火山ダンジョンへ
結局終わってみれば、真面目に走っていたアドベン茶さんの勝利という、至極真っ当な勝ち方をされた僕らである。上位入賞したことにより改造パーツが手に入ったので多少は【自転車】の速度も上がったけど……勝ちたかったなぁ。
僕たちがゴールした後も続々とプレイヤーたちがゴールしたわけだが、結局まともに走ったほうが良かったというオチは率先して乱闘したプレイヤーたちを落ち込ませるには十分だった。あと、ケチャップソースさんに『ほらー! ズルいことするからそうなるー!』って怒られたよ……うん、今後はもうちょっと考えてから行動しよう。
どっと疲れたレースの翌日、ハロウィンイベント&スクリーンショットコンテストへと戻ろうと考えていたが……よくよく考えたら特別これをやる、みたいな方針があるわけでもない。なので、何かいつもと違うことをやろうと思ったんだけど…………
「たまには戦っていないモンスターと戦いたい。最近、ほとんど同じ相手周回していたから、違う風を呼び込みたいんだ」
「そうですねー。普段は島の周りの獣系、魚系、あと海底神殿とかリヴァイアサンとかの周回ばかりでしたし」
「それと、古代遺跡で死闘ね」
「たしかにそれも普段の光景ですけど」
「……いや、死闘が普段の光景って」
アリスちゃんと普段の行動について話していたらみょーんさんからツッコミが入った。
隣ではライオン丸さんもジト目で僕らを見ている。
「あんまり死に過ぎると、またレベルが下がるぞ」
「それを言われると痛い……でも、最近はなかなかいいタイムで先へ進めるようになったんだ」
「アリスは手前の辺りでレベル上げと素材集めぐらいにしか使っていないですけど、お兄ちゃんは最深部まで行こうとしているですよね?」
「うん。結局は死に戻るんだけどね」
「どうやって先へ進んでおるのか……おとなしくレベル上げてからのほうがいいのではないか?」
「それはそうなんだけど、ボスってこっちのレベルと人数である程度強さが変動するじゃん。ワザと低いまま行くのも一つの手かなって」
「なるほどのう……まあ、道中の雑魚は強さ据え置きじゃから結局ある程度レベル上げが必要なんじゃが」
「そうなんだよねぇ……機動力も何とかなりそうだし、あとは火力問題をどうにかしたいな…………やっぱり爆弾の素材を仕入れるか」
「結局それなんじゃな」
「……あ。それなら、火山ダンジョンなんていいんじゃない?」
「火山ダンジョンか……」
「たしか、まだクリアしていなかったわよね?」
みょーんさんの言う通り、火山ダンジョン――火山地下にある、トロッコでの移動をする大型のダンジョンだ。さらに地下にはヒルズ村とは別の古代遺跡も存在する。この場でみょーんさんが言っているのは、その前部分の鉱石などの素材が多く手に入る場所のことだ。
トライアスロンの時にも少し話をしたが……たしかに、そこならまだ作っていない爆弾の素材も手に入るか。レシピ自体は解放しているんだけど、未製作のものが結構あるし。次のレシピ解放のためにも挑んでみるのも悪くはない。
「じゃが、あそこは耐性系の装備がないときつかったハズじゃぞ」
「あー……そこらへん大丈夫?」
「僕は職業を【海賊】にしてマーメイドの補助を使えばなんとか」
職業の特性である水系召喚獣の性能強化により、支援効果も上昇するので火山でも燃えずに済むはずだ。あと、いつの間にか水属性特化装備になっていたので素で炎属性の耐性もある。
ちなみに、これまであまり注目はしていなかったが装備ごとに属性耐性の数値が存在している。よほど強力な属性攻撃か、今回のように耐性必須ダンジョンでもなければ注目しない数値なのであまり気にしていなかったけど。
「アリスも元々炎魔法特化でしたので、装備に耐性がついているです。今のチャイナドレスも、【水のドレス】ですから炎と水耐性がついているですよ」
「そういえば、二人とも元々炎、水に対して強かったわね……」
「じゃったら大丈夫じゃろう。敵もそれほど強くはないからの。ただ、一つ注意しないといけないことがあるんじゃが、知っておるか」
「昨日ちょっと聞いた。トロッコで移動するところとか、落ちると溶岩にドボンだって」
「うむ。いっそ村長は久々に職業を【村長】にして奥義で耐性つけたらどうじゃ?」
「あー、そういえばそれがあったか……」
【村長】というより、【鍛冶師】の奥義スキルだが……火炎、爆発の完全耐性だったっけ。たしかにあれば便利だけど、制限時間と再使用までの時間がネックだ。
ソロで駆け抜けるならアリだし、採掘効率もいいから久々に【村長】にするのもアリだけど……
「いや、出てくる敵どうせ弱点水、ってのばかりならむしろ【海賊】で戦ったほうがやりやすそうだし、そっちでいくよ」
「それもまたアリじゃな」
「適当にがんばりなさいな。ワタシは砂漠で欲しいスキルのスクロールがドロップするって聞いたからそっち行くけど」
「ワシもフレンドと装備製作合宿があるから、そちらに行くがの」
「みょーんさんはいいけど、ライオン丸さんのそれはなんなんだよ」
「たくさん作りまくって、お互いにレシピの解放条件を調べるのが目的じゃ。一人でちまちま作るより効率がいいからの。まあ、終盤は無言でひたすらウィンドウをタッチするお仕事になるんじゃが」
「それはそれで地獄絵図では?」
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火山ダンジョン。ドワーフの工業都市近くに存在する、大陸唯一の火山の地下に存在しているのは説明したが……僕も詳しくは知らなかった。まず麓に炭鉱の入り口みたいなところがあり、そこから内部に入るのだが……更に入り口が複数あるとは思わなかった。
「どこから行けばいいです?」
「入口に近づくと、どんなダンジョンなのか簡単に説明が出るけど……どこに向かうべきか」
今僕たちがいるのは、複数ダンジョンの入り口がある広間だ。他にもプレイヤーが何人もいて、それぞれが相談していた。
ちらほらと見たこともある人がいるけど、そこまで親しい人はいない。何かしらかかわりがあってフレンド登録した人って程度だ。なので、声もかけられる。
「お、村長。珍しいな、こんなところで会うなんて」
「そちらもお久しぶりです。まあ、爆弾の素材集めに来たってところですね。あと、まだこのあたりクリアしていなかったので」
「なるほどねー。俺たちは古代遺跡のほうに挑戦だな。そっちの村よりかは難易度低いけど、それでもかなり強敵ぞろいなんだぜ」
そう言って、会話していた人のパーティーは奥のほうにあった入口へと入っていった。たしかに、古代遺跡特有の光るラインの入った石で作られた入り口だ。これなら次に来た時も間違えずに入れるな。
「……あそこに入るですか?」
「いや、やめておく。古代遺跡ならもっと生存力の高い職業と装備を持ってくる」
「ですね。でも、どこに入るです?」
「前情報もないからなぁ……いっそ掲示板で聞いてみるのも――うん?」
と、そこで見覚えのある人が広間に入ってくるのが見えた。黒系の装備に、片目だけが隠れた黒髪のエルフ。らむらむさんだ。
「あ、らむらむさん。どうもです」
「村長、さん。久しぶり」
「いや、この間大岡裁きされたばかりなんですが。昨日だってトライアスロンで見かけましたし」
「でも、挨拶は、していなかった、から」
「それもそうか」
「どうもです」
「アリスさんも、お久しぶり」
「いや、アリスたちはお兄ちゃんがすぐログアウトしていた時に会ったじゃないですか」
「そうなの?」
「はい。ちょっと、海底探索をしていたです」
「召喚獣、探し」
「あーシーモンキーの例もあるし、何か未発見あるかもしれないのか」
話によると、装備を少し見つけた程度であまり収穫は無かったそうだが。
「らむらむさんはなんでここに?」
「素材、集め。あと、実は、この先で、プリズムスライムが、出たって」
「え、マジで!?」
らむらむさんの一言に、大声を出してしまった。広間にいたプレイヤーたちが何事だとこちらへと視線を向ける。倒せる機会があれば倒したいなって思っていた相手だけに、聞き逃せなかったのだ。
「なんですか? そのプリズムスライムって」
「非常に、珍しい、モンスターで、倒すと、経験値と、ゴールドと、エリクサーを、落とす、のです」
「扱いはHPのすごく少ないフィールドボスで、トドメを刺したプレイヤーには確定でエナジーボトルがドロップするんだ」
「はい」
「数があって困る物でもないし、補給したいんだよなぁ」
「でも、お兄ちゃん。エナジーボトルはハロウィンイベントのポイントで交換するとか言っていませんでしたか?」
「いや、そっちはそっちで別で欲しいアイテムがあってどうするか悩んでいたんだ。でも、これで手に入れられるならポイントの節約になるから」
「……いっそポイント集めしてもいいと思うですけど」
「それはそうなんだけど、スクリーンショットコンテスト優先したいから」
ずっと同じことしていてもアイデアが出てこなくなるので、今回は素材集めをするけど。
「プリズムスライムか……」
「でもこのゲームでゴールドも落とすモンスターって珍しいですよね」
「基本的にアイテム売るか、クエスト報酬だからね」
「どうし、ます?」
「うーん……出現ポイントは?」
「古代遺跡、以外で、ランダム、です」
「…………決め手に欠けるな」
仕方がない。やはりこの手が一番か。
「とりあえず掲示板の攻略情報板のどこかで適当に訊くことにする」
「あ、やっぱりそうするんですね」
4連休中は忙しいので、毎日投稿が途切れるかもしれません。