エルダーは強敵でしたね?
ループ報告ありがとうございました。ループ個所を削除しておきました。
オオオと地響きのような声が鳴り響く。エルダー(剣)の発している金属音だ。
奴が振りかぶった巨大な剣を避けて拳を突きだす。
「ガントレット『発動』! アリスちゃん!」
「了解です――『エアロブラスター』!」
僕がまずガントレットを巨大化させてエルダーを壁に殴り飛ばす。落下ダメージが減ったため、以前よりダメージは出ていないが――というかそもそもエルダー自体古代兵器によるダメージは減っている疑惑がある――ノックバック効果は健在なので、壁にたたきつけられたことで大きな隙が生まれている。
続いてアリスちゃんが風の球体を自分の目の前に出現させ、蹴り飛ばした。風魔法の砲撃だが、ブーツで発動しているので蹴る動作を付け加えているのだろう。
「シーモンキー召喚!」
「こっちもシーモンキーです!」
二体のシーモンキーがエルダーにとびかかり、ひっかき攻撃を加える。多少ではあるがこれで動きが遅延するので、次の攻撃のための準備に移れる。
「そろそろエルダーの動きが変わるですよ」
「分かっている。だから、コイツの出番だ」
手に持ったのは新作の爆弾。
状態異常攻撃も付与できないかなとめっちゃ色々さんと共に試行錯誤を重ねた結果誕生した渾身の一品だ。
「ふっふっふ」
(お兄ちゃんが悪い顔しているです)
「喰らえぇ!」
今回組み合わせたのは、毒属性。合成する際に非常に多くの爆弾が犠牲になった……失敗してゴミアイテムになることのほうが多かった。成功しても、爆破威力が上がるだけというのもあったが、ようやく毒攻撃をまき散らす爆弾を開発することに成功したのだ。
「レシピ探した方が早かったんじゃないですか?」
「フリー合成にはフリー合成の楽しさがあるんだ! その毒は強力な胃酸を吐くカエル型モンスター『ガマゲーロ』の胃酸が素材になっている!」
「あれ、アリスはビジュアル的に戦うのきつかったです」
「さあ喰らうがいい――ってあれ? 毒になっていない?」
「忘れたですか? ボスですよ、あれ」
「……古代兵器使っていたから忘れていたわ。状態異常効かないのもいるよね」
「エルダーは耐性強いですよ」
さっきノックバックのことで頭に浮かんでいたのに――うかつ、あまりにもうかつ!
「とりあえず即死攻撃も撃ってきそうですから動かないとやられるですよー」
「あ、やべ」
ひとまずは動き回ってアイツのビームをかわす。爆弾自体は効いているから、いくつか投げつけておいて、十手から水球を発射する。
「やっぱ地道に削るのが一番か」
「ですよ」
「そろそろ、大規模な爆撃がしたいんだけど……」
「我慢してくださいです。経験値効率下がるですよ」
「そうなんだけどなぁ……」
その後ほどなくしてエルダーの討伐は完了した。
これにより、レベルアップクエストの受注条件が完了したわけだ。長かった――こともないか。ほとんど寄り道のせいで時間ロスしたんだし。
「今更だけど、アリスちゃんは自分のペースでやっても良かったんだよ?」
「大丈夫ですよ。一人でレベル上げるのもつまらないですし」
「それならいいんだけど……次のイベント、戦闘系だったらどうしよう」
「ハロウィンですけど、アリスはディントンさんを手伝いますから大丈夫です」
「それはまたどうして」
アリスちゃん、ディントンさんのこと苦手じゃなかった?
「……絶対におばけを倒す感じじゃないですか、カボチャ集め以外は」
「ああ……だからか」
二重の意味で。そっか、ハロウィンイベントは積極的に参加するつもりは無いと。アリスちゃんの叔父さんがカボチャ集めについて教えてあげたのもおばけが苦手なの知っているからだろうな。
「というわけで、来月からのハロウィンイベントは積極的に参加しないです」
「了解了解――でも10月中まるまる使う長期イベントだけど、いいの?」
「だからカボチャを育てるです」
「ああうん、わかった」
強い敵が出てきたら、間違いなく戦力になったのだろうが……ハロウィン期間中のヒルズ村は戦力が激減するな。
他のメンバーも積極的に参加する気があるか微妙なところだし…………いや、久々に一人旅も悪くないかもしれない。
「さてと……ドロップしょっぱいんだけど」
「ストーリーで戦う敵ですから」
「それはそうだけど、これストーリー進めた時間を普通にダンジョン周回に回していたほうがレベル上がったよなぁ」
「今更です」
「そうだよね、今更なんだよね」
とぼとぼとほこら的なダンジョンから出ていき、工業都市まで歩いていく。今僕たちは工業都市の南、森林と帝国首都の間にある平野にいた。
エルダー(剣)の出現するダンジョンが森林側だったのだが、森の中を進むより平野でジェット移動したほうが速いので少し遠回りでも一度平野にでたのだが……
「なんだか向こうのほうが騒がしいです?」
「本当だな。なんか黒い影がいくつかみえるけど……あ、消えた」
黒い影が複数、プレイヤーを取り囲んでいるように見えたのだが……スッと消えてしまった。強力なフィールドボスでも出現したのだろうか? 下手に近づかんでおこう。気疲れしている今戦うと負けるかもしれない。
ここ最近自分でも忘れているが、僕は紙装甲なのだ。レベルが下の相手でもボス級なら一撃喰らっただけでひん死になりかねないのである。対策として防具は出来る限り強化してあるし、頭防具はHP自動回復効果のあるものにしている。
「くわばらくわばら」
「なんだったんですかね?」
「気にしても仕方がない。先を急ごう――うん?」
と、その時であった。目の前に黒い影が複数現れたのは。どうやら目をつけられたらしいが…………
「――裸に、マフラー」
「村長だな」
「そして一緒にいる少女――」
「PVP大会の、猛者」
なに? この黒タイツ集団。
いやペナルティ喰らって犯人状態になっているのか。
「ヒィイイ!? なんですかこの黒い人たちはです!?」
「噂のPKさん――驚いた、犯人状態にしたままの人が複数人でのグループとは。アイドルユニットでも組むんですか? 名前はクリミナル5とかそんな感じ?」
「お兄ちゃん、4人です」
「じゃあクリミナルフォースとかそんな感じか」
とりあえず、適当にグループ名をつけておいた。
「我々を――おちょくるか」
「いいさ、反逆の時は始まった――」
「今こそ我々の力を証明する時」
「あ、そういうの良いんで」
ほとんど辻斬りみたいなものって聞いていたけど、のこのこ僕らの目の前に現れたのが運の尽きだ。
さっき効果が薄くて不完全燃焼だったんだよねぇ……ちょうどいい的があって助かった。
「どうせPKしてくるんだろ? だったらやられても文句は言えないよね」
「笑止」
「我々の素早さにかなうとでも?」
「我ら、暗黒四天王――」
何かごちゃごちゃ言っていたけど、すでにアリスちゃんがボートをセットし終わり、僕も爆弾をばらまき終わっているのだ。
とりあえずジェット噴射でおさらばする。
「アディオス!」
「――――ッ!」
直後、システムメッセージに名前欄が空白のプレイヤーが四人、自分の爆撃でキルしましたというメッセージが表示された。
うむ――あ、経験値下がっちゃった上にバッドステータスで呪い喰らった。いけないけない、これからレベル上げだっていうのに……
「疲れたから明日でもいいか」
「ですね」
「まあ、特に急いでいるわけでもないしのんびりゆっくりやれば――うん?」
と、そこでメッセージが届いているのに気が付いた。
どうやららむらむさんからのようだけど……
「…………」
「どうしたです?」
「うーん、なんか助けてくださいってメッセージが来たんだけど」
なんだか、話がややこしい方向へ進みだした予感がした。
変なことにならないといいんだけどなぁ。
PKさんたち? まだ出番はあるよ。
念のため以降の話でもチェックを行います。
発見報告ありがとうございました。




