本来一日だけのイベントも、ネトゲだとひと月くらい使うよね
10月になった。ハロウィンイベントの開始である!
とは言っても、基本的なルールは夏イベントの時とあまり変わらないのでやることはいつも通りフィールドやダンジョンで敵を倒すだけなんだけどね。
アリスちゃんはおばけの類が苦手だから、イベントにはあまり参加しないし、他のメンバーもほどほどに参加するつもりなのでハロウィンイベントに関してはゆるーく参加する感じになってしまい、各々自由ということで。
まあ、僕は同時開催されるスクリーンショットコンテストに応募するため、被写体を探しにあちこち探索するわけだけど。狙っている商品の【海賊船】だが、単純にデザインが海賊船の移動用の乗り物で、細かい仕様は今後のアプデで公開されるだろうけど、なんとなく琴線に触れたので欲しくなった次第である。大砲ぐらいは撃てるといいなぁ……
とりあえず村でアイテム整理と装備のチェックを行っていたわけだけど、目の前にとあるプレイヤーが現れた。
「そんちょーさん、あーしこの髪飾りほしいー」
「自分でポイント稼げばいいでしょうが」
「んゆー? めんどー」
「はぁ……まあ、僕も欲しいアイテムいくつか交換リストにあったから少しぐらいは付き合うよ」
「あんがとねー」
金髪に褐色と言うよりは、小麦色の肌のプレイヤー。今回はいつもとは違い、オレンジを基調としたハロウィンって感じなミニスカ魔女の服装の『らったん』さんである。それっぽくするため、種族はドワーフだそうだ……女性ドワーフは初見じゃわかんないよ。
この前の騒動の後、なぜか彼女も村に居ついてそのまま村の住人になっていた。というか、よくプレイヤーホームを買うだけのお金があったな……
「なんかー、一緒にクエストとか行くとお金とかもらえる。まじうけるー」
「ゲーム内でパパ活してんじゃねぇよ」
「頼んでいるわけじゃないにねー」
「言っておくけど、僕は渡さないからね」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「なんかまたトラブルの予感……」
「むずかしー顔してないで、ほらスマイルスマイル」
「ちょ、頭をなでるな――――ッ!?」
らったんさんはうりうりと僕の頭をなでているが……その時、背筋が凍るような感覚を覚えた。頭の片隅ではこれぐらいならハラスメント警告受けないのかという疑問もあったのだけど、それも彼方に吹き飛ぶかのような凍えるような、それでいて熱い視線。
ギギギという音が聞こえてくるかのようにゆっくりと視線を動かしていくと……建物の陰からアリスちゃんが半分だけ顔をのぞかせてこっちをじっと見ていた。
「…………メッセージが届いた」
「んゆー?」
「えっと……ウィンドウを他のプレイヤーに見えないようにしてっと」
差出人がアリスちゃんの時点でなんかもういやな予感しかしない。
恐る恐るメッセージを開いてみると……
『お兄ちゃん、多くは語りません…………あとでお話を聞かせてもらうです』
……オゥ。
「どったのー? 顔青くしてー」
「やめるんだ。それ以上僕に近づくと身の保証はできない!」
「んゆー?」
主に僕の身の保証が。というか、最近大分落ち着いてきたと思ったのに、なんでこんな恐怖を味わっているのか……いや、まぁ…………いろいろとふわふわとした関係性なのに、他に距離感の近い女子が近くにいたらそうなるか。
「それでどこ行くー?」
「またマイペースな……」
とりあえず気持ちを切り替えていこう。いや、アリスちゃんもこっちに合流して監視ぐらいするかと思ったが、彼女は彼女で他のフレンドと約束があるらしい。さすがに約束を破る真似はしないか。
ゆっくりと視線がこちらから外れていった……行ったか。というわけで、マップを表示させて移動可能場所からめぼしい目的地を決めることに。
「墓地とかポイント多そうだしー、どうよ」
「…………いや、たぶん人がいっぱいだから」
特にガチ勢と呼ばれる人たちはたむろっているハズ。インスタンスマップもあるからそれほど混雑はしていないだろうけど、それでも大勢の人がいる場所に行くと余計な面倒が起こりそうな予感がしていた。あと、スクショコンテストに適した撮影場所もなさそうだし。
ハロウィンをテーマにした部門と、モンスターの攻撃やプレイヤーのスキルなどキマった一枚という部門、あとは特にテーマの無いフリー部門の三つの部門が存在する。
僕は特に狙ったものは無いが……まあ、ハロウィンテーマにしてもおどろおどろしすぎるのはやめておいたほうがいいかなと思っているので、墓地とかガチすぎてやめておきたい。
「んゆー? ならいいとこあんの?」
「うーん……井戸のある島…………いや、あそこ和風幽霊が多いからハロウィンに適さないか。それに、結構強いし、二人だと面倒だ」
「HP低くても囲まれたらバタンキューだしー」
「となると、適当にどこかの街道をまわってみるか」
「適当でいいの?」
「ハロウィン期間中は時間帯が夜で固定だから、適当に歩いていても出てくるでしょ」
「ほどなる」
@@@
村を出て数十分後、適当に歩くの舐めていたわ。移動に時間かかるからあんまり進めない。
「これは課金してテレポートアイテム買う人が増えるわけだわ」
「モンスターもあまりいないしー」
普段ならジェット移動で楽々と進んでいたから歩きが面倒なんて思う場面なかったからなぁ。
今僕たちがいるのは帝国近くの街道である。マップを見ると、ほぼ大陸の中心で、東のほうにはいつだったか暗黒四天王を爆破した場所が見える。
「モンスターも時々出てくるけど、雑魚ばかり」
「さげぽよー」
「今日日聞かないぞそれ」
「んゆー? 別にあーしは気にしてないしー」
「そうかい……クエストでも進めて、他の地域にワープしたほうが良かったかな」
少しだけしかやっていないのだが、NPCから受注できるクエストの中には他のエリアへワープできるものがある。そういったクエストを進めることで大陸各地へ移動し、ファストトラベルポイントを増やすのがこのゲームにおける移動スタイルの基本だ。
サービス開始から半年も経っているのに今更そんな話題が出てくることに内心驚愕しているが。いや、やっぱ島暮らしが長かったせいだな。
大陸に突入してからは時々そういったクエストで行動範囲を広げていたのだが、まだ東側はあまり行ったことが無いんだよなぁ……いざとなったら海を突っ切ればいいやって思っていたし。
「……東、行ってみるか」
「高い山があるけどー?」
「山って言うか、山脈だけどね」
大陸の中心から少し東には、大陸を縦断する山脈が存在している。これのせいで大陸を横断するのが面倒なんだそうだ。物理的に移動するの難しいから。
だが、僕らの今の目的はポイント稼ぎなど……いや、そもそも適当に進めてみようという話だから――
「いっそのこと、山を登ってみるのもありかなって」
「えーめんどー」
「確かに面倒だけど…………未発見のダンジョンとか見つけたら楽しそうじゃないかな?」
「……それはありよりのあり」
というわけで、ボートを取り出して乗り込んでもらう。今の僕の職業は【サモナー】だからアクセサリーや武器が普段とは異なるが、まあ炎の噴射ぐらいならいつもとあまり感覚は変わらずに使える。
「箒なんてあったん?」
「うん。種別は杖とか槍とかのスキルに対応だけどね」
というわけで、いつものように箒を使ってジェット移動です。あと、コイツも強化してあるので今回は武器はこれを使おうと思う。あとガントレット。
「出発進行!」
「きゅうりの浅漬け!」
「……なにその古典的な返し」
そんな無駄話もそこそこに、周囲の景色が流れるように切り替わる。道中、ぎょっとした顔でこちらを見るプレイヤーが何人かいたが、たなびくマフラーを見たからなのかすぐに視線が戻っていく。
もはや僕のほうも、水着マフラーから変えられないのって無茶なことしてもいつも通りの行動に思ってもらえるからなんだよなぁ……自由にやりたければ、相応の土台があったほうがいいのだ。
「はやいはやい!」
「10分もすれば麓まで到着するよー」
「それでも結構距離ある?」
「そりゃね」
海はもっとスピードを出せたが、地面だとボートが摩擦で減速するから。耐久値も減っていくから途中で壊れる可能性もあるし。
職業を【海賊】にしておけば良かったかなぁ……いや、それはそれで武器が納得いっていないし。結局十手は僕には合わなかったんだよね。誰か使う人いないか聞いたところ、よぐそとさんが使うことになった。まあ、和風装備だし順当なところだろう。
「っと、そろそろボートが壊れるから減速するよー」
「了解!」
ゆっくりとボートの速度を落としていく。何度も壊していると、体感で壊れるタイミングが分かってくるからね……ボートから降りて耐久値をチェックすると案の定もう壊れる寸前だった。
素材自体はまだあるからボートのストックもそれなりにあるんだけど、そろそろちゃんとした乗り物が欲しい。半月後ぐらいのアップデートでそのあたりの改善を行うらしいし、あと少しの辛抱だ。
今そのアップデートが来るのもプレイヤーの行動範囲が広がって、いよいよ移動速度の問題が増えてきたからだし。
「さてと、次のボートで……うん? どうしたの、らったんさん」
「んゆー? なんかー、あそこに村が見える的なー」
「村? このあたりに村なんて……あったよオイ」
しかもぼろぼろの廃村。マップ的にはちょうど大陸中央近くの森とエルフの森の間の平原だが…………一応、前に攻略サイトでマップの確認をしたことがあったんだけど、こんなところに村なんてあったかな?
でもまあ、気になる場所を見つけたら探索するよね。というわけで当初の予定を変更して廃村に突入することに。
「ささ、お先にどうぞ」
「……そんちょーさん、れでぃーふぁーすとじゃないのー?」
「廃村に侵入したら強制的にクエスト受けさせられることもあるから」
「よけいにあーしを前に出すとかひどくなーい?」
村長になったきっかけを思い出して懐かしいなぁと思いつつ、ぐいぐいとらったんさんの背中を押していく。
「ちょ、そんちょーさんひどいー!」
「ごまかされないか」
「ごまかしてすらいないー!」
「……仕方がない。ちゃんと入るよ」
「最初からそうしてー」
「でもこんな分かりやすい所に未発見マップなんて……ああ、そう言う事か」
「どったのー?」
「マップ名が『ミッドナイトタウン』だって」
名前から連想するに、ゲーム内時間で深夜じゃないと出現していないとかそういう類だろう。他の理由も考えられるけど、このあたり他に何もないし昼間に来ていたら見つかっているだろうから時間帯説が一番可能性が高そうだ。
それに、暗いと遠目からじゃ見えないだろうし……ただ…………
「何かありそう?」
「なんもなーし」
「ただの廃村、いやタウンだから町だけど……それか、別のクエストに使うのか」
しかも村の中を見て回った感じ、教会もない。ファストトラベルの場所にも使えないか……そもそもこの近くなら、森の中に小さい教会が設置してあったはずだから移動の拠点には事足りている。
モンスターも出る気配がないし……ハズレだったかなぁと思った次の瞬間だった。背後でなにかが燃える音が聞こえたのは。
「……そんちょーさん、あーし後ろを振り向きたくない」
「ホラー系の敵でも出たかなぁ」
「あーし、ホラーダメなんだけど」
「じゃあなんでハロウィンイベント参加してんだよ」
「……だって、カボチャのバレッタかわいいしー」
「あ、そうですか」
まあどうせゲーム内だしリアルおばけなわけもないから僕はあっさり振り向くんだけどね。
らったんさんはぎょっとした顔をしているけど、そこまで怖がる必要もない――
『ケケケ!』
「うおっ!? 目の前にカボチャの顔が!?」
「キャー!?」
輝くカボチャの顔に、頭に黒い三角帽子をのせ、首から下はマントに覆われている。ちらちら見えるが、二頭身体型の小さな体が入っているようだ。
その何か……ジャックなランタン君なのはわかるんだけど、そいつはケケケと笑いながら僕らの周りをまわっている。しかも、ご丁寧に二体も。それぞれ一体ずつ笑いながらぐるぐると――ってなんか似たようなシチュエーション前にあったぞー。こいつらHP表示ないし、頭上に名前表示も出ていない。
やがて、僕らの真正面に立ったかと思ったら小さな火の球になってそれぞれの中に入ってきた。
「なになに!?」
「あーやっぱりか……らったんさん、システムメッセージ見てみな」
「んゆぅ……『サモン・ジャックランタン』ってなんなのー?」
「召喚獣スキルの取得だね。特定の場所を訪れると、こうして召喚獣が手に入ることがあるんだよ」
僕のマーメイドやアリスちゃんのイフリートはランダム発生型で手に入りにくいのだが、以前手に入れたシーモンキーなどは今回みたいにこうやって決められた条件さえ満たせば簡単に手に入る。その分、性能はそこまで高くないのだが。
でもちょうどよく今は【サモナー】だし、同時召喚も三体まで可能だから……単純に戦力アップである。
「なるほど、召喚獣の入手ポイントだったわけね。後でアリスちゃんにも――いや、おばけ苦手だから断るかもしれないな」
「あーびっくりしたしー!」
あとゴースト系に近い召喚獣ってことは夜のみ入れる説は正しいかもしれない。昼間にまた来てみれば確認も取れるけど。
その後、らったんさんが落ち着くまで少し待つことになった。
7章は今まで行っていなかった場所などへ小旅行みたいな感じが中心になります。
あと、数話先でロポンギーの新装備お披露目。




