まるでそれは、花びらのようで
※この作品は、小ネタ小ネタでゆるーく進める物語です。
あと、感想で質問というか指摘があったので一つ。
称号は装備品みたいにひとつだけセットすることが可能で、複数手に入れたからって全部の効果が発揮されるわけじゃないです。
それに伴い、前回の話に追記してあります。
「のぉおおおおおお!?」
目の前に空気の塊が着弾する。轟音と共に地面をまき散らし、プレイヤーたちを吹き飛ばしていった。ある者は踏みつぶされ、またある者は咆哮で吹き飛ばされ壁に激突。あるサムライはぱくりとおいしくいただかれた――と思ったら吐き出された。どうやら不味かったらしい。
奴――ベヒーモスは雄たけびを上げて、筋肉を膨張させる。
「だから言ったじゃん! 命を大事にって!」
「ごーざーるー!?」
前の方では、まさに阿鼻叫喚といった感じで他のみんなが蹂躙されていた。
「死亡時のキラキラしたエフェクトがまるで花びらだな」
「呑気な事言っとる場合かのう…………後方の魔法職にタゲがうつりおったぞ」
「ヤベっ、僕はとりあえず走って反対側に行ってひきつけるから、みんなは蘇生班の援護をお願い!」
「オレもいきますね。気を引くぐらいはできるよ」
僕と旅人さんでベヒーモスの注意を引きつつ前進する。僕がスコップを構えて、泥の弾でベヒーモスを攻撃するが……コイツどんだけHPあるんだ。
旅人さんは鞭で奴の顔を叩くことでヘイトを稼いでいる。威力的に僕の方がヘイト値多いんだろうなぁ……とにかく、みんなの蘇生の時間を稼がないといけない。
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最初は楽しみましょうって空気だったんだ。
パーティーも役割とか特に決めずにワイワイした感じで、適当に遊びましょう。そんなぬるい空気は許さねぇとばかりに奴は現れた。
今回のフィールドはコロッセオ。かなりの広さを誇り、数十人のプレイヤーも余裕で動き回れるほどだ。ちなみに、イベントフィールドは大陸の北西に存在する大きな島。ゲーム内の設定上、中立国とか言われているらしい。なお、実際は運営がテストプレイなどに使っているエリアで、通常プレイヤーは入ることが出来ない。
イベント時にこうやって解放することがあるようだ。
普段は入れないエリアに来れたことや、普段は顔を合わせないプレイヤーが集まることで生まれた特有のイベント感がいけなかったのだろう。
レイドボス戦開始と同時に現れたベヒーモスだが……とにかく巨体だった。
しかもかなり俊敏に動き回る上に、やたらと高い攻撃力。よくよく考えたら、どんな職業でも戦えるように調整した能力って……どんな職業であっても倒しに来るってことだよね。
そんなわけで、阿鼻叫喚としている中結構なプレイヤーがやられたのである。今回、デスペナはない。また、リスポーンからの復活は2回まで。
このゲームの仕様上、やられても魂の状態で3分間はその場に残れるので蘇生してもらうか、自分で蘇生アイテムを用意しておいたのならその限りではないのだが。
ただまあ、蹂躙されると精神的にクルものがあるわけで……
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「無理じゃね?」
「諦めるのは早いでござるよ!」
すっかりパーティーの意味がない状態に陥って15分ほどが経った。だって、蘇生スキル持ちはとにかく蘇生することに注力して、あとは近距離と遠距離で別れてひたすらタゲをとった方がやられたらタゲ交代している間に蘇生、やられたら交代してその間に蘇生を繰り返す状態になったのである。
この状況どうしろと? そんな感じで隣にいたサムライに話しかけた。
「炭鉱夫殿は薄情でござるな」
「強すぎて完全にゾンビアタックになっているし、なんかもうみんな心折れているし」
「でもどこかに勝機はあるはずでござるよ」
「そう言うならさっさとその刀で斬りかかりに行けよ……銃撃戦モドキしている僕の隣にいないでさ」
「こ、これは隙を窺っているだけでござる」
このサムライ、一度食われたから完全に及び腰になっているのかさっきから足が震えてやがる。オーガでガタイが良いのにこれだからもはやギャグでしかない。
確かにパクリとやられるのは恐怖でしかないが……ゲームなんだからもうちょっと気楽にいけないのか?
「炭鉱夫殿ぐらいでござるよ、そんな達観して動けるのは! 長期間洞窟の中でソロプレイできる人と一緒にしてはいけないんでござるよ!?」
「そうか? 尻尾を斬りつけまくっている女騎士もかなりガンガン行っているけど」
「あれも例外でござる!」
結構いいやがるな、こいつ。
流石にこのままってわけにもいかないし、奥義を決めることが出来ればかなりのダメージを与えることが出来るかもしれない。今日までに何度か奥義を使って検証したのだが、組み合わせるスキル次第ではあるものの防御力貫通ダメージを与えることが出来るということに気が付いたのだ。
問題は、それを行う隙が無いこととMPをかなり使うので失敗したらヤバいという事。現状、一回使えば再使用にそれなりに時間がかかる。
「というわけで、こいつでいこう。錬金術師さーん! 火炎瓶お願いしまーす!」
「えっ!? 蘇生作業でいそがしいのに――ああもう! 近くのプレイヤーは逃げてくださいね!」
錬金術師さんが火炎瓶を投げ、僕がとあるアイテムを投げつけた。
まず火炎瓶がベヒーモスの体にぶつかり、延焼ダメージを発生させる。そして、僕の投げた瓶がぶつかり――爆発した。
「自家製爆撃瓶! もってけドロボー!」
「どんだけ爆発物用意したんでござるか」
「幸いばくだんいわと、火薬は腐るほどあるんだ。倒せれば黒字だッ」
「元手はタダでござろう、それ。時間ぐらいしかつぎ込んでいないだろうに……」
「なるほど爆発物か、よし虎の子のボウガンを使う。狙撃系スキル持っている奴がいたら手伝ってくれ」
「鍛冶師どのまで血迷ったでござるか!?」
「うるせぇ! ここまで来たら倒さなきゃ帰れねぇんだよ! 死にまくっているせいでみんなポーションやら蘇生アイテム使いまくってんだ! ワシらもなぁ……本当は楽しく遊びたかったんだ、だが運営は最初のイベントをプレイヤーを蹂躙してニコニコわらっていやがるんだ。だったら、ワシらもそれにならって蹂躙してやるんだよッ」
「ヒャッハー!」
「剣と魔法の世界のはずが、なんで世紀末になっているんでござるか……魔女どのもなんで悪乗りして杖で火炎放射器のまねごとを」
あまりにもな空気のせいで、みんなのテンションが変な方向にいってしまったらしい。
シルクハットの変態はトランプを片方の角に一点集中させて投げつけることで切ろうとしているし、農家さんはクワでベヒーモスの踵をひたすら回転斬りみたいに攻撃している。旅人さんは顎をひたすら鞭で叩いていた――あ、ふっとばされた。
「あちゃぁ……タゲが完全にこっちにうつったわ」
「そういえば不思議でござったのだが、なんで炭鉱夫どのは一人でタゲとれるんでござるか?」
「このスコップ星5だから、他の人より段違いに攻撃力高いんだよ」
ギルド内設備だとスコップとピッケルだけしか整備、改造できなかったけど……素材はたくさん手に入ったし、マーケットで色々買えたからね。素材を手に入れても伝手が無かったから他の装備までは用意しきれなかったが…………火力だけなら現行トップクラスになったのだ。
「というわけで、限度はあるけど他のみんなより火力出ているせいでタゲを一人でとれるんだ。あと、僕は俊敏特化型装備…………わかるな? 奴がとびかかってきたら、僕は走って逃げれる」
「そして、某は取り残されるというわけでござるか。あっはっは…………うわぁああああでござるぅうううううう!?」
よ、よぐそと殿おおおおお!? という可愛らしい声をバックにサムライはキラキラとしたポリゴンになった。そっか、よぐそとって名前なのか。あと彼を呼んだプレイヤー……真っ赤なくノ一装束。うん、明らかにくノ一さんだな。
僕にタゲが向いている間に人の少ない方向へ走り、他の人のリカバリーを狙う。幸い、僕はまだリスポーンしていない。このまま移動しながら奴の顔を集中的に泥球で攻撃していればいいのだが……
「HPバー全然減らない」
狙撃スキル持ちや、魔法攻撃できる面々が奴の背後から攻撃はしているし、結構なダメージ入っていてもいいだろうに……唯一、爆発物によるダメージだけが明確にHPを削っていたのだが。
やはり防御力貫通攻撃だな。もしくはどこかに弱点があるんだろうが、ノーヒントに近いからどうすればいいのかわかんない。
「――――背中ッ、背中が弱点だぞおおおお!」
そんな時だった、いつの間にかベヒーモスの背中に登っていた誰かの声が上がったのは。
緑色に、小さいポーチがたくさんついた格好をした男性プレイヤーが必死にベヒーモスの背中に張り付き、ナイフで何かを刺していた。同時に、ベヒーモスのHPが減っていく。
「背中のコブが弱点だぁあああ!?」
ベヒーモスが咆哮を上げ、男性は吹き飛ばされ…………なんか、上空の見えない壁にぶつかってポリゴンが爆ぜた。落下ダメージ的なのが発生したらしい。っていうかあそこじゃ誰も助けに行けないし、自分で蘇生しても落下ダメージで死にそうだな。
「しまらないなぁ……」
「ですねぇ」
いつの間にか隣に来ていた農家さん(おそらくは咆哮の時に逃げてきた)と共に、なんだかなぁという感じで空に浮かぶ魂を眺める。いや、そんな場合じゃないんだけど。
だがまあ弱点が分かったならあとはそこを目指せば……
「背中?」
「アレを登れってことですよね」
今も目の前には背中の弱点を目指してチャレンジする面々が見えるが……そう簡単にいくはずもなく、ベヒーモスが体をコマのように回転させ、吹き飛ばしていた。というか、やっぱりバランス調整間違えているだろコイツ。
運営への文句もそこそこに、スコップをドリルに変化させ狙いを定める。
「それって、奥義スキルって奴ですよね! わたし知ってますよ!」
「ダメで元々、曲芸染みた使い方だし実用性は正直皆無だと思っていたけど――練習しておいてよかった僕の必殺技!」
「あ、自分の世界に入ってますねコレ。自分でリクエストしておいてアレですけど、どうしてもシリアスにならない見た目ですよね」
「世のため人のため、奴を倒せと輝くこの力!」
「男の子ですねー…………これ、明日になったら恥ずかしくて悶える奴ですよ」
「このドリルの輝きを恐れぬのなら――かかって来いやぁ!」
「みんな通る道です」
うんうんと農家さんが頷いているが、今の僕には気にならなかった。
ドリルを発動させたまま、スコップを軽く浮かせて手を放す。
「――え!?」
「必殺――『ドリルキャノン』!」
あらかじめ、スキルの組み合わせとして登録しておいたキーワードを言い放ち、必殺技を解き放った。スコップ奥義スキルと、ナックルの攻撃スキル『メガトンパンチ』の組み合わせ。
ドリル化したスコップを拳の力で撃ちだす、必殺砲撃。それがこのドリルキャノンだ。
『ガアアアアアアアアアアッ』
流石に奴の体を貫くまではいかなかったが防御力を無視した大ダメージが入る。それによって奴がひるみ、体勢を崩した。
「やりましたっ! すごいじゃないですか炭鉱夫さん!」
「ふふふ、みたかこの一撃…………」
「これならアイツをあっという間に倒せますよ!」
「………………だといいんだけどなぁ」
「……え?」
「欠点として、まずMPを滅茶苦茶使うからすぐに再使用できない。あと、スコップをとばすせいで回収する必要がある。狙撃スキルがあったとしても絶対に補正入らないから成功率が低い技ゆえにロマン砲でしかないんだよ」
実は成功率1割だった。いやぁ、ノリって大事だね。ダメで元々はまさにその通り。まさか成功するとは……おかげで倒せそうじゃないか。
なお、言い忘れていたが時間制限は1時間。全員のリスポーン回数がなくなった時点でも終了である。
「あと、大ダメージ与えたから完全にタゲが僕にうつったね」
「……はっ!? 逃げなきゃ――」
「もう遅いかなー」
「きゃあああああ!?」
直後、ダウンから回復したベヒーモスによって僕たちはパクリとおいしくいただかれたのである。
ベヒーモス戦は次回か次々回で終わりかなぁ。
感想くださる方、誤字報告してくださる方ありがとうございます。