後3
自分で書いていてもどことどこがつながるのかさっぱりわからない。
その後、俺は師匠と色々な所に行った。俺たちが旅していた頃はまだ帝国も王国もそこまで大きい勢力ではなくて、頻繁に戦争が起こっていた。
それでも、師匠との時間はとても有意義で、濃くて。でも、これが有限だと知ったのは、彼女を失った後。彼女へ抱いた感情の大きさに気付いたのも、彼女が俺の中で占めていたおおきさに気付いたのも、彼女が俺の前から姿を消してから。
あの日は、えらく風の強い日だった。不思議と雲が渦巻いていてこんな天は初めて見たと、呑気にも感心していた。
師匠は少し顔色が悪かったように思える。何時ものように森の中を探索している時もぼうっとして佇んでいることが多々あった。でも、何かあったのかと聞けば何もない、弟子が師匠の心配などしなくていい、といつもの不遜さを見せた。
だから俺は安心した。
俺は、師匠の正体を理解しているつもりだった。彼女自身が神の失敗作のお人形と自分を嘲笑うのをよく聞いたから、神とつながりがあることも、いざとなれば人間の戦にも神の代わりとして手を下すことも分かってはいた。
だけど、経験しなければ慣れないことなんて、この世に沢山あるわけで。
たまたまそれも、そんな類のものの一つだっただけで。
だけど、俺自身にとって師匠はどんなものなのかを俺自身が分かっていなかった。それもこの傷を大きくする原因だったのかもしれない。
どこから火の手が上がったのか、木々があかに染まりだす。
「師匠、一回別の所に避難する?それとも消火でもする?」
「馬鹿言うな。私は逃げる。」
そう。きれいごとなど言わないその不遜な態度は寄りかかるには十分だった。お前も来るだろう、と差し伸べられた手は、依存するには十分だった。その手を取って、進もうとした。
だけど。
背後から伸びた赤の炎にその華奢な身体は、無属性の色彩は、絡め捕らて。
それはまるであの時みたいで。幼馴染みがその尊い命を失う様を見ているようで。
出来ることはあった。あの時の記憶を師匠に投影したのは悔やんでも悔やみきれない。
「少し、待っていてくれ。すぐ戻る。」
師匠の声が響く。遠くに行ってしまう、いやだ、いかないで。
本能で、その手を握りしめようとした。
だけど。それは叶わず、握りしめたかった手は空に溶けた。
あの手を取れていれば。呆然となどしていないで有効な手を打てていれば。
後悔が内側からじりじりと、身を焼くようだ。いくら後悔しても時は戻らないのは分かっているが、なかなか分かろうとしてくれない自分がいるのも事実だ。折角師匠が教えてくれた未来視の魔法も咄嗟には活用できない。駄目な弟子だ。師匠が戻ってきたら何て言って、どんな顔をすればいいんだろう。彼女は、俺に失望しただろうか。長らくともに旅をした弟子のくせに、いざというときは何もできない。何も学んでいなかったと思いはしなかっただろうか。
「………」
しばらく後悔に沈んだ後、俺は腹をくくって彼女を待つことを決めた。
“ すぐ戻る ”
神にとっての「すぐ」と同じくらい師匠の「すぐ」は信頼してはいけないことを、この数百年間で思い知った。全く。彼女という人はいつも俺の想像を超えて、何もかもを超えて、何も誰も彼女を縛れない。
でも、今の俺は彼女にもう一度出会えることを知っているから。
そう、彼女が俺の職場に侵入者じみた装いで駆け込んでくるまで、少し待ってみよう。