3-10「目を覚ましてこっとぉぉぉぉぉぉぉぉん!ううっ!こっとぉぉぉぉぉぉぉんっ」(1P)
ミリアは────愕然と呟いていた。
「──うそ……でしょ……?」
「…………」
服飾工房・ビスティー店内。
ずん……と落ちる重い空気。
問屋が述べた事実に、カウンターの内側で頭を抱えるのは、ミリア・リリ・マキシマム。この店の着付け師であり、カウンセラーだ。
彼女は今、生きた心地がしなかった。
そんな彼女の向かい側。
カウンターに頬杖を付き、綺麗な顔を険しく砥ぐのは、スパイ エリック・マーティンである。
割り引き目的で
布の問屋に出かけたのが、約1時間ほど前。
(ふふー♡ 荷物持ちもいるし、安く買えるし、スペシャルラッキー♪)と、意気揚々と店を訪れたミリアに、衝撃が走った。
問屋のおばさんは言う。
『────ごめんねえ
先月からシルクと綿もあがったのよ~』
ミリアは動揺した。
『なんでっ!?
えっ、シルク……は、わからなくもないけど! なんで綿までっ?』
エリックは問う。
『…………それ。いきなりですか?
それともじわじわと?』
困る常連のミリアと、見慣れぬ『ミリアの付き添い』におばさんは答えた。
『んン~……
シルクはまあ
大体この時期にハネるからねえ。
でも、綿のほうはいきなりでねー?
先々週まで普通だったのに、発注かけたら『在庫不足』って言われちゃってねぇ。こっちも、困ってるのよ~。夕飯一品減らさないとだわぁ。
……ごめんねぇ、ミリアちゃん。
メーターあたり15メイル増しなの。こっちも生活があるの。悪いわね?』
──と言われ、問屋を後にして、十数分。