾の材料で、同じ時期に高騰している。
これが、無関係だとは……思えないよな)
「確かにね?
綿は気持ちいいけどさあ、毎年こんなことなかったのに!
どこかでボーンの大売り出しでもやってるのかなー!?
それとも、流行ってる?
いやそんな話は聞いてない!
────コットン!
ねえ、目を覚ましてコットン!」
黙るエリック。
布に向かって話しかけるミリア。
はっきり言って店内はカオスである。
側から見るなら多いに楽しい光景であるが、本人たちはそれどころではなかった。




