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掲示板の皆さま助けてください  作者: いそがばまわる
5.迫りくる、アサシン
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虚無の顔

「それで、なんであんな暴挙に出たんだとこうして爆撃されたプレイヤー一同、説明を求めに来たわけだが…………」

「だめだ、投資の果てに宇宙の真理にたどり着いた顔をしていやがる」

「どんな顔だよ」

「あんな顔だよ」


 目はうつろで、口からはよだれを一筋垂らし、筋肉がたるみきって力が一切入っていない。

 体のほうも全てがどうでもいいとばかりに木にもたれかかって糸の切れたマリオネットみたいだ。


「…………村長?」

「ふむ――我々を爆弾で吹き飛ばしたことによるペナルティで、経験値を一気に持っていかれた顔だね」

「あ、これそういう顔――ああなるほど」

「お兄ちゃんの最後の言葉は『レベルが、下がった――だと?』です」

「助けを求めておいてアレだが、やり過ぎだったからな。総勢30名くらい消し飛んだんじゃないか?」


 むしろPK犯たちよりPKしていた。

 幸い、キルされた側には被害はあってないようなものであったが。一番の被害者が助けに来た加害者とは何とも不思議な話だ。


「大丈夫なのか? これ」

「おーい、返事しろー」


 イチゴ大福がロポンギーの目の前にかがみ、声をかけると、ロポンギーはブツブツと何かを呟きだした。どこか、呪詛のこもった声で。


「――――何故人は争うのか、何故人は力を求めるのか、何故人は優劣をつけたがるのか」

「え、どうしたの?」

「そうだな。今回の犯人たちもそういう動機だったのだ――だからこそ、我々三人が現れた瞬間に狙いを定めたのだろう」

「トッププレイヤーになりたかったとか、そういう動機か?」

「おそらくはな」

「いや、村長はそういう話をしているんじゃないと思うぞ。というか、意味のないつぶやきだよな」


 ロポンギーはその間もブツブツと何かを呟いており、他のプレイヤーたちから棒きれでツンツンとつつかれている。そして、その度にアリスがブロックしている。

 もっとも意にも介さずポポは説明を続けるのだが。


「推論になるが、どんな形でもいいからトップの座につきたかったのだろう。そこで目を付けたのがPKだ。メリットは無いので仕様上どうなっているかの検証ぐらいしかされていなかったところに注目したのだろう」


 PKをした際に状態異常の呪いを受けてステータスが下がっているにもかかわらず連続でPKを行える方法や、そもそもの話PVP以外でプレイヤーに効率よくダメージを与える方法もあまり知られてはいない。

 彼らは効率よくPKをする方法を見つけたのだろうとポポは付け加えた。


「なるほど、やられる側は理解していないからな。実際、本格的に襲いだしたとたんに次々にやられていたわけだし」


 多くのプレイヤーは咄嗟にフレンドリーファイアが発生する攻撃を思い浮かべることができない。なので、対処できない相手を辻斬りのように襲い、BFO最強の名を手に入れようとしたというのがポポの推論だった。


「じゃあ今まで派手にやらなかったのに突然暴れ出したのは?」

「――あ」

「それはよくわからないが……地味にやっていたのは準備段階だったからだろう。そもそも犯人状態のままにしたのも、名前欄を空白にしていたのも、複数犯ではなく一人であることを印象付けようとしたからなのだろうな。わざわざ近い体格にしてまでよくやるものだが――まあ、同時期に別のPKの噂が発生したせいで、思うようにいかなかった面があったので焦っていた可能性もあるか」


 突然暴れ出した。その話と直前のタイミングで起きていた出来事から桃色アリスには犯人たちがなぜ暴挙に出たのかわかった気がした。

 あと、真実を出来る限り隠そう――そう思ったが……じっとポポが彼女を見つめている。イチゴ大福が疑問点を上げたとき、桃色アリスだけは反応していたのだ。


「……暴れ出した理由、知っているね?」

「…………も、黙秘で」

「ふと気になったのだ。奴らは必要以上に爆弾に気を付けていた。わかりやすいフレンドリーファイア発生攻撃ではあるが、それにしたって過剰に反応していた――なにか、知っているね?」

「あ、あはは…………ごめんなさいです。暗黒四天王さんたちが暴れる前に、私たちも襲われたんですけど、お兄ちゃんが爆弾で吹き飛ばしたです」

「なるほど――あっさり返り討ちにあって焦ったか」

「結局村長のせい――いや、襲ったほうが悪いか」


 ニー子はげんなりとして今も虚無の世界に旅立ったロポンギーを見る。

 いや、レベルが下がったのは悲しいだろうがいつまでその顔なんだよと。


「でも全部推論なんですよね? 結局、真実は明らかじゃないような」

「たしかにね――推論ばかりになるが、我々は彼ら犯人ズではないのだよ。こうして話していても真実に到達できたかはわからない――ただ一つ言えるのは」


 そこでポポは言葉を止めて、近くの茂みへと視線を移す。

 最初に爆殺されてから暗黒四天王は短時間で襲撃を開始した。つまり、一度リスポーンしている。ファストトラベルには教会を使う必要があるが……街中で彼らの目撃情報は無い。

 つまり、彼らも近場でリスポーン設定されていた。そして、森の中にファストトラベルを行える無人の教会があったのだ。リスポーン場所にも設定できるため、彼らが拠点にしていたのだろう。

 人目につかない教会があることは証明されていた。ロポンギーとアリスは海底の教会を見つけていたので、他にもあるのはすぐに予想されていた。

 今回は近場だったため、暗黒四天王もすぐに確保されたわけなのだが……


「光が、ぱっとするんだ……キラキラ輝いて、ふわっと体が浮いたんだ」

「勝てると思ったんだ……俺たちは、最強なんだ」

「世界の王者、俺たちは、世界の王者」

「なんくるないさー」


 見た目真っ黒な全身タイツどもはうわ言のように何かを呟いているだけであった。


「もう犯行は行われないだろうということだ」

「これ、やりすぎなんじゃねぇの?」

「そもそも違法行為ってわけでもないから犯行って言っていいのか微妙なんだよなぁ……いや、迷惑っちゃ迷惑だったけど」

「哀れ……って言うか、俺らも爆破されているのになんでこいつらだけ精神にダメージを喰らっているんだ?」


 ニー子が疑問に思い、ポポへ尋ねるが――それをチッチッチと指を振ってポポはこう述べた。


「簡単な話だよワトソン君」

「誰がワトソンだ」

「一度爆撃されただけでテンパって立てていた計画を投げ捨てでも一気に襲撃したんだぞ。4人とも単にすごくビビりだっただけだ」

「…………ああ」

「そもそもPKなどという方法で襲撃していたのもそのあたりが関係していたんだろうな。真正面から戦うのが怖いとか、そういうところだろう。職業を【アサシン】にしていたのも、クリティカル率上昇などを利用したからだろうな。あとは、この間の条件緩和で転職しやすかったな」

「結局、こいつらの自業自得か」

「そうなるな」

「で、どうするんだこれ?」


 目の前には屍が五人。一人はすぐに回復できるだろうな、とポポは声をかける。


「ロポンギー君。やり方はどうであれ、助けてもらったのは事実だ。この四人がPKをしていたのならレベルダウンが発生している――なのに、高レベルプレイヤーたちも倒せるほどに攻撃力が高かったのは、クリティカル率上昇もあるだろうが、とあるクエストをしてレベル上げも行っていたからだろう」

「――――」

「レベルアップクエスト、回すぞ。呪い状態でステータスが下がっていても、人数がいれば何とかなるはずだ」

「行きましょう!」

「復活したです!?」

「現金な……っていうかパワーレベリングだろうが」

「さすがに下がった分上げるだけの話だろうよ。でも、単純だなぁ……で、この四人のほうはどうするんで?」

「放っておきたまえ。どうせもうPKをする気力もわかないだろうし、そもそもPK用に作ったキャラクターだろうな。今後は見かけることもないだろう」

「アカウントひとつにつきキャラクター一体だからサブ垢だろうけど……サブ垢って、規約的にはどうだっけ?」

「たしか……違法な利用しない限りは黙認だったはず」

「なら通報とかも必要ないか」


 別にルールを破ったプレイヤーはいないな。そう結論付けて、彼らは歩き出した。

 ひとまずは下がってしまったロポンギーのレベルを上げに。


「え、この人たち放置です?」

「大丈夫だ。信頼できる人に今後のことは任せてある」

「……なぜか不安になったです」


 @@@


 PK騒動も落ち着いて一週間後のことだ。もう新しい噂話が出回っていて、相も変わらず掲示板は騒がしい毎日だ。

 この分なら、余計なことしないで放置でも良かったよなぁと思わないでもない。たぶん自然に別の話題が出てきたり、別にアクの濃いプレイヤーが現れたりでPKも自然と話を聞かなくなっていた可能性がある。今回の教訓は一時のテンションに身を任せるとひどいことになるというところだろうか?


「ふぅ……レベルも順調に上がってきているし、この分なら次のレベルキャップ解放までにはカンストしそうだな」


 装備も作ったりとやることはいろいろとあるけど、楽しい毎日を過ごしている。

 今日はなんとなく連絡を取り合った指輪職人さんとらむらむさんと一緒に再びダンジョンに挑むことになったのだけど……どうやら僕が待ち合わせ場所に一番のりだったらしい。

 ちなみに、今現在僕が立っているのは帝国首都の入り口だ。関所的なところで、衛兵も立っている。

 数分もすると声がかかってきた。


「おーい、久しぶりだな」

「あ、指輪職人さん。お元気そうで―――って、前に会ったの半月ぐらい前でしょ」

「毎日が濃いからなぁ。例のPK騒ぎもやらかしたらしいな」

「噂が下火になっているのに……まだ言うか」


 悪い悪いと彼は笑うが、こっちは三日間ぐらいはからかわれたのだ。いや、人の噂も七十五日と言うし、すさまじいスピードで下火になってくれたからありがたいけどね。

 このタイミングでハロウィンイベントの告知が出たのが幸いだったんだよね。

 と、その時いきなり背後に気配を感じた。


「こんにち、わ」

「うおわ!?」

「おおう!? らむらむさん、なんで村長の背後から現れているんだよ」

「…………サプライズ」

「い、いらない。そういうサプライズはいらない」

「ビビったぜ……」

「ふふふ、おかげさまで、こっちも、解決、した」

「あん? どういうことだ?」

「ああ女性PKを探している力士の話ですよ」

「あー、なんかそんな噂があったな……なんでまたその話を」

「その話の、PK、あたし」

「えっ」

「実際には、ミスってキルしちゃった形なんですけど……力士が変態で」

「ある、プレイヤーさんに、対処して、もらった」

「言うほど何かしていたわけでもないんですが、ちょっとアレだったもので」

「アレってなんだよ」

「アレ、は、アレ」

「……深く聞かないほうがいいか?」

「はい…………見ていて哀れでした」


 ポポさんに取り次いでもらって、視覚の暴力さん――もとい、ランナーBさんだっけ? ムキムキマッチョのネコミミさんは。彼――彼女? に相談してみるといいだろうということで、相談した結果、力士はなぜか連れていかれた。


「……次に会う時はたくましく成長していることでしょう」

「正直、どうしてこうなった、としか」

「それ……被害者増やしていないか?」

「い、言わないでほしい」

「そんなつもり、じゃなかったの」

「あまり粘着質な書き込みをしないように注意するだけのつもりだったんだ。PK犯はどうにかできたから、あとは力士だけやんわりと注意すれば終わりだと思ったんだッ」

「ごめん、なさい……力不足で」

「お前らがトラウマになっているんじゃねぇかよ!? え、力士どうなったの? 聞かないほうが良さそうだけどスゲェ気になるんだけど!?」


 ごめん、ごめんよ名も知らぬ力士。僕は無力だ。


「あの、助けを求める顔が、忘れられない」

「……嫌な事件だったね」

「ダメだ。何が何やら理解できない」


 正直僕も今回の件は何が何やらである。いろいろな要因が絡み合って、明後日の方向に飛び過ぎたとしか言いようがない。というか、被害者しかいないような事件だった。

 事態をややこしくした一員としては何か言うのも変だけど。

 PK達のこともそうだけど、いろいろとやり過ぎたよなぁ……


「……過ぎたことは仕方がない。まずは普通にゲームをして――ってあれ? なにか近づいていないか?」

「うん?」

「…………力士」


 砂ぼこりを上げて、独特の構えで力士が爆走している。その前を走っているのは、ムキムキマッチョのネコミミ。そして、その後方で四人のプレイヤーが共に走っている。装備からして盗賊系っぽいな。

 ときおり、暗黒四天王ファイトーという声が聞こえる。


「なんだあれ?」

「さ、さぁ……でも楽しそうに遊んでいるように見える」

「そう、だね」


 どうやら、心配は杞憂だったらしい。

 なんだかんだでうまくやっているようだった。結果的にだけど、綺麗に……とは言い難いが、今回の騒動は収まったわけだ。

 一安心とつぶやいたとき、ふと視線を感じたので振り返った。


「……ペンギン?」

「あれは……コッペンだな」

「コッペン?」

「正式名称は『皇后ペンギン』で、BFOのマスコットだよ」

「……知名度は、低い、けど」

「たしかに……マスコットいたんだ」


 見た目はふてぶてしい顔をした皇帝ペンギンの赤ちゃんだ。皇后ってことはメスか。

 じっと僕を見つめた後、視線を戻して歩いて行ってしまった。


「……なんなの?」

「よくわからん。アイツ、町から町へランダムに移動しているんだけど、ただ歩いてじっと何かを見つめて、また歩いてって繰り返しているだけだから。しかもあまり人目につかない場所で」

「それはマスコットとしていいのだろうか?」

「自立行動する特殊なAIで……しかもマスコットらしく、人のいる場所中心に回っているハズなんだがなぁ」

「フィールドボス、とか、自立行動する、タイプの、試作機、らしいです」

「へぇ……」


 気にはなるが、それ以上話の広がりようもないので二人とダンジョンに行くことに。

 とりあえず近いところで、適当に行ってみようとワールドマップを開いたのだった。


五章はロポンギー君が助けを求められる側のつもりだった。

そして作中で語っている通り、一時のテンションに身を任せると――って感じ。


そして、次章への前フリを残して五章は終わります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇后ペンギン 何かあるのか
[一言] 「助けに来た加害者」というパワーワード
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