アリスと無法者たち
つ、疲れたです……皆さん、即興で歌うせいで非常に聴くに堪えないというか、全然あっていないせいでムンクの叫びみたいな顔になってしまうほどのダメージをおったです。
「……もう、どっちも勝利でいいですよ」
「そういうわけにはいかないんじゃ!」
「そうよ、ワタシたちフォフォちゃん応援団のプライドにかけて負けられないのよ!」
「結成して一時間ぐらいしか経っていないと思うのです」
「まったく度し難い――吾輩たち、コッペン親衛隊の前にひれ伏すがいい!」
「そっちもそんな威厳ないですからね」
結局このバカ騒ぎは緊急メンテナンス開始まで続くのでしょうか?
どうにもならないこんな気持ち、非常に困るのです。
アリスにこの人たちをさばききれないのです。というか、こっそりログアウト――しようとした瞬間、グリンとみんなの顔が一斉にこちらに向いたのです――え、こわっ。
「ヒィイイ!?」
「アリスちゃん、審査委員長が勝手に帰っちゃ駄目じゃないの」
「ほ、ほら。もうお眠の時間ですから」
「いつも徹夜しようとする不良女児が何言っているのよ」
「くっ、普段の自分が恨めしいです」
ここ最近はお兄ちゃんと一緒に遊べていましたし、もうちょっとと思うのはいけないのでしょうか?
と、言ってみてもたぶんこの人たちは知ったことかとお互いの意見を言い合うだけですね。というか既に次のラウンドが始まりました。
「YO、YO! 次は俺だぜ、コイツの魅力、俺は迫力、中華は火力、イェイ」
「適当に韻を踏んでみただけじゃないっすか……」
「どうやらフォフォ側は人材不足のようだね」
「ちょっとそこのスキンヘッドのオーガ! もうちょっとまともなアピールできないの!?」
「す、スンマセン……」
えっと……メニューから名前表示をオンにして、全員の頭上にプレイヤー名が表示されたです。
これで皆さんのプレイヤー名がわかるですが――あのスキンヘッドの人は、名前は漢字ですね。えっと、指輪職人? なんですか、その変な名前……
「この鳴き声を聴いてみよ!」
「くぅん?」
「グハッ!?」
「マンドリル君!? しっかりしたまえ、致命傷だぞ!」
「致命傷だとあかんのやけどなぁ」
「か、可愛さに撃ち抜かれる……」
「誰か――誰か反論を持つ者はいないのか?」
「ここにいるぜ、探偵さんよぉ!」
そう言って現れたのは、小太りの男性でした。えっと、ほむっと仮面さんと言うのですか……特に顔には何かつけていませんけど。
というか、この人どこかで……?
「はー、どすこーい! どすこーい!」
「力士の人ですか!?」
「ヒィ!?」
「こらほむっとちゃん! まだみそぎはすんでいないんだから、刺激の強いポーズはダメって言ったでしょ!」
「ら、ランナーBの姐さん!? すいません! これいれないと、気合が入らなくて……」
「言い訳は見苦しいわよ!」
なんか、ネコミミのマッチョさんがらむらむさんをかばっているです。いや、力士の人がらむらむさんに迷惑をかけたのは知っているですけど、だからって貴女がかばうと余計にダメージが……ほら、ムキムキのネコミミを近くで見たせいで、目がグルグルして倒れちゃったじゃないですか。
まあ、記憶がより悪い方向で上書きされたので力士のイメージは消えたかもですけど。
「それで、ほむっとちゃん? アチキにどんなアピールをみせてくれるのかしらん?」
「――――コッペン様は、ブドウがお好きなんだ」
「なん、ですって!?」
「え、驚くところなんですか?」
ほむっと仮面さんが恭しく差し出したブドウを優雅に食べるコッペン。目線もこちらに向けているですし……なんでそんな動きが出来るですか?
というか、アリスは何を見せられているのですか?
「グハッ!?」
「よぐそと殿ぉおおお!?」
「か、彼女は最高よ……で、ござる」
「ヒドイ……何をするのでござるか!? そんな女王様チックにブドウを食べるなんて、ダメージが大きいに決まっているでござるのに!」
「いや、どういう理屈ですか」
それに桃子さんはコッペン側ですよね? よぐそとさん一応フォフォ側ですけど……
というか、桃子さんはなんでよぐそとさんが好きなのか疑問になってきたですよ、最近。
ちょっと抜けているですし、鈍感で、ヒャッハーで、恋愛とか全然考えていなくて、ゲームが好きなよぐそとさん――なんですかね、この自分にも刺さっている感じは。
「うん? アリスちゃん? どうしたのよ」
「…………いえ、恋愛って難しいなって」
「いきなりどうしたのー?」
「なんでもないです。理屈じゃないですよねって再確認しただけなので」
そうですよね。好きになるのって理屈じゃないですよね。
だから、この人たちの行動も理屈じゃない――つまり、説明できないと。
「いや、それだと困るですよ!? 論破できないです!」
「まさかさっきのブドウ――審査委員長にもダメージを与えるとは、なんと卑劣な!」
「さすがに違うのだが……」
「ええい! ディントン、次の刺客は誰!?」
「えっとー、イチゴ大福さん、レッツゴー!」
「俺か……とは言うものの、可愛い以上にアピールする要素なんて――」
彼がそう言った瞬間でした、フォフォがお腹を上にして甘えた声を出したのは。
この私に可愛い以上に必要なものなどない。そんな声が聞こえてくるかのようでした――アリス以外のみんなは目をハートにして、膝をついているです。
「いや、そうはならないですよね」
「なんて、破壊力――ッ」
「味方陣営までにも被害は甚大なようね!」
「みょーんさん……ほとんどうつぶせで何言っているですか」
「空が明るくなってきたー」
「ディントンさん、現実だと夜の9時ですからね……ゲーム内だと日の出の時間ですよ」
さっきから視界の隅に流れているシステムメッセージによると、緊急メンテナンスは11時からなので後2時間しかないのです。
もう時間まで心を静かにしてやり過ごすしかないのかもしれません。
「次は――こちらの番です」
「私たちの用意したこのアイテムの数々を見よ!」
めっちゃ色々さんと、ヤンバルクイナさんが肩を組んで前に出てきました。というか、膝が震えているですよ。あと、今更の話ですがなんで皆さん満身創痍なんですかね?
別に徹夜しているわけでもないですのに、なぜここまで盛り上がれるのか――アリスが遠い目をしていると、二人はいくつものアイテムを取り出しました。なぜかデフォルメされたペンギンのマークが書かれている装備品の数々です。
「ま、まさか――そいつは!?」
「そんな、それを出されたらこっちが不利なんだけどー」
「ライオン丸、ディントン? 知っているの!?」
「アレはコッペンのマークが刻まれた、皇后シリーズの装備じゃ!」
「私もお目にかかったのは初めて……レア度高いのになんでそんなにー?」
「っていうか今までコッペンのこと知らなかったから装備にお目にかからなかっただけなのでは……」
「ぐふっ、知名度の低さでこちらがダメージを受けるとは……」
「だが――フォフォにシリーズアイテムがないのもまた事実!」
「グハッ!?」
「さっきからなんでダメージ受けているですか? いや、数値的にはノーダメでしょうけど」
律儀に【エフェクトパック】とか使っているですよね? わざわざ血を吐く感じのエフェクトを出したいだけで。
と、その時でした……ゆらりとディントンさんが立ち上がったのは。
「ふふふ……」
「ど、どうしたでござるか? ディントン殿」
「そっちがその気なら――こっちだって本気出すよー! カモーン【仕立て屋】部隊!」
ディントンさんがそう言うと、ずらっと多くのプレイヤーが現れました。っていうか、どこにいたですか!?
「そういえばアリスちゃんにはまだ言っていなかったけど、さすがに村に収容できるプレイヤーに限界があるからちょっと離れたところで別動隊が待機しているわ」
「ここにだって大勢のプレイヤーがいるのにまだ待機している人たちいたんです!?」
「今だって続々と教会から出て来ては待機列に並んでいるじゃない」
「うわぁ……よく見ればぞろぞろと教会から人が出てきていたですよ」
というかメンテナンス前にサーバーに負荷をかけないであげてください。今頃叔父さんたちが悲鳴を上げているですよ。
そうこうしている間にも、ディントンさんたちはメニュー画面で何かを操作していたかと思うと、高速で手を動かし始めました。
「え、何事です!?」
「デザインよ、為せば成る……なさねばならぬー」
「あっという間にデザインが出来上がって――アイテムが製作されただと!?」
「ポポはん、これが人の情熱なんよ」
「情熱で済ませていい問題でもないですよね」
(正確には、私がデザインを描いている間に他のみんなが装備製作に必要な素材を加工したりして時間短縮しただけなんだけどねー)
「プレイヤーが製作すればファンアイテムの一つや二つ作れる、これが製作プレイヤーの本気じゃ!」
ちなみに、あくまでもデザイン変更であって性能は基になったアイテムに準じるです。
一応、使った素材に応じて若干の性能変更なども行えるそうですが、強化改造とは違うので大きな変動はしないみたいですけど。
アイテム製作はいくつかのパターンがあって、一番手っ取り早いオリジナルデザイン装備が見た目だけ変えるデザイン変更です。アリスが前に貰った【白鳥のドレス】は素材から作られたものですが、ゲーム内にベースデザインがあってアレンジを加えたものらしいです。
「だけど、同人はあくまでも同人、オフィシャルじゃないんですよ!」
「そうやってオフィシャルやらライセンスやら、肩書ばかり気にすることに意味などないじゃろ! 大切なのは、愛じゃよ」
「朗らかに笑いながら言うのもどうかと……」
「なんだかなぁ……暗黒四天王、反論は何かないのか?」
「え、俺たちですか? コッペンを扇ぐので忙しいんですが」
「…………どこから出したんだその大きなうちわ」
暗黒四天王さんたちは大きなうちわで優雅に飲み物を飲んでいるコッペンを扇いでいます。というか、豪華な椅子に座っていますし、どこの女王様ですか……いや、そもそもその椅子どこから?
フォフォのほうはどうなっているですかねと、視線を移してみると……そちらも変なことになっていたです。
「うわぁ……」
「うん? アリスちゃんもやってみる?」
「遠慮しておくです」
銀ギーさんがあおむけになって地面に寝そべり、フォフォの肉球に踏まれていたです。なんか列ができているですが、肉球に踏まれるためだけに並んでいるのでしょうか……?
「さあ、審査委員長……どちらがマスコットに相応しいかしら」
「厳正な審査を要求する」
「どっちもダメじゃないですかね?」
アリスのその一言に、二匹ともガーンと言った表情をしたように見えたです――って、中の人とかいませんよね、この二匹?
てくてくと歩いて来て、二匹はメンチを切り合うような距離まで顔を近づけたです。
「一触即発の空気……」
「これは、直接対決ということか?」
「それ、マスコットとしてどうなんですかね」
二匹はそのままにらみ合ったまま……なんか微動だにしなくなったですけど。
「お互いにマスコットの座を譲る気はないということだな」
「これそういうアクションなんですか?」
皆さん、忘れているかもしれないですけど、これゲームですよ。
あの二匹がどういうプログラムで動いているかわからないですけど、これゲームですよ。
アリスがそう主張しても周りの人たちは我関せずとばかりに次の対決へと移ってしまうです。
「投票だ。ここで我々だけが思いのたけをぶつけても決着はつかない。だからこそ掲示板のみんなに決めてもらおうじゃないか!」
「そうね。それが合理的ね」
「これ以上更に大勢巻き込むつもりですか!?」
「決選投票だ! そこで決着をつけようじゃないか!」
「シンプルに数で勝負というわけね、やってやろうじゃない!」
「お兄ちゃん、叔父さん、メッセージを送るので何とかしてくださいです!」
なお、帰ってきた返信はお兄ちゃんが『動けないことにはどうしようもない。書き込んでもたぶん流されるだけだから……ごめん、何か埋め合わせはするから頑張って』でした。
叔父さんは『負荷……チェック、解析…………ぼす、けて』と、これダメなヤツだったことをここに記すです。
緊急メンテ開始まで残り、1時間40分。




