古巣に帰ってみると
UMAの正体、察している人は何人かいます。
翌日である。結局、アリスちゃんたちも村には帰っていなかったので全員好き勝手やっているのだろう。いや、ディントンさんにはこの前会ったけど……すぐに別れたしなぁ。
まだ高速移動方法は思いついていないが、とりあえず今のレベルでどこまでやれるか古代遺跡にチャレンジしようと思う。まあ、今回は下見なんだけど。
「そんなわけで、久々の鉱山への突入!」
行くぞー! と大声を上げるが、反応は無い。近くの伐採ポイントで何人かプレイヤーがいるが、こっちに視線を向けないあたりソロプレイヤーだな。
最近、ヒルズ村周辺もプレイヤーが増えたが……手に入るアイテムは珍しいモノでもないのでこうして他プレイヤーに関わらないようにしている人たちがほとんどだったり。楽しみ方は人それぞれだけどね。
そんなわけで鉱山ダンジョンに入り――特に問題もなく突破。十月も半ばでリアルでちょっといろいろと忙しくなっており疲れがたまっているが、さすがに何度も戦った場所で苦戦はしない。それに、装備やスキルとの相性もいいし。
「水魔法が効きすぎるんだよなぁ」
職業は【海賊】にしてある。今後、戦闘が増えそうな場合はこちらのほうが有効かもしれない。固い敵なら【村長】にして防御貫通攻撃をしたほうが効率は良いんだけど、スキルが多いわりに一芸特化な戦い方だからね。雑魚相手には向かない。
反面【海賊】はそもそも戦闘系のスキルが多くそろっているから普通に使いやすいし、ステータスの方向性が防御を捨てて攻撃とスピードに寄せた感じが性に合っている。
「装備も合わせて水属性特化だから、楽々倒せるしねー」
鉱山ダンジョン、炭鉱エリア共に弱点水の敵が多いからサクサク進める。
面倒なのは爆弾で吹き飛ばせばいいし、今更手こずらないなぁ……コウモリとかの飛んでいる敵もシーラカンスが撃ち落としてくれるから楽だし。
そして一つ気が付いたことがある。
「めっちゃ周りが良く見えるー」
かつて、炭鉱暮らしだった時には感じたことのない暗い中でも周りが良く見えるこの感覚。
ある程度修正されたおかげもあるだろうが、機器が新しくなったことで視界が良好になったのも関係しているのだろう。
まさかここまで変わるとは……少し感動しながら、見覚えのある広間までやってきた。
「あっという間に懐かしの『はじまりの炭鉱』へ到着か……うん?」
何やら人の声がする? 炭鉱ギルドのほうから数人の男女の話し声が聞こえるが――まさか!?
気になった僕は、ダッシュでギルドの扉を開いた。
「――――人がいる!?」
「うん? うお!? なんか見覚えのないプレイヤーさん!?」
「あの人、初期装備じゃないよ!? ドロップ品でも見たことないの使ってる!」
「っていうか、裸マフラー!? え、何アレ!?」
男性二人、女性一人の三人グループ。見たところ、全員が初期装備だ。いや、アクセサリーや武器はこのあたりでドロップするものみたいだな。見覚えがある。BFOを始めて間もないころ僕も使っていたやつだ。
装備からしても初心者さんか。というか炭鉱に初心者グループがいるとは……
「半年も経てば、そりゃいるよな」
「なになに? なんでこの人涙ぐんでいるの?」
「懐かしの場所を初心者が使っているとは思わなくて」
「え、やっぱりここから外に出られるんですか!?」
「脱出不可能なバグじゃなかったんだな!」
「良かったぁ……もう出られないかと思ったよー」
「いや知らなかったんかい」
「えっと……あなたは外から来たんですよね?」
「まあ炭鉱の外からって言うなら間違いではないんだけどね」
「やっぱりバグじゃなくて、仕様でいいんですよね? 外はちゃんとあるんですよね?」
「不安になるならいっそ作り直し使えばいいのに……」
なお、キャラの作り直しの仕様であるが、レベルやクエスト進行などは当然最初からになるものの課金アイテムや倉庫に仕舞ったモノなどは引き継がれる。
サブアカウントは黙認されているし、アカウント作り直しによる初期位置リセットとかもあるからなぁ……初期でそれやる人が少なかったのは特典アイテムとかあったからだろうけど。僕はそのあたりは詳しく知らない。もしくは、初期は複数アカウント作れないようにしていたのか…………今となっちゃ議論しても意味は無いのでスルーだが。
ちなみに、アリスちゃんは開発者の身内だから下手なことするとややこしいことになると思ってやらなかったって前に聞いた。
「作り直し?」
「おおっと、ガチ初心者さんだったかぁ……」
その段階から知らないとは思わなかった。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「年下だろうからって、その聞き方はどうなんだろう――このゲーム、見た目と年齢あっていない人も結構いますよ」
僕の場合は見た目通りでもいいかもしれないが。
見た目より若いライオン丸さんとか、見た目より歳とってるディントンさんとか……ディントンさんに直接言ったら首を斬られるから絶対に言わないようにしよう。
「あ、僕はロポンギー。この炭鉱最初のプレイヤーです」
「最初って……どれぐらい?」
「サービス開始日にここスタートだったので、マジで最初ですよ」
βテストもあったらしいけど、その時のデータは引き継げないし、そもそもその時はどこかの町固定スタートだったって聞いている。僕は参加していなかったけど、ポポさんやニー子さんがβテストの参加者で、彼らに聞いた。
なので、β時点では炭鉱スタートはいないので、正真正銘プレイヤーで一番最初に炭鉱スタートだったの僕なんだよね……炭鉱引いてキャラ消した人がいたかもしれないけど、数に入れなくてもいいだろう。
「すごっ!? じゃあさ、どうやったら外に出られるか知っているよな? 俺ら、もう五日間もこの中グルグルしてんだよ」
「……え、それだけ?」
「それだけって……えっと、ロポンギー君はどれぐらいの期間ここにいたの?」
女性プレイヤーが話しかけてくるが…………なんだろう、名前で呼ばれるの新鮮な感じ。
えっと、この人たちの名前……名前表示オンにしておこう。そのほうが呼びやすそうだ。
っていうか初心者の割には結構個性的な名前をしていらっしゃる。
「んー、ケチャップソースさんか。僕は一か月はここにいましたね。まあ、途中イベントで外に出るルートに気が付かなかったってのもあるんですけど」
「一か月も!? あれ? わたし名乗ったっけ?」
「いえ、オプションから名前表示をオンに出来るので、それで見ただけですよ」
「へぇ……そんなこともできるのか。俺ら、オンラインゲームって初めてだからよくわかんなくてさ」
「おれもみんなをまとめる感じにはなっているけど、ゲーム自体あまりやったことないし……」
二人の男性プレイヤー、それぞれ名前が嵐の剣士さんと、マスターJさん。やっぱり中々に個性的な名前だが……本当に初心者なのだろうか?
女性であるケチャップソースさんもなんでその名前にしたのか……
「名前は結構独特というか、狙っている感じがしますけど、本当に初めて?」
「ソシャゲとかの名前つけるノリでつけたけど、変だったかな」
「あー……そっか、そうだよね。それで慣れているよね」
僕はソシャゲの類ってあまりやらないから思いつかなかったが、そうか。プレイヤーネームをつける段階では慣れている人は多いか。
他の二人もそんな感じっぽいし……どうやら三人とも初心者らしく、どうやって進めればいいかわからないものの、他のプレイヤーに出会えたことで手探りで進めていたらしい。
「おれたち以外にも、あと何人かいるんだけど、今日はログインしていないな」
そう言うのはマスターJさん。
というか他にもいるのか……
「その人たちも初心者ですか?」
「って言うか、全員初心者なんだよね」
「なんでだろうな」
「うーん……むしろ下調べしていた人たちは即作り直しているかもしれないなぁ。一応、炭鉱脱出ルートは確立しているし、ある程度効率よく進める方法はあるんだけど」
「え、そうなの!?」
「そっか、下調べか……どこで調べればいいんだ?」
「ログアウトして、攻略サイトを見てもらうか……それか掲示板で聞けば誰かしら教えてくれると思うし、公式サイトからでも序盤にやることとか便利な機能とか――まさか公式サイトを見ていないとか」
「あー……俺はあまり説明書読まないタイプでさー」
「わたしもー」
「おれは事前に見ていたんだけど、よくわかんなくて」
「だめだこりゃ」
というかそんな調子でよくぞやめずに続けられたものだ。
「そもそも掲示板って?」
「そこも分かんないかー……えっと、メニュー画面を開いて――さすがに開き方わかりますよね?」
「まあ、さすがにね」
「ログインしたときにやり方は散々教えられたからな」
時間経過による強制ログアウトもあるけど、メニューを開く方法や緊急ログアウトのやり方を知らないと大変だからね。緊急ログアウトはトイレに行きたい時とかに使う方法のこと。あと、リアルで問題発生したときとかに使う感じ。スマホなどと連動させて行うんだけど、そのあたりの詳しいやり方は説明すると長くなるし、直接のゲームプレイには関係ないから省く。いくつか、そういうログアウトの仕方があるとだけ言っておこう。
ギルドに到着しているならマーケットは使えるし、初期装備より多少強いものは買える。けっこうな捨て値で初期の間は使える装備が売っているからおすすめしておこう。
「というわけで、ギルドのここでマーケットが使えます。お金があればここで他のプレイヤーから装備を買えばステータスの底上げが出来るから、炭鉱突破に役立つ」
「へぇ……」
「さすがに詳しいね」
「装備このままじゃダメなのか?」
「初期装備のままでも突破は出来るけどね」
ただ、アリスちゃんレベルとまでは言わないが、被弾率を最小限で抑えられるほどのバトルセンスが必要だ。ほとんどのプレイヤーには無理である。
まあ、ある程度の性能があれば大丈夫だからその点は心配しなくていいか。基本的にボス戦までに手に入るドロップ品で全身の装備を更新出来れば、性能的にはちょうどいいバランスだから。
「あとは職業だけど……ここだと【旅人】か【炭鉱夫】の二択なんだよなぁ」
「やっぱり初期職業はダメ?」
「でも【炭鉱夫】って攻撃スキルほとんどねーし、だったら【旅人】のほうがよくね?」
「こんな感じで、おれらも意見が割れていて……」
「…………そういえば僕もスキルはマーケットでスクロール買って覚えていたわ」
初期の初期ぐらいの剣スキルとかは覚えるんだけど、自力習得する攻撃スキルってあまり覚えなかったな。いや、レベルと装備さえ整っていれば突破出来ないことはない。それに複雑な動きをするスキルってあまり使っていなかったような……
あと、物資は豊富だからスコップかピッケルベースならそれなりに強い武器が作れる。それにシステムの更新やらがあったおかげで、アイテム強化もやりやすくなったし。通常強化ならアイテムさえあればどこでもできるようになったからね。成功率上げたいなら施設でやったほうがいいけど。
ひとまずはアドバイスしておこう。
「職業は【炭鉱夫】、武器は採掘でアイテムを手に入れてスコップかピッケルを派生強化すればそれなりに強いのが出来上がる。アイテムがあれば、通常強化で+5ぐらいにすればかなり楽になる」
「えー、採掘面倒なんだけどなぁ……」
「集める量的に、合計一時間くらいだからそこまででもないんだけどなぁ」
長く感じるのだろうか。
まあ、ある意味チュートリアルみたいなものだから。外に出た後も素材集めなどで度々お世話になるのが採掘スキルだ。他にも採取やら伐採やら、少しだけでも自分でアイテム製作するならこのあたりのスキルは絶対に使う。
なんならクエストを進める際にも使う。時間が惜しい人はマーケットで買えばいいけど、お高くつくからあまりお勧めはしない。
「というわけで、効率のいい採掘ポイントと外へといくルートを教えておいてあげるよ」
「なんか、ワリィな」
「ありがとうね、ロポンギー君」
「でもいいの? そんなこと教えてもらって」
「まあ、僕も最初はいろいろと助けてもらった身……と言っていいか微妙だけど」
最初から結構好き勝手やっていたし。
「それでも、他のプレイヤーの支えがあってゲームをプレイし続けたようなものだからね。だから、これはそのお返しみたいなものだよ。君たちが外に出て、新しい初心者たちを助けてくれればそれでいいんだから」
「おお……おお!」
「ちょ、バンバン叩かないで。ハラスメント警告受けたら全身が真っ黒になるよ」
「うおっ!? 危険な行為なのか!?」
「そこまで融通利かないわけじゃないけど、場合によってはね。ヘルプとかは見ておいたほうが良いよ。あと、メニュー画面のここから掲示板を見れるから。プレイヤーたちの情報交換に使っているけど、最初は気になるスレッドを見て雰囲気を掴んだほうがいい」
「へぇ……なんだか、混沌としているというか」
「独特のノリだなぁ」
「掲示板って言うより、チャットルーム?」
まあ、感覚はそのほうが近いかもしれない。
VRMMOでは、旧時代のオンラインゲームにおけるコミュニケーション機能であった従来のチャットではなく直接会話する機会が圧倒的に増えたことで、それぞれのゲームでチャット機能、もしくはそれに代わる機能を模索してきた。BFOでは攻略情報や意見交換、それこそプレイヤーのチャット機能に利用するために一つの機能として導入したものこそ掲示板機能だ。
匿名性や誰でも閲覧できるようにしたり、多くのプレイヤーとのコミュニケーションの場として掲示板という形になったという話をこの間めっちゃ色々さんから聞いた。
「ここで聞いて、教えてくれる人はいるの?」
「まあ、質問版とか初心者応援スレとかならちゃんと答えてくれるよ。あと、フレンド登録しておくから何かあればメッセージから直接聞いてくれてもいいからね」
炭鉱の先輩として、有望な初心者たちの支援は惜しまない。一番は楽しんでもらうことだが。
あと、気をつける点とボス戦の後か。
「炭鉱の先にいるボスを倒すと、別のダンジョンが広がっているからそこからは気を付けて進むこと。マップにルートを書き込んでおくからスクショでも撮っておいて、あとでチェックするとよろしい」
というかこのあたりの情報は前に『鋼の獅子王』討伐隊で古代遺跡に突入したときに誰かがしっかりとマッピングして攻略サイトなどにルートがアップされたんだけどね。
しかし便利だな……マップに線などを書き込める機能。
「それと、マップのここには絶対に近づかないように」
「ん? なんでだ?」
「死ぬから。古代遺跡っていうダンジョンなんだけど、最低でも基礎レベル50は無いと死ぬからね」
今の僕でもレベル60を超えているが、正面突破は死ぬ。
だからこそ下見で攻略ルートを考えに来たわけだが。
「もしかして、ここスタートって結構大変?」
「かなり大変な部類に入るかなぁ……一番大変なのは西の孤島らしいけど」
無人島サバイバル生活からスタートらしいし。
それでも、当時孤島スタートだった人、僕より早く大陸突入していたから僕がどれだけ寄り道しまくったかわかることだろう……アクア王国王城に大陸まで行けるワープ用クエストあったし、本当はもっと早く大陸に行けたんだよなぁ…………
「まあ、鉱山ダンジョンも突破したら後は隣の島のアクア王国に行って、教会でファストトラベル登録してから王城に行けば大陸に飛ばしてもらえるから」
「なにからなにまですいません」
「ありがとうな!」
「ありがとねー。で、ロポンギー君は何しにここに来たの? 懐かしさを感じに?」
「いや、さっき言った古代遺跡に再挑戦しに来た。まあ、今日は下見だけだからまた今度挑むけどね」
「……そんだけレベル必要な場所を一人で挑むって、ロポンギーって実は結構強い?」
「別にそんなことないよ。他に強いプレイヤーはいっぱいいるから」
実際、タイマンで戦ったら負けるだろう相手はいっぱいいる。
「それじゃあまたねー!」
さて、下見に行きますか。
 




