道なき道を突き進む
さて、らったんさんも落ち着いたことだしいよいよ山脈越えに挑むわけだけど……
「…………思ったより高い」
「んゆー? 何メートルぐらいかなー?」
目測だし、正確な数字は全然だけど四ケタメートルはあると思う。
高い木は少なく、草が生えている感じの山だが……登るのキツイよなコレ。
「高いなぁとは思っていたけど、近づいてみるとこれ無理じゃね?」
いくら暗かったとはいえ、もっと早く気がつけよ。こりゃ登る前にほとんどのプレイヤーはやめておこうって判断していたんだろうな。
「無理よりじゃなくても無理ー」
「うーん……なんかいい感じのアイテムなかったかなぁ」
インベントリにつっこんであるアイテムから山越えを可能にするものがないか調べてみる。大砲でも設置して飛んでいく? いや、このあたり設置可能エリアじゃないから無理だな。
ボートとジェット噴射……MP足りねーよ。
いっそのことバトルブーツを使って自分で飛ぶ……箒でいいんだよなぁ。結局MP足りねーんだって。
「なにか、なにか武器は無いのか――じゃなくて、いい方法は無いのか!?」
「んゆー? 車でも急斜面過ぎて登れないしー」
「――――なるほど、急斜面か」
「……あーしまずいこと言った感じ?」
「幸い今の僕は【サモナー】だ。そして、これまで手に入れたスキルと組み合わせれば、やってやれないことは無い!」
スキルの組み合わせこそ僕の得意分野。攻撃能力はともかく、こういうアウトゾーンスレスレのやり方こそ腕の見せ所よ!
「それじゃあ、あーしはそろそろ帰るねー」
「一人だと手が足りないから手伝ってね」
「冗談キツイー」
「冗談じゃないんだよなぁ」
「……やらなきゃだめ?」
「誘ったのは君だよ?」
「…………今度からはもうちょっと考えてから誘うねー」
「とりあえず、ボートの角度調整するから手伝って」
「はい」
らったんさんは少ししょんぼりした顔で手伝ってくれる。いや、さすがに罪悪感を覚えるんだが。
でもまあ、うまくいけばそれでチャラってことで。
「ほとんど直角? なんですけどー」
「あとはマーメイドとシーモンキーで水流を発生させた後、氷魔法で水を凍らせて滑るように進む。小さな爆弾の爆風で進めば何とかいけそうだね。ちょうどよく手に入れたジャックランタンの炎で微調整できそうだし」
「発想が怖いんですけど。あーしたちのダメージは?」
「直撃でもしなけば大丈夫だよ」
「…………やっぱ帰りたいんですけど」
「それじゃあ、出発しまーす」
「待って止めて、待って、やめてぇえええ!?」
急加速でほぼ真上に飛んでいく僕ら。水流を凍らせると言っても、水魔法を凍らせるコンボって数秒しかもたないから耐久値とMPの節約程度にしか使えない。
やってみて結構な高さまで進めそうだとは思うが……これ、途中でMP尽きるな。
「適当な位置で探索やめるかー」
「怖い怖い怖い怖い!」
「お、いい月夜。一枚撮っておこう」
「なんでよゆうなん!?」
「このタイプの移動方法慣れているし」
「いろいろとおかしい!」
「大丈夫、すぐに君も慣れる!」
「その根拠はー!?」
僕と話が合っていた時点で確信を得たよ。
そのうち自分でジェット移動するようになるさ。というか、このゲームをある程度やりこんでいる人は大体似たようなやり方しているからね。すでに初心者を卒業した人のテクニックなのだ。他の人も結構バリエーション豊かなやり方を模索している。風魔法でふわっと飛んだり、ひたすらバフを重ね掛けして超スピードで動いたり、水流でサーフィンのように進んだり。
「これなら自分で跳んでいった方がマシかもー!」
「うん?」
「ほいほいっ!」
「木を三角飛びで跳びまわるだと!?」
そういやらったんさん【怪盗】だったな……あの職業、聞いた話だとゲーム内でトップクラスの身の軽さを誇るらしいし、高い所へジャンプするスキルが豊富なんだと。
というかやっぱり村の住人と同類だよ。あまり木々が無いとはいえ、ランダムに生えている木へ正確にジャンプし、次の木へまたジャンプしていく……イチゴ大福さんもそうだけど、どうやったらあんな動き出来るんだ?
っていうからったんさんもプレイヤースキル特化勢だよな……
「ってボート壊れるッ!?」
嫌な音と共にボートが壊れて光の粒子になってしまう。咄嗟に箒にまたがり、ジェット噴射で飛んでいくが……MP無くなるかも。
ポーション飲んだところで、リキャストを考えると途中でMP0になるだろう。
何か方法は――最終手段使うか。
「真後ろの……あの木でいいか」
右手を突き出し、腕を巨大化させる。
以前化け猫さんと戦ったときに使ったことがあるけど、落下ダメージが減った今ならミスして山肌に激突してもたぶん死なない――と思う。
「思ったより加速するけどねぇええ――!?」
「んゆー? なにその大きな腕……」
反動で吹っ飛んでいる都合上、制御はできない。ただまっすぐ進むのみだ。直線上に木が無いのを確認しているのでぶつかって落下ダメージを受けるということは無い――いや、待てよ? 現実なら減速してゆっくり着地するなどすればダメージは受けない。まあそもそもこんな非常識な加速方法現実じゃありえないが。
と、僕が問題にしているのはそこではない。速度自体は落下ダメージにも加算されているが、そもそも参照数値は落下距離だ。前にあったことだが上方向に飛んでいき、天井へぶつかることで落下ダメージが発生する現場を見たことがある。なので、この加速方法でも距離に応じた落下ダメージが出るのだ。
すなわち、いくら減速していようが何かしらのクッションや防御手段がなければダメージを受けるというわけである。速度が落ちていればその分ダメージは減っているけど……それでも0にはならない。発想を変えて、攻撃手段で防ぐ……箒でジェット噴射? いや、下手に使うとそれこそあらぬ方向に吹っ飛ぶ。
よくぞ一瞬でここまで思考できたなと思う――現実は非常だが。さすがに時間切れだ。
「……甘んじて受け入れるか」
「そんちょーさん、なんでそのままぶつかって――ふっとんだ!? ちょ、なにその気持ち悪い動き!?」
一つ分かったのは、変な角度で無茶な動きするとゲッダンバグが発生するという事だけだった。視界がグルグル動いて気持ち悪かった…………完全に自業自得だけど。
山肌に何度か激突したが、幸いHPは残ったおかげで死に戻らずにすんだが……あー…………これ、どうしようか。
「いきてるー?」
「何とか……ただ、やっちまったなぁ…………」
「どったの?」
「ジェット移動にも使っていたから無茶し過ぎた。あと、無意識に受け身か何かで使ったみたいで箒が壊れちゃったんだよ」
耐久値が無くなって壊れてしまったのだ。予備はあるが、未強化だし使いづらいんだよなぁ……スコップは倉庫に預けてきたから持ってきていないし……何か代わりの装備あったかな?
インベントリを漁ってみると、ちょうどいいのがあった。たしか、どこかでドロップしたんだっけ。どこで手に入れたのかは忘れたが、面白いから適当に強化しておいた武器で、性能もそこそこ高い。
「これでいいや」
「ぷふっ、デッキブラシとか、そんなのあるの」
「笑っているけど、結構強いんだぞ。それに、デッキブラシは空も飛べるからね」
「それ、魔女の女の子だけの話じゃない?」
「ゲーム的には男でもいけるから」
この【海龍のデッキブラシ+5】で――って海龍ってあれだ。リヴァイアサンでドロップしたやつだったわ……あー、そういえばそうだった。ハロウィンイベントが始まる少し前に、ヒルズ村のみんなでリヴァイアサン狩りに行こうぜーって周回したときにドロップしたんだ。みんなの防御力上げしか考えていなかったから、何日か経ってからインベントリに入っていたのを見つけたんだよ。
強化は思い出した日にやったけど、その後使わなくて結局忘れていたという事だろうけど……
「水属性強化に、魔法攻撃力も高いし……あ、これ【海賊】で使えばかなり強そう。【サモナー】でも杖の代わりになるし、その二つならスコップより使い勝手良さそう…………もっと早く気が付けばよかった」
「結局それにするのー?」
「うん。強そうだし、後で村に戻ったら強化するわ」
ストックもあるし、万が一壊れても大丈夫だからね。あとは派生強化も調べておこう。
とりあえず、このあたりを適当に探索するか……ここからだと、世界樹が良く見えるしスクショを一枚撮っておこう。
「おー、でっかい木」
「エルフの森の名物だからね……上から見て気が付いたけど、森の中にデカい湖があるんだな」
エルフの森もほとんど探索していないから気が付かなかった。ディントンさんが一時期エルフの里を拠点にしていたけど、そういった話はしないからなぁ……あの湖も綺麗に見えるし、また今度スクショを撮りに行こう。
しかし、まだ山頂までは届かないよなぁ……と、そんな時だった。地面から音が聞こえて数体のスケルトンが飛び出したのである。
「キャア!?」
「うーん……スケルトンか。ポイントは入るけど、どうする?」
「あ、そっか。こいつらボーナスかー。じゃあ、ふっとべー!」
らったんさんがステッキを向けると、黒い塊が飛び出して、スケルトンたちに命中する。まあ、スケルトンも特に装備を纏っていないプレーンな奴らだったから一撃で消えていったけど。
しかし、あの魔法見たことないけど何だろう……形状は球体だから初級魔法のボール系だとは思うんだが……属性がよくわからない。
「それ、なんて魔法?」
「えっとー……ちょっちまってねー。えっと……」
「メニュー画面からスキル一覧で見れるぞー」
この間メニューのあれこれが変わったおかげで、結構使いやすくなった。スクショもカメラ設置なんかも可能になったし、タイマー撮影もできるんだぞ。まあ、まだ使っていないけどね。
「あ、これだ。えっとねー『カースボール』って、属性は呪いだってー」
「……なんでそんなおどろおどろしい属性なんだよ。しかも闇属性じゃないんかい」
たしか闇属性もあったはずだけど、それとは別なのか……
メニュー画面のヘルプの項目から、属性について見てみると……あった。麻痺や毒などの状態異常属性に分類されるのか。闇属性にも呪いを付与する攻撃はあるが、更に状態異常に特化した攻撃ってことだろう。あと、魔法自体は無属性攻撃扱いになるらしい。
「こんなのもあったのか……でも、呪いってことは能力低下か」
PKペナルティで受ける状態異常も呪いだからね。アレは効果時間が長いけど、攻撃による付与は短いんだろうなぁ……まあ、強力ではあるけど。
「でもボスにはあまり効かないんだよねぇ」
「そりゃそうだ」
「あと、スケルトンはポイントあまり高くなーい」
「弱いからね」
「うーん……このあたりハズレかなー?」
「未発見のダンジョンでもないかなぁと思ったけど、さすがに探索されているかな」
でも、攻略サイトには山脈の情報あまりなかったんだよな。手つかずの部分結構あるはずなんだけど……結構な距離を縦断しているし、この近くには無いだけの可能性もある。まあ、今回はハズレだったけど。
記念ってことで、何枚からったんさんとスクショを撮ったが……まあ、アルバムに保管するだけ保管しておこう。
「仕方がない。帰るか」
「さげぽよー」
「とは言っても、特に何もないし……うん?」
と、視線を動かした時だった。南のほうに何やら動く物体を発見した……少し距離があるけど、あのあたりは海か。暗い上に遠くて見えにくいが……ボロボロの船が見える。
「……らったんさん、幽霊船って名前の通り幽霊沢山いるよね?」
「――――あげぽよ!」
テンションの上がったらったんさんと共に、ボート(予備)でのジェット移動をヒャッハーとした。最初の加速を残り時間ギリギリ残っていたガントレットで行うことで、なんとか海まで飛び出せたし、幽霊船にも飛び乗ることに成功。
なお、飛び乗る直前にスクショも上空から一枚パシャリと撮ったが……これはボツかなぁ。
幽霊船の乗組員は……スケルトン型かー。海賊っぽい服装をしているので、プレーンよりは強いけど。まあ、見た感じザコだな。
「ポイントウハウハ!」
「水属性は効果薄そうだけど、スリップ狙いで!」
水属性魔法『バブルウェーブ』。デッキブラシの先から大量の泡が出現して、地面を這うように進む。ダメージは低いが、当たった敵に確率でスリップさせる地味に強力な魔法だ。
らったんさんのほうも魔法で連射しているし、そんなに時間もかからずに殲滅できそうだな。とりあえず、スリップした敵に追撃しよう。
「三体とも、召喚!」
職業が【サモナー】の時、僕の同時召喚可能数は3体。レベル上げや専用のクエストをクリアすることで同時召喚数も増えるのだが、元々3体しか持っていないので関係ないか。
まあ、とりあえず三体とも召喚したわけだけど……複数同時召喚って制御難しいんだよね。基本的には自立行動するけど、【サモナー】だとこちらからも細かい指示が出せる。目の前に専用のウィンドウが表示され、召喚獣たちに対応したコマンドが表示されていた。あらかじめパターンも組めるが……
「とりあえず、殲滅フォーメーション使っとくか」
「なんかすごそう」
「単純に全員攻撃参加ってだけ」
別名、ガンガンいこうぜ。
マーメイドが水魔法でスケルトンたちを弾いて、シーモンキーが引っ掻いてダメージを与える。ジャックランタンは炎魔法で攻撃してくれているし……ちょっと火力低いなぁ。これがアリスちゃんならイフリートで蹴散らすんだろうけど。あの炎のオッサン、攻撃特化型だからクソ強いし。レア度ならマーメイドも同じくらいなんだけど、マーメイド支援よりだから……
「あっという間に溶けてくねー」
「思ったより弱かったなぁ……ある程度倒せば船長が出てくると思うんだけど」
「んゆー? 倒せば終わり?」
「うん。扱いはフィールドボスみたいなもんでね、幽霊船って海にランダム出現するんだよ」
もう数体スケルトンを倒すと、案の定より豪華な格好をしたスケルトンが現れた。
名前が『オーシャンリッチー』になっている……HPは少ないけど、一応ボス扱いっぽいな。
「さっさと倒しちゃおー!」
「魔法で集中砲火すればいけるかな?」
召喚獣含めて一斉攻撃してみたけど、ちょっと効きが悪いな。少し下がって、装備を変えるか。ガントレットを外して、【古代のアックス】へ変更する。
「んゆー? 他の武器ー?」
「これがヒットすれば防御力下がるし、楽に終わるでしょ」
「それじゃあまあ、適当に引き付けるねー」
「ありがとうね。じゃあ、発動して一気に決めるか」
一気に振りかぶって――ジャストミート!
あっさりと防御力低下も入ったし、もう一度一斉攻撃することで楽々倒すことが出来ました。
ただ……一つ問題点を上げるとするならば、スケルトンたちを倒すと幽霊船が消えてしまうので海に落ちたことだけどね。
「帰り方わかんなーい! あと、泡が絡みつくー!」
「あー魔法で出した泡も水面に浮くのか……さて、帰りはどうするか」
結局、なんとか大陸まで戻ってその日は探索を終わることなったわけである。
もうちょっと移動手段考えないといけないかなぁ……
新装備一つ目、デッキブラシ




