騒動の終わり――それから
メンテナンスは結構な時間がかかった上に、データ更新でアップデートが挟まったのでログインができるようになったのは翌日の17時からだった。
もっとも僕は日中学校だったしあまり関係は――いや、アクセス集中でログインに時間がかかったけど。
「それで、村長はいったい何をしているわけ?」
「みょーんさん、見てわからない? 誰かさんたちがアリスちゃんに負担かけ過ぎたからねぎらっているんだよ」
「……なんか、ごめんなさいね」
「まったくね!」
ただいま村の広場、アリスちゃんをあすなろ抱きしながらベンチに座っている次第である。
多くは望まないのでねぎらってほしいとのことだった。
「……ねえ、アリスちゃん顔真っ赤だけど」
「自分からガンガンアピールしていたくせに、防御力は無いみたい」
「そして村長はなんでそんなに平然としているのよ」
「結構恥ずかしいけど?」
「それにしてはかなり冷静というか……あと、なんで睨んでいるのかなぁって」
「…………確かに最後に暴走したのはアリスちゃんだけどさ、暴走させたのは誰だよ」
「いやホント、ごめんなさい。その場のテンションに流されるままやらかしちゃって」
今現在、ログインしたプレイヤーたちにより村の修復作業中。とは言っても建物が壊れたとかそういうわけではない。ただ、自分たちで設置したオブジェクトとかはアリスちゃんが追い詰められた末にぶっ放した『スクラップ砲』で壊れてしまったので、こうして連帯責任で修理してもらっている。
まあ、貴重なものも特になかったんだけどね。あくまで責任は取ってもらうのに形式上やってもらっているだけだし。
「しかし、今回運営の動きが素早いことで」
「良いことじゃない」
「お詫びのアイテムは後日配布か」
「全プレイヤーに経験値ブーストアイテムと、ヘアサロンチケットとは豪華ね」
「それだけ大きなバグだったとも言うけど」
「村長たちはまた別に貰ったのよね?」
「うん。こっちは個人だからメッセージに添付だったけど」
僕、らったんさん、ユーリクリさんへの個別のお詫びについてはすぐに送信されていたのだ。モールにて一定額のアイテムまでと交換できるチケットである。
そんなわけで僕はこの体勢のままウィンドウから何かいいアイテムがないかなぁと眺めているところだったわけだ。
「うーん……せっかくだし、これでいいか」
そういえば今まで関連アイテムは持っていたけど、肝心の本体持ってなかったなぁ……ちょうどこの話題も聞いていたし、いいタイミングかもしれない。
「ふぅ……一仕事終わったのう。さすがに人が多いとあっという間に終わるの」
「あ、ライオン丸。お疲れさまー」
「しっかし昨日はえらい目に遭ったの。最後、意識が飛びそうになった瞬間、真っ白な光で消し飛んでしまったぞ……まだ体の震えが止まらないんじゃが」
「思い出さないほうがいいわよ。ワタシも体がプルプル震えるのよ」
「どんだけ怖かったのか……」
「その怖いことをした子をおぬしはだっこしているわけじゃが――ところで村長、その足元にいるのは何じゃ?」
「うん? ペットだぞ」
「…………白い虎?」
「名前は『ミナト』だ」
僕の足元にいたのは、子猫サイズの白い虎である。交換可能な値段のアイテムにちょうどよくあったペットを引き替えた次第である。
さっそく引き換えたが――なんかアリスちゃんの目が見開いているんだが。
「ヒィ!? 新たなマスコットです!?」
「いや、僕が出したペットだから」
「ああ、なんだペットでしたか――ってなんでアリスはお兄ちゃんに抱っこされているですか!?」
「え、今まで認識していなかったの?」
「あれじゃな。恥ずかしすぎて意識が宇宙のかなたに旅立っておったんじゃろう」
「ちょ、うれしいですけど恥ずかしいです! 離して、離してです!」
「そもそもあれってハラスメント判定喰らわないのかしら?」
「元々嬢ちゃんは村長に対してそのあたりの制限解除しておったじゃろ」
「ああ、そういえば……」
さすがにこれ以上はアリスちゃんが恥ずかしさで爆発しそうなので、離してあげる。
とりあえず今までガチャチケなどで手に入れていたけど使い道のなかったペット用の餌を与えることに。
「ほら餌だぞー」
「ガオー」
「…………ペットはペットでまたあの争いが始まりそうで怖いのですが」
「やってみる? 誰のペットが一番でショー」
「絶対にやめてくださいね」
というか今度暴れ出したら次は僕が爆破するぞ。
「しかしペットはどういう効果じゃったっけ?」
「アイテムはそもそも自動取得だし……」
「ペットによるけど、採集素材を集めたり、追加でアイテムが出たりとからしい。あと、回復アイテムの自動使用とか」
「へぇ……」
「ただ、ボス戦には連れていけないんだけどね」
ソロプレイならいるだけでかなり楽になりそうな性能である。たぶん、ニー子さんあたりは使っていると思う。というかほぼソロのあの人はペットでも使わないと高レベルダンジョン突破は厳しいだろう。
「まあ、餌を与えておかないとそのあたりの行動とってくれないんだけどね」
「便利なものには相応のリスクも存在するからの」
「リスクっていうか、コストだけど」
「でも、この子はこの子で可愛いですね」
しかし、昨日の話を聞いたせいでこの子もプログラムで動くんだよなぁと……考えないようにしよう。
あと、あまり人前では使わないほうがいいかもしれない。修理している連中の視線がグリンとこっちを向いているのだ。こわっ。
とりあえずミナトを回収して、インベントリに入れておく。
「ああっ」
「もうちょっだけ眺めていたかったのじゃが」
「身の危険を感じるからダメ」
「昨日の今日で反省してくださいです……ところで、気になったのですがディントンさんはあそこで何をしているです?」
アリスちゃんの視線の先にいるディントンさんだが……なぜかアンニュイな表情で壁に背を預けて空を眺めている。
「あー……気にしないほうがいいわよ」
「下手に近づくと巻き込まれるぞ」
「? それってどういう――」
尋ねようとしたその時、ディントンさんに近づく影が一つ。
「どうしたんだニャ?」
「…………モデル、発見」
「うニャ? ニャ、ちょ、アタイをどうする気ニャ!?」
「降りてきたのよー! ハロウィンコスのインスピレーションが降りてきたのよー!」
「ウニャァ!?」
……あー、そっか。ハロウィンイベントが近いからその衣装を考えていたのか。
でも、前に参加は見送るって言っていなかったかな? そのあたりの関係でカボチャ栽培していたんだし。
「それが、公式ブログも更新していてね……水着イベントの時みたいに装備ボーナスがあるらしいのよ」
「というか、ルールは水着の時とほぼ同じじゃな。違いは、ハロウィンらしくゴースト系とかアンデッド系とかそのあたりが対象かつ、装備もハロウィンっぽいものにボーナスがあるのと、時間帯が夜になることじゃ。あとは、カボチャの納品とか……まあ細かいことは後日の説明じゃがな」
「今度は常に夜なのかぁ……」
「うう、おばけは嫌いですけど……どうするです?」
「うーん……今更装備変えるのもなぁ」
水着マフラーも板についてしまい、今更変える気分にもならない。
メニュー画面からゲームニュースを表示してみていくが……交換アイテムも【エネルギーボトル】と古代兵器のパーツ系ぐらいしか欲しいのなさそうだなぁ…………わざわざボーナスつけなくてもいいかなって思う。
「……いつも通り遊んで、自然にたまったポイントで適当に交換すればいいや」
「なんじゃ消極的じゃな」
「今回、食指が動かないんだよ」
と、そこでニュースに気になる一文を見つける。
「…………これだ!」
「なんじゃ?」
「いったいどうしたのよ……」
「お兄ちゃん、どうしたです?」
「ハロウィンイベント開催記念、スクリーンショットコンテスト。ハロウィンにちなんだテーマや、フリーテーマとか部門はいくつかあるけど、なかなか楽しそうなイベントじゃないか!」
「あーそう言えばそれもあったわね」
「ワシらそっちはあまり興味ないからの」
「へぇ、こういうのもあるんですね」
「この商品を見てみるのだ!」
「えっと……乗り物、【海賊船】?」
「今あるボート系も調整が入るそうじゃが、今後実装予定の乗り物カテゴリの新アイテムみたいじゃな」
「お兄ちゃん……これ、狙うですか?」
「ああ――海賊船を手に入れて、船長に俺はなる!」
「ギリギリじゃないですかね、その発言」
というわけで、7章ハロウィンイベント期間中――スクショコンテスト編です。
ようやく広大なフィールドへ足を踏み入れていきます。




