人生相談する相手間違っていませんか?
一方その頃、ロポンギー達はというと……座り込んでユーリクリの人生相談をしていた。
「嫁のことは愛している、でも……時々不安になるんだ、こんな俺が幸せになっていいのかって」
「やっぱりさ、スキルの組み合わせって大事だと思うんだよ。今回はバグってこういうことになったけど、奥義スキルの組み合わせは面白い気配を感じたんだ」
「それなー。あーし、結構はやいところでー、怪盗? ってのになったんだけどー、使いやすくてー、いつの間にか奥義ってのが二つあったー」
「なかなかレアだよ【怪盗】。イチゴ大福さん以外に転職した人初めて見たけど」
「最初町に入れなくなってマジ笑えた」
「笑えるかなぁ」
「ねえ、君たち聞いている?」
まったく聞いていない。人生相談をしている気になっていたのはユーリクリだけだった。
ちなみに、【怪盗】を含め今まで町へ入るのに苦労した職業がいくつか存在したが、今では条件を満たすことで普通に入れるようになった。【海賊】も同様の特性があるのだが、身分を保証するフラグの存在するクエスト――ロポンギーの場合は大司祭のクエスト――をクリアしていればオーケーである。
「そんちょーさんは、面白いダンジョンとか見つけた感じ?」
「面白いダンジョンか……アクア王国なら海底神殿を周回して、水底シリーズのアクセサリーを手に入れるでしょ」
「ふむふむ」
「で、アクア王国が夜の間に受けられるクエストで『水底の王者』ってのがあるんだけど、それを受けると水中のドラゴン、リヴァイサンと戦えるようになる」
「おお! ドラゴンって強いー?」
「それなりに。古代兵器があれば楽に勝てるけど、無いと苦戦するって聞いた」
「んゆー? あの時間かかるヤツかー」
「夏ごろから始めているなら、【古代のナイフ】はないの?」
「めんどーで貰わなかった的なー? あと、服そろえるのにポイント使ったー」
「道理で世界観にそぐわない――ってのは今更だね」
ロポンギーの脳内によぎるのは夏の光景。クソダサTにサメの着ぐるみ、裸マフラーの変態に、チャイナ服が標準装備の子。ロリ巨乳を気にしているのに最近は胸を強調するような服装になってきた人や、ファンタジー作品なのに和装ばかり着ている人たち……
「違う、これいつものヒルズ村の光景」
なお、自分も入っている。
と、そんな時であった。システムメッセージが流れ出したのは。
「んゆー? 運営からメール?」
「うん? あ、本当だ……メンテナンスの告知かなにかかな?」
そこに書かれていたのは、マル秘マスコットキャラクターの実装についてである。ハロウィンに先駆けてBFOのマスコットキャラクターが出現しましたって……コッペンは? そう思ったロポンギーだったが、すぐに考え直した。
いや、二体目のマスコットキャラクターってことでいいのか。別にマスコットが複数いても問題ないんだから。なお、名前は『フォトンフォックス』。略称はフォフォである。
このバグが出ているタイミングなのが気になるが、まあべつにどうでもいいかとそのあたりのことは気にしないことにした。
「マスコットか……子供には、どんなぬいぐるみをプレゼントしたらいいんだろうか。それとも、お人形さんがいいか? 最近の魔法少女ものにもチェックを入れて……」
「娘生まれる前提やんけ」
「男でもありよりのありでは?」
「ぬいぐるみは良いけど、魔法少女もの見せる前提はおかしいだろ」
「それな」
子供が自分から見始めたのならわからんでもないが、生まれる前にそんなことを考えている時点で娘が生まれる前提であった。まだ性別もわからない段階だというのに。
「女装でもさせるつもりなのだろうか……」
「まじうけるー」
「お父さん嫌いとか言われたら――ああッ」
「ああッ、じゃないよ。早すぎるよ妄想が!」
「生まれてから考えなー」
「彼氏なんかつれてきた日には、俺の、俺の娘をぉおおおおおお! この泥棒猫!」
「え、彼女?」
「どっちなのか」
ユーリクリは混乱していた。
「暇だなぁ……ログアウトして休もうかな」
「それもありよりのありー」
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはねぇ!」
「ところで、この人放置でいいのかな?」
さすがのロポンギーもひどい混乱状態のデバフを喰らった人をどうにかする手段は思いつかなかった。普段ならとりあえず爆破しておくが、今この場所はイレギュラーなエリアのため余計なアクションをするのはマズイためである。
らったんもあまり触れたくはないのか、スルーするつもりだった。適当に返事をしながらメニュー画面を開いている。どうやら、別のことに興味が移ったらしい。
「放置ほうちー。触らぬおぐしにタッタラーはないからー」
「触らぬ神に祟りなし、だからね。タッタラーってなんの効果音だよ……まあ、放置でいいか。そういえば、みんなは何をしているんだろうか?」
メッセージを送ってみるか? いや、自分があんな吹っ飛び方をしておいて向こうからメッセージを送っていない時点で心配していないのは明白だ。
なら、こちらから尋ねる気にもならない。どうせみんな僕が立てたスレを見て無事を確信したんだろうけど。
「でもなんでアリスちゃんまでメッセージを送ってこないんだろう……ちょっと違和感がある」
とりあえず彼女にはメッセージを送ろうか――そう考えていた時、らったんが笑いこけていた。
「あははははは」
「どうしたんですか?」
「これがヤバい」
「うん? 掲示板……」
ロポンギーが覗き込むと、妙なスレが盛り上がっているのが分かった。
どうやら現在のヒルズ村の様子らしいが……
@@@
【皇后ペンギン】どっちのマスコットでショー!【フォトンフォックス】
1.ヒルズ村の魔女 (フォフォ)
さあ始まりました! どっちのマスコットでショーのお時間です!
司会はこのワタシ、ヒルズ村の魔女です。解説は、この方!
2.ロリ巨乳 (フォフォ)
どうも、最近自分の属性も前向きに受け止められるようになった解説のロリ巨乳ですー
合法ですよ
3.ヒルズ村の魔女 (フォフォ)
そして審査委員長に、この方をお迎えしております
4.ジェット移動ちゃん
どうも、成り行きで審査委員長にさせられた人です
……ログアウトしていいですか?
5.ヒルズ村の魔女 (フォフォ)
貴女がいなくなると公平な審査が出来ないのでダメです
6.ロリ巨乳 (フォフォ)
厳正な審査をお願いしますー
7.鍛冶屋さん (フォフォ)
そうじゃぞ、厳正な判断をお願いする
8.まな板 (コッペン)
そうでござるよ。貴女が間に立たないとみんな好き勝手言うだけでござるからな
9.まな板 (コッペン)
誰でござるか拙者の名前欄勝手にいじったアホは! 表に出て来い!
10.目隠れアサシン (フォフォ)
まぁまぁ、落ち着いて、ください
11.目隠れエルフ (コッペン)
目隠れでかぶった……ロリ巨乳、アンタの友人であるこの私、属性がかぶったんだけどどうすればいい?
12.ロリ巨乳 (フォフォ)
どっちも片目隠れでかぶっているからコンビくめばー?
13.怪盗紳士 (フォフォ)
いつもと同じコテハンじゃないのか?
参加側は付けているけど
14.名探偵 (コッペン)
コテハンはお好みでだね
審査委員長以外は勢力を書けば問題ない
15.暗黒四天王A (コッペン)
さっさと始めようぜ
16.ヒルズ村の魔女 (フォフォ)
時間も押しているのでまずはそれぞれのアピールポイントをお願いします!
まずは皇后ペンギンこと通称コッペンのアピールです!
17.ジェット移動ちゃん
お兄ちゃん、助けてくださいです……
叔父さん、不具合よりもこの人たちどうにかしてくださいです……
18.ロリ巨乳 (フォフォ)
ちなみに、集まった有志の人が生放送を開始していますので、映像で見たい方はそちらをどうぞ
もしくは、現地に来られる方はどうぞお越しください
緊急メンテナンスが始まるまで全力でお送りいたします
19.ジェット移動ちゃん
いろいろ怒られるからやめてくださいです!?
っていうか、限界までやるつもりなんですか!?
お兄ちゃん、助けてくださいですぅ……
20.暗黒四天王B (コッペン)
まずは俺だぜ
この丸っこいボディにジトっとした目、ふてぶてしい表情
そしてこのおしゃまな立ち姿!
21.目隠れアサシン (フォフォ)
笑止千万、あたしが、フォフォちゃんの、魅力を、伝える
まず、このキラキラした、お耳と、尻尾
キュート
22.目隠れアサシン (フォフォ)
何よりも、くりくりとした、可愛らしい、瞳
コーンと、きゃわいい、鳴き声
23.火炎瓶の錬金術師 (コッペン)
それこそ笑止千万ですよ
見てください、コッペンは握手してくれるんですよ!
24.ネコミミダンサー (フォフォ)
それこそ笑止千万だニャ!
フォったんも握手してくれるニャよ!
25.くノ一 (コッペン)
ようやく名前欄戻ったでござる……っていうか、実況も解説もフォフォ側ではないでござるか! 不公平でござる! 笑止千万でござる!
26.ヒルズ村の魔女 (フォフォ)
厳正な審査の結果よ。笑止千万よ
27.ロリ巨乳 (フォフォ)
そうだぞー
28.くノ一 (コッペン)
おのれぇええええ!
29.ジェット移動ちゃん
さ、最初のアピール合戦は引き分け! 引き分けでいいですから!
っていうか乱闘をはじめないで欲しいです!
掲示板で拾っている発言以上にヒートアップし過ぎです!
あと笑止千万って言いたいだけですよね?
30.名探偵 (コッペン)
仕方がない――ならば、どちらがより愛のある応援歌を歌えるか勝負だ!
31.妖精剣士 (フォフォ)
望むところだ!
32.ジェット移動ちゃん
なぜです!?
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「え、ナニコレ?」
「さぁ?」
「っていうかアリスちゃん、大丈夫なのかな……」
非常に心配になったロポンギーである。
どうにか村に戻れないか……いや、下手に動くのはマズイのであった。それに、そもそもワープアイテムがないから移動手段はない。
村の様子が心配ではあるし、どうにかしてあげたいが……
「とりあえず応援のコメントを書いてあげよう」
「んゆー? どっちがマスコットにいいと思うー?」
「どっちもじゃダメなんですかねぇ」
「んー、譲れないものって、ある的な」
「この場合はどっちも譲る必要ないんじゃないかなぁって」
「それなー」
「くそっ、キララ、その男は誰なんだ? え、彼氏? そんな、お父さんは認めませんよ!」
「そしてこの人はもうダメっぽいな。架空の娘が彼氏つれてきていやがる」
「そんなお父さんと同い年くらいのおじさんなんて、パパみとめないんだからね! 肌も黒くして、この親不孝者!」
「……かちーんときたんですけどー」
「この人の中では肌が黒いのと、おじさんが彼氏なのイコールなのかな」
「そんなわけないっしょー」
「え、彼氏じゃなくて彼女? 心は乙女? どういう状況なんだキララ!?」
「っていうか名前はキララでいいの?」
「複雑な、ご家庭」
「複雑すぎるよ。なんだよ、父親と同年代のオカマが恋人の娘って」
「そんな……長女、次女と続いてお前まで――俺は、俺はどうしたらいいんだ」
「すでに妄想の中では姉妹が出来ていた件について」
「もう放置でよくない?」
「それもそうか」
ロポンギーはとりあえずらったんと二人で雑談しながら掲示板をチェックしておくことにし、自分の世界に入ったユーリクリから少し離れた位置に移動し始める。
「そういえばらったんさんって武器はトランプ?」
「んゆー? ちがうよー。あーしはこれ」
「……ステッキと、鍵?」
らったんが手に持っていたのは、いかにも怪盗がもっていそうな宝石の付いたステッキと、何の変哲もない小さな鍵だった。
「専用の奥義でー、いろいろなところ開けられんの」
「すごっ」
「もう一つの奥義でスピードあげたまま使ったら吹っ飛んで、マジうけるしー」
「そうか、普通一つの職業で複数奥義覚えているよな」
複数の職業の奥義を使える【村長】などのフィールドマスター系職業が例外なだけである。
と、そこで直接アリスからロポンギーへメッセージが届いたが……
「……助けてです、しか書いていないな」
「助けに行く?」
「どうやって?」
「…………こう、ぴょーんと」
「それが出来たら苦労していないんだよなぁ」
「あっはっはっは」
「笑い事ではない」
「どっするの?」
「うーん……」
ひとまず返事を書こう。
こちらからはどうすることもできない。ただ、君の健闘を祈るのみだ。
『アリスちゃんへ、僕たちはここから動けそうにありません。
正直、どっちもマスコットキャラクターでいいじゃないかと思わないでもないですが、彼らも騒ぎたい時があるのでしょう。
僕から言えることはただ一つです――がんばれ』
なお、アリスはこの返事で助けが来ないことを理解し、もう全部爆破してもいいかなぁと思い始めた。
そんなことをしてもリスポーンしてきて再度討論を始めるだろうという事にもすぐに思い至り、結局は頭を抱えるのみであったが。




