中2
「店主は?」
「ああ、新しく仕入れなければいけない石があったようで、私に店番を任せて朝方いなくなった。」
「ふーん、まあいいや。あのさ、あんた、俺の師匠になったんだろ?魔法を、教えてくれるんだろ?」
「うん。魔法しか教えられないしね。」
「俺は赤の魔法の色を持ってはいるが、無属性も持っているから一応すべての魔法を使える。」
「ああ。だが、その様子ではどれもあまり磨いてはいなさそうだな。もったいない。」
「そ、それはいいから。俺に、昨日の魔法を教えて。魔法の、うまい閉じ込め方を。」
「へえ、黒の魔法ね。いいよ。」
よかった何も言われなくてーと思っていた。が。
「でも、お前はまず基礎ができていないから、そこから始める。」
「きそ?」
「さあ、先ずは魔力を流すのに慣れろ。今まで仕事で使わない限り練習などしてこなかったようだしな?」
「ハイ…。」
初歩から、ということなので先ずは魔力の流れを確認するところから。催促されて手を握り合う。
「私が流す魔力を感じて、ほら。」
「あー、俺の中から零れるんだけど。」
「それを捉えて循環させて。」
「…あ、師匠、なんかやばい。俺のも一緒になって出てく。」
「うん。それを私に流してごらん?」
「……えぇ?反発してるけど。」
「だってお前のほうが弱いからね。」
「くっそ…。」
とか喋りながら魔力を交互に流す。するとそいつらが体のどこら辺を流れているのかをなんとなく捉えることが出来るようになり始めた。
師匠がちょっと休憩、と言って消えた隙に一人で魔力を感じてみる。ここを通るときにちょっと詰まってるような…勢いをつければ滑らかな循環になるだろうか。少しずつ流す量を増やしてみる。なんだ、結構楽勝じゃないか。自分の魔力すべてを体にいきわたらせるには回路の把握が足りなかったな。
「…おい。」
不意に後ろから声をかけられてヒッ、とおののくと、師匠が少し顔を顰めた。と同時に体を固定させられその顔が近づく。
「え?!何を」
「いいからじっとしていろ。」
ぱかりと開いたままだった口の中に彼女の舌が侵入し、自分のものと触れると魔力が流れ込む。その勢いには先ほど慣れていたのでそれを押し返すと今度は魔力を吸われる。
………これいつまでやってればいいんだ?
師匠が流した魔力の暖かさと甘さの余韻を感じながらも自分の魔力に舌が痺れ果てた頃、やっと解放された。
「もーなんだよいきなり!」
「…お前が慣れないうちから多量の魔力を循環させるから、体が追いついていなかった。それは分かっていたな?」
「…あー、うん。」
いや、実感が湧いていなかった。そもそもこれは本当か?もしかして俺襲われたの?さっきまで一つも持たなかった羞恥を今やっと持つ。顔に熱が集まるのが分かった。
「お前を襲ってもいないしお前から何かを奪おうという気力もないので安心して聞け。」
「あ、ハイ。」
注意された後も説明が横から横に流れていく。
今のは何だ?見事にばれたな。そんな顔に出てただろうか、うーん、確かに今のは隠し通せた自信がない。結構失礼なことを考えたから謝っとくか、すみません。
折角の指導の最中にどうでもいいことを考えていると、また叱られた。なんでわかるんだ?
時間がないと言いつつも魔法の基礎から始め、期限まであと半月しか残っていないような状況になってようやく魔法を石に閉じ込めるやり方を教わることが出来た。
「魔力がどうあれば一番小さく最大出力となることが出来るか分かるな?」
「まあ、想像はつく。」
こういうのを教える時に「何を想像するかが大事」と言う人がいる。が、俺の師匠はそんなことしなくていいという。取り敢えず小さくしとけ、と。大抵は小さくするだけで出力が下がることなどないと。
まあ確かにそうかな、とも思いながら自分の魔力に集中してそれを練習用の石(買わされた。これは仕方ないので自腹)に注ぐ。透明な石が少しずつ色づくこの瞬間が好きだ。
黒の魔法で流れを補助し、注いだ魔力が零れないよにそっと包む。前よりその過程に神経を使うようになって、魔法をたくさん閉じ込めるのって難しいんだー、と理解した。ただまっさらな魔力を注ぐだけでもこんななのに、魔法を閉じ込めるとなればさぞつらいことだろう。
練習がちょうど一息ついたので聞いてみようかな、と思っていると師匠が話し出した。
「もし自分ですべてをやるのが心配なのであれば私が補助するのも吝かではない。」
「え。」
「魔法を閉じ込めることと閉じ込めるための魔法を構築するのを分業すればいい。そう言っている。お前はまだ自分がそれを両立できないと感じているのだろう?」
「…そうだけど。」
「納期もあるのだろう?できることは後々増やせばいい。」
「…あのさ、師匠俺の心、読んでたりする?」
一瞬の沈黙。
「そんなことはない。そんなもの馬鹿げた妄想だ。」
「でも、時々何で考えてることが分かるんだろうって思うんだ。」
さらなる沈黙。
「…お前がどうしても知りたいなら自分で解明してみてはどうだ?仮にも無属性なのだから魔法の構造を見様見真似でできないこともないだろう。」
「一回でいいから今の魔法使ってみてください。」
「…ほら。」
眼球に魔力を込めて師匠の魔力の動きをよく見る。師匠の身にその魔法は刻まれているのだろう、自分の手でわざわざ魔法を構築せずに魔力が魔法を形作る。師匠が魔法を使う様子を見慣れてきた俺でも見とれてしまうほどに美しい、魔法の光に照らされ囲まれたその姿。