第二章 だから、どうしてこうなった⁉︎(3)
「朝、か」
マンジリともせずに一夜が過ぎた。
声が出たことで男に戻ってるんだと知る。
そういえば声が封じられたことについては母も驚いていた。
長い歴史の中でそういう例は初めてらしいので。
なにか理由があるかもしれないから、それとなく調べてみると母は言っていた。
今はどうでもいいことだけど。
ドレスを脱いで母がこっそり持ってきてくれた王子の正装に着替える。
男に戻ったら父との対面。
それは母に言われていたから。
「それにしても慣れないなあ。女から男に戻ったときの女装状態」
女でいるときも男物を着ていれば、そういう違和感もないんだろうけど、男物を身に付けるにはノエルとしての俺は華奢すぎる。
元々男としての俺が華奢なこともあって、これが女になると物凄く小さな女の子といった感じで、男物を着せたらある種の男共が諸手をあげて喜びそうだ。
ノエルのときに17歳に見られたことがないって、女としての俺ってどれだけ童顔って感じだけど。
とりあえず兄貴とオーギュが怖い。
父さんはどうやら事情を知っているらしいから怒らないだろうけど、ふたりはなにも知らされてないって母さんが言ってたし。
そもそもオーギュは俺を毛嫌いしてたから、この事実を知ってもからかって遊んだりするくらいだろうけど、兄貴は……。
俺を溺愛している兄貴が俺の女性化をどう受け取るか。
それが怖くて母さんにも口止めしてしまった。
だから、言い訳は必要なんだけど。
ふう。
ため息が出る。
ドレスをクローゼットに入れて閉じた辺りで、バンッと扉が開いた。
振り向けば真っ青な兄貴が立っている。
「あ。おはよー。兄貴」
「呑気に挨拶なんてしてる場合じゃないっ。昨夜はどこに行っていたっ!?」
「どこにって。俺が母さんの部屋にいる辺りでわかるだろ? 母さんと逢ってたんだよ」
「嘘だっ!!」
「なんで嘘になるんだよ!?」
ノエルの姿だったけど俺はきちんと母さんの下にいたぞ!!
嘘はついてねーよっ!!
睨むと兄貴は何故か怒りを和らげようともせずに、ずんずん俺に近付いてきた。
「兄貴?」
なんだか怖い。
圧迫される。
「そなたの姿が消えた直後わたしはすぐに義母上の下を訪れた。だが、そなたはいなかった。その後もう一度きたときには何故だろうな? 黒髪の、あのノエルという少女がいた」
ギクッとした。
あの話し合いの場合を見られてた?
「いつ……あの少女を宮殿に連れ込んだ?」
「兄貴? 痛いってっ」
手首をきつく握られて悲鳴をあげる。
両手首を握りしめられ、その手を持ち上げられて壁に縫い付けられる。
痛くて暴れたが、そもそも腕力勝負では兄貴に勝てない。
「そなたはだれにも渡さない。1年半も奪われていただけでも許しがたいのにっ」
「兄貴っ。痛いっ。骨が折れるってっ」
腕を捻り上げられたまま背中に腕を回され抱かれる。
ただ痛いだけの抱擁。
抱擁だなんて感じられないほど痛みしかない。
「サイラス様? なにをなされておいでですか?」
救い主!!
俺は一気に顔を明るくした。
こういう場面見られて恥ずかしいとか、そういう感情も沸かない。
心を占めるのは「助かったっ」この一言だけ。
兄貴は渋々と言いたげに腕を離した。
「すこし取り乱しました。すみません。義母上」
ズルズルとその場に座り込む俺に母さんが近付いてくる。
「大丈夫ですか、シリル?」
「……イテーよ」
甘えたようにそう言った。
「すこし鍛えなければいけませんね。腕力が落ちているようですよ?」
腕力の問題じゃない気がするけど。
母さんこなかったら、俺、どうなっていたか。
「では謁見の間で逢おう」
それだけを言い残して兄貴は出ていった。
顔色も変えてないのがなんだか憎らしい。
母さんにさっきみたいな場面を見つかっても、全然動揺してないみたいだ。
「あなた……女の子になった方がいいのか、ならない方がいいのか微妙ですね」
「……母さん」
「サイラス様。どうやらあなたに本気だわ」
「冗談っ」
「だってわたくしにあんな場面を見つかったのに、特に言い訳なさいませんでしたわよ?」
母までそう思っているという事実が堪えた。
もしかして姿を消したせいで兄貴を煽ったんだろうか。
弟に向ける感情以上の愛情を注いでくれる兄貴に憧れと同時に負担も感じていた。
だって俺にとっては「男」じゃなくて「兄貴」だったから。
なのに……。
俯いてきつく唇を噛んだ。
昨日オーギュストとした会話が脳裏を過って。
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