初見ダンジョンは慎重になる
スレでの相談に従い、ダンジョンへと突入する。
アイテムも非常用に解毒薬など揃えているので、おそらく問題なく攻略できるだろうが……一応は用心しながら進む。
「お兄ちゃん、いつになく慎重ですね」
「もっと、熱く、なれよ」
「君らねぇ……っていうからむらむさん、流れで一緒に来ましたけどいいんですか?」
「あたしも、欲しい素材、ここで、手に入るから」
「利害の一致ですね。三人いれば、不意打ちも大丈夫ですから」
「そもそも不意打ちするモンスターとかいたっけ?」
「トカゲの海賊団とかしてきたですよ」
「オオカミ盗賊団、とかも」
「あ、そっち系か……トカゲ?」
「正確には、リザードマン」
「大陸南東の海賊のアジトにいる奴らです」
「あー、前にディントンさんたちが捕まってアクア王国に飛ばされた時の奴らか」
「前にアリスとらむらむさんと、あともう一人、三角州さんって言うんですけど、その三人で挑みに行ったですよ」
「経験値効率、うまうまだった……やり過ぎて、その次の、パッチで、修正、されました」
「何してんの」
(叔父さんからガチ説教されたです……バグじゃなかったから特にそれ以上のことはなかったですが)
「まったく……ところで二人とも、解毒方法は用意してあるんだよね?」
「火山、だから、鉱物系の、有毒、ガス……ガスマスク、とか?」
「いや、ゲームなんだから解毒薬か解毒魔法で大丈夫だから。一律で毒状態だから」
「全部ひっくるめて毒ですからね。猛毒とかちょっと違うのありますけど」
全て同じ解毒方法で解除可能である。現実だとこうはいかないけど、そこはゲームだからという魔法の言葉でスルーする。
ちなみに今回僕は【海賊】だが他の二人の職業はというと……
「あたし、今日は、【遊び人】だから」
「なんでそれにしちゃったんだよ……」
「アリスは【僧侶】です!」
「……え? まって、え? なんで!?」
「そこまで驚かなくてもいいじゃないですか」
「いや、だって回復魔法を使うにしても【演奏家】のほうがスキル充実しているじゃないか」
「それはそうなんですけど、その肝心の回復効果のある演奏スキルをとるのに【僧侶】のクエストを進める必要があるんですよ」
「あー……なるほど」
つまり、アリスちゃんはレベル上げのためと。らむらむさんはなんでそれにしたのかわからないが。そうして彼女のほうを見ていると、僕が何を言いたいのか悟ったのか一言だけ告げてくる。
「気分」
「それ言われるともう何も言えないんだけど」
「らむらむさんって、結構その場のノリで動くですよね」
「特に何度か一緒に遊んでいるとその傾向が強くなるんだけど……」
「あたし、内弁慶」
「意味として正しいのかわかんないんだけど……なんかもういいや」
とりあえず、先に進もう。僕とらむらむさんは素材集め、アリスちゃんはレベル上げに訪れたのでそもそもボス討伐は二の次であった。
だからこそ、適当に会話しながら進んでいるのだが……気をつけなくてはいけないのは、洞窟をすすんで開けた場所に出ると所々細い道があって、足を踏み外すと溶岩に落ちるような地形というところだろう。っていうかどこぞの名作アクションRPGで見たことあるぞこういう光景。
「ゲームには、よくある、光景。明らかに、熱で、道が溶けそう、それでも、歩ける感じの、アレ」
「お兄ちゃん見てください! たまには武器を使ってみようと思ったですが、木製の杖が全く燃えないですよ!」
「……まあ、武器使い捨て系のゲームじゃないしな」
「耐久値は、あるから、極低耐久値の、壊れ性能、武器を、買い集めて、使い捨てる、米帝プレイ、する人も、います」
「どこにそんな金があるんだよ……」
「ちなみに、ニー子さんじゃ、ないです、よ。月の限度額、あるって、前に、愚痴ってました」
「それ限度額無かったらやっているやつ――ってオイ、リアルバレスレスレだろ」
「あの人の、場合は、今更」
まあ……時折ぽろっとこぼしていたし、廃人プレイヤーなのに未成年というのは知っているが。
なお極低耐久値の壊れ性能武器であるが、一度使うと壊れるような耐久値しかないが、アホみたいな火力の武器のことだ。僕も一つだけ持っているが、使うにはもったいなく、売るにしてももったいないなぁと倉庫の肥やしと化している。
「そういえば出てくる敵、どんなのがいるんですかね?」
「たぶんゴーレム系の類だと思うけど――」
と、そこで溶岩から何かが飛び出てきた。人の腰ぐらいの大きさで、ぎょろりとした眼と、大きなヒレを持つ、ハゼのような見た目のモンスターだった。
「うお!?」
「いきなり出てきたですね」
「溶岩魚。そこまで、強くはないけど、溶岩弾を、口から、吐き出すから、要注意」
「あたったら延焼ダメージ喰らいそうですね」
「実際、耐性が無いと、結構痛い」
とは言うものの、ここまで来て延焼対策していないわけもない。三人とも装備品でそのあたりカバーできているし、いざとなったら僕がマーメイドを召喚すれば何とかなる。
というわけで、溶岩魚もあっさりと撃破。というか道中の敵って基本的にHP低いから、適正レベルなら2、3発で倒せるんだよね。僕らは大幅に適正レベル以上のステータスになっているからワンパン撃破余裕だった。
「……こう、大幅に上になったステータスで格下を蹂躙するのってなんだか悲しい気分になるんだけど」
「それが、世の常。RPGの宿命」
「クエストを進めるか、素材集めぐらいにしか適正よりも下のエリアには来ないですけどね」
「適正といえば、近々、新エリア実装、の噂が」
「どこかで聞いた覚えがあるな……大型アプデでいろいろと新要素追加してくるとか。アリスちゃんは何か知っている?」
「いえ、とくには……ただ、しばらく先のアプデ内容は大体出来上がっているそうですよ。バランスをチェックしながら実装時期をうかがっているみたいです」
「バランスかぁ……プレイヤーのエリア移動のテコ入れって更に大きなマップを移動させる気満々な運営側の意図が見えているんだけど、らむらむさんはどう思う?」
「あたしも、そう思った。たぶん、今後の、アプデで、新大陸か、何か、高レベル向けに、新コンテンツが、実装、される」
「そう思うよなぁ……」
あくまでも噂話だが、僕やめっちゃ色々さんは何かしら大きなコンテンツが実装される前段階として、ここ最近の新システム実装だと思っている。
僕としては楽しければそれでいいのだが。
「会話片手間に作業のようにモンスターを撃退するのにも慣れたですね……ところでらむらむさん、さっきからなんで投げナイフしか使っていないですか?」
「だって、【遊び人】の、スキル……下手すると、自爆する」
「なんでその職業で来たですか」
「気分」
「……それ言えば許されると思わないほうがいいですよ?」
「アリスさん、こわい」
「君ら案外仲いいね」
口は怖いが、アリスちゃんはにっこり笑っていた。いや、逆にそれが怖いって人もいるかもしれないが。とはいえ、この場では冗談であることは分かっているので、僕も仲がいいと評したわけだけど。
そんな軽口のたたき合いの中でもモンスターたちは襲ってくる。溶岩魚だけでなく、フレイムスライムや、火炎コウモリ、リトルゴーレム(炎)など。まあ、どいつもこいつもワンパン撃破ですが。
時折地面から毒ガスが噴射されるが、マーメイドの支援をかけていればそれも大して気にならない。
「楽勝でクリアできそうだなー」
「そうですね……お兄ちゃん、これは楽しいに入るですか?」
「素材集めとレベル上げは楽しいではなく、日課ととらえるべし」
「つまり楽しいわけではないと」
「場合による」
基本的には先の楽しさのための投資と考えている。
一方的に蹂躙される中で、勝ち筋を見出すのもそれはそれで楽しいが、あれはたまにやるからいいのだ。そう、今も挑戦中の古代遺跡しかり。
「あ、宝箱発見」
「ホントです……何が入っているですかね?」
「……開けます?」
「いいアイテム入っているかなー」
「…………ところで、アリスさん、知っていますか?」
「何をです?」
「ミミックという、モンスターを」
僕が宝箱を開けようとした瞬間、上半身をぱっくりといかれて、天地が逆転したかのような錯覚を覚えた――いや、錯覚じゃないや。噛まれているせいで足が上向きになったのか。
ちなみにミミックとは宝箱の見た目のモンスターで、開けようとしたプレイヤーに噛みついてくる、いやがらせ的な奴だ。
「お、お兄ちゃーん!?」
「様式美、なので、一度は、体験して、いただこうかと」
「言っていないで助けようです! あと、そういうのいいですから! ミミックだって知ってたならなんで教えなかったですか!?」
「いや、面白いかなって」
「まあ、僕も同じ事しそうだから怒るに怒れないんだけどね」
「お兄ちゃんはなんでそんな恰好なのに冷静なんですか!?」
いや、レベル差のおかげであまりダメージ喰らっていないんだよ……しいて言うなら、強制的な逆立ち状態が気持ち悪いので、何とかしてほしいぐらい――っと、体を思いっきり動かしたら普通に立てたわ。
「とりあえず、地味にダメージ喰らい続けているからポーション使う」
「えぇ……」
「攻撃して、外す?」
「うーん…………視界が暗くなければそのまま進むのもアリだったけど、これじゃあ足を踏み外して溶岩に落ちそうだから外してほしい」
「了解」
「……お兄ちゃんは既に、まともなプレイヤーの道は踏み外していると思うです」
「何をいまさら。アリスちゃんも筆頭じゃないか」
「言い返せないですッ」




