老婆の話、あとクエスト
何はともあれクエストである。ギルドやら教会やら用事はしっかりと済ませたか確認してクエストを受注する。村長就任の時みたいな強制イベントを警戒してのことだ。
とりあえず老婆に話しかけることで開始だったけど……
「お前さん、良い目をしておる。それに、なかなか引き締まった身体じゃ。そして、その内包するエネルギー。どうじゃ、一つこのババアの頼まれごとをしてくれんか?」
「了解です、と」
「おお、引き受けてくれるか! ワシも若い時はそれはもうブイブイ言わせていたものじゃが、寄る年波には勝てんでのう……今じゃすっかり足腰も弱って遠出出来んのじゃ」
「ブイブイって今日日聞かないよ」
いや、だからこそ老婆――それはそれでどういう時代設定なのか気になる。
システムログには『シンシア婆のおつかいを受注しました』という表示が出ている。なるほど、シンシアさんって名前なのか――まあ、一応心の隅に記憶しておこう。
「おぬしに頼みたいことはのう、この手紙をハラパ王国の国王に届けてほしいのじゃ。城の衛兵にエルフの里からとでも言って渡せば大丈夫じゃからの、頼むぞい」
「クエストアイテム【長老の手紙】か……シンシアさん長老なのね」
「それでは、準備が出来たら転移魔法で送ってやるからもう一度話しかけておくれ」
転移魔法が使えるなら自分で行けばと言ってはいけない。
ゲーム的にはプレイヤーの行動範囲を広げるためのイベントだ。そこに合理性を求めてはいけないのだ。
というわけで、エルフの里の教会の登録も済んでいるのでさっさと転移させてもらおう。
「それじゃあお願いしまーす」
「うむ――『アルティメット・テレポート』!!」
「え、なにそのスゴイ魔法」
というかただの転移にそこまで大仰な魔法使うの? なんか球体の魔法陣が僕を包み込んで高速回転しているんだけど。
周りの景色がキラキラとした粒子に変化していき、粒子も高速回転したと思ったら徐々に別の形へ変化していく。建物や人、地面、空、白黒の状態から徐々に色がついていき、やがて普通の街中へと落ち着いた。
「……え、到着したの?」
無事にハラパ王国の首都へ到着したのはいいが、思った以上の演出で茫然としてしまっていた。
少しその場でぼーっとしていたら見かねたのか話しかけてくる人が一名。
「村長さんなにしてはるん?」
「あ、ど・ドリアさん。お久しぶりです」
「久しぶりやね。目を白黒させてどないしたん?」
「なんか強烈な転移魔法を使われまして」
「あー、エルフの里のやつやな。あれ、演出凝っているからなぁ……そうか、そういえばここが出現位置やったな。あのクエストなら、すぐそこの衛兵に手紙渡せばクエストクリアやよ」
「やっぱり結構簡単なクエストか。ありがとうございます」
「ええんよ、これくらいどうってことない――ただ、一つ頼まれごとしてくれへん?」
どうやら緊急クエストが発生したらしい。
手紙を渡してきて、ど・ドリアさんと共に路地裏のカフェへと入る。
「隠れた名店的な?」
「とくに支援効果のある食べ物は売ってへんけどね」
「まあ、そんなものか……で、頼み事ってなんですか?」
「そんな難しいことでもないんよ……ただ、ちょっとばかし面倒で」
「厄介ごとの気配がするけど」
「うーん……マンドリルのことなんよ」
「あー…………またアリスちゃんがらみですか?」
時々マンドリルさんがPVPを挑んできては返り討ちにしているらしいし、その関係かな?
アリスちゃん……そういえばあのメールのあと会っていないんだよなぁ。なぜかアリスちゃんからも連絡がないし、気にはなっているのだが藪をつついて蛇を出したくないというか……
話がそれたが、今のところはど・ドリアさんの話である。
「ううん。あの子は関係なくて、その……シーラカンスを見てな」
「そういえば装備したままだったか」
ちょっと視線を感じるなぁって思っていたらこれか。
いや、掲示板にも書かれていたじゃん。なんでスルーしてんだ僕……まあいいや。どうせ普段から目立つ格好しているんだし、あまり関係ないや。
「マンドリルさん、シーラカンス釣りたいとか?」
「釣り図鑑埋める言うて、付き合わされとるんよ。珍しい魚釣れるポイント教えたら多少おとなしくなるはずやから、めぼしい人に聞いとるんやけど」
「まあ特に隠してもいないんでいいですよ。エルフの里近くの湖で釣れました」
「あー、あそこやったか。この前行ったとき、ブラックバスばかりやったから切り上げたんやけど、レア枠やったか」
ちなみに普通のシーラカンスもその湖で釣れます。
装備品のほうは最上位ぐらいのレア枠の可能性があるが……まあ、粘ればもしかしたら釣れるかもしれないんだよね。ヨっさんが釣っていたし。
「……ただ、その宙に浮いているシーラカンスは初めて見るんやけど」
「装備品だからね」
「……それも例の湖で?」
「モチコース」
「時々思うんやけど、村長さんって中の人オッサンやないの?」
「失礼な! まだお酒も飲めない年齢だよ!」
正確な年齢言うのはアレだからそれぐらいの表現にしているけど。
家にはレトロゲームも各種そろっているから、出てくるネタを調べているうちに多方面に詳しくなったんだよね。あと、うちの両親と親交があったらしい白川ミクさんって人が残したノートも参考にしている。『使えるネタ用語辞典』っていうタイトルだった。
「しかし、いろいろとネタを知り過ぎやないかな?」
「ネトゲをがっつり遊んでいる人なんて大抵そういうものだと思うよ。まあ、自分でアレコレ言っているけど、今日日聞かないよなぁとは思っている」
わかった上で使うんだけどね。
「まあ、ウチには関係ないからええけど……それじゃあ聞きたいことも聞けたし、ありがとうな」
「こっちこそありがとうございました。それこそ釣り情報版とかで聞けばいいと思いますけど」
「結構情報出さずにいるプレイヤーって多いんよ」
「あー、そういう……ところで、ど・ドリアさん」
「どないした?」
「あそこで踊っているレオタード姿の男について一言」
通りの向こう側、手拍子と共にショッキングピンクのレオタードに身を包んだ松村が軽快なステップで踊っているんだけど、どうリアクションしていいかわからない。
「……もう遅いし、ログアウトしたらええんやないかな。正直、ウチはああいうの好きやないし」
「そうします」
@@@
ところ変わって、ハラパ王国より南、エリア名『海賊のアジト』にて。
「結構面倒な敵が多いですね!」
「なかなか、強い」
「うーん、ワイらもそれなりにレベルがあるはずやのになかなかどうして面倒やなぁ」
アリスたちは敵に取り囲まれていた。
「らむらむさん、三角州さん、やってやるですよ!」
「脱獄裏ルート、難易度、ルナティックだけど」
「いやぁ、軽く手を出すべきやなかったな。まさか攻略に数日かかるとは」
桃色アリスとらむらむと共に戦っている関西弁のような口調の女性、『三角州』はゲーム内でも珍しい職業の【大名】を取得している。なお、内部数値的には【村長】とほぼ差がない。ほとんど名前が違うだけであった。
なので、普段の職業は【サムライ】にしている見た目イケメンな女性である。最近の悩みは、初見だと男性と間違われることが多いということ。
アリスたちとはちょっとしたことで知り合い、フレンド登録した仲だ。
「…………いい加減終わらせてお兄ちゃんに会いたいのですが」
「最後まで、付き合うって、言った」
「言いましたですけど!」
「アッハッハ! まあええやんか。ゲームなんやから適当に遊べば」
「くぅ、お兄ちゃんがまた新しい女の人と知り合っているですよ! こっちは最近気が気じゃないです」
「その割には、警戒している、あたしと、フレンド登録、している」
「それはそれ、これはこれです!」
「この子も分かんないなぁ……ワイは面白くて好きやけど」
「とりあえず、どうやって、突破するか」
この三人は以前ディントンたちが遭遇した、ハラパ王国の南の入り江を根城にしている海賊に捕まり、アクア王国まで飛ばされる脱獄クエストには捕まらないことで裏ルートに進めるという噂を聞いて検証に来た次第である。
「もう何度もリトライしているですからね……おかげで【プリズンブレイク】の称号を取得出来ちゃいました」
「脱獄も、慣れたもの」
「そこそこ時間はかかるけど、結構らくやしな」
「出てくる敵がだんだん強くなるのが嫌ですよね」
やられても死ぬわけではなく、樽詰めされて飛ばされるだけ。過去にディントンたちが挑んだ時ではレベルが足りなすぎて負けイベ確定だったのだが……今のアリスたちのレベルならば突破も可能だろうと挑んでみたはいいものの、倒せば倒すほど出てくる敵のレベルが上昇していくのである。
「これ本当に裏ルートあるんですかね?」
「あくまでも、噂」
「結局際限なく敵が強くなっていくだけやったりして」
「それはそれで嫌です……あ、でも無限湧きなら経験値効率良さそうです」
「――――やはり、天才か」
「レベル上げほうだいマシマシやな」
「マシマシですね」
「……やっちゃう?」
「やっちゃおうです」
こころなしか、海賊たち(リザードマン)がおびえているようにも見える。とは言っても、すぐに金切り声を上げて斬りかかってくるのだが。それをアリスがイフリートを召喚し薙ぎ払い、らむらむと三角州が斬りかかった。
「経験値の入れ食いやー!」
「ブースト、マシマシ」
「アイテムウハウハです!」
ここぞという時のために温存しておいたブーストアイテムを使い、敵を殲滅していく女性プレイヤーたち。
次々に補充される敵モンスター。まるでここはバーゲン会場だ。
「上がる、レベルが上がっていくです!」
「倒せば倒すほど敵のレベルも上がるから経験値爆上がりやん! あ、でもコレ裏ルートあったらクリアしたら終わってまうな……」
「ボスが出てきたら、わざとやられて再スタートすればいいのでは? 少し経験値無駄になるですが、効率良さそうです」
「でもそれやとプリズンブレイクせんといかんからなぁ……タイムロスがでかい」
「……自爆すればいいのです。そうすれば、PKでもないですから呪い状態にもならずに死に戻れます」
「それや!」
「やはり、天才か」
「というわけで自決用の爆弾をご用意くださいです」
「よーしレベル上げるでー」
「ワクテカ」
当初の目的を忘れて、レベル上げに専念する三人であった。
なお、レベル上げは滅茶苦茶はかどったとさ。
副題:そのころアリスちゃん(その1)




