水の中の町
大陸移動&水中探索の二日目。
ログインしたはいいものの、アリスちゃんはまだ来ていなかった。とりあえず、マップの確認とアイテムのチェック。何度か戦闘はしたが、耐久度は問題なさそうだ。
回復アイテムも個数は余裕がある。とりあえず、気にする必要はないかな。
「こんばんわーです」
「アリスちゃん、こんばんわ。まあ、ゲーム内は昼だけどね」
「すぐに夜になるですよ」
「まあ、それもそうか」
とりあえず、掲示板で昨日の続きから書き始める。
探索開始します、と。少し雑談をしていたようでレス番号が150にまで届いていた。
「とりあえず、今日はこの遺跡の探索だな」
「ですねー。でも、大陸にはいかなくていいですか?」
「少なくとも、今すぐレベル上げたいわけじゃないからね」
「それもそうですね。今はこっちが気になるですし――ただ、遺跡って言っていいんですかね?」
「あーたしかに。遺跡と言うより廃墟だよね」
水の中に沈んだ廃墟。そうとしか言いようのない光景だった。
石造りの家がいくつもあり、それが崩れている。アリスちゃんと二人で順に探索していくが、大昔ここに人が住んでいた、という感じにしか見えない。って言うかなんで海底にこんな光景が広がっているんだ?
「水の中で住んでいた、とかです?」
「うーん……気にしても仕方がない感じかも」
こういうオブジェクトを特に理由もなく配置する可能性もあるから。
後々クエストで来るかもしれないし、マップで位置をチェックしておく――あ、スクショも撮っておこう。
「お兄ちゃん、何しているです?」
「スクショ撮って位置を記録しておこうと思って。クエストでまたここに来るかもしれないし」
「……お兄ちゃん、クエストほとんど受けていないじゃないですか」
「それは言っちゃおしまいだよ」
「とりあえず、いいアイテムは特になかったですよ」
「…………その耳のは?」
「さっき見つけた【真珠の耳飾り】です」
「あるじゃん、アイテム」
「そんなに強くないですよ? MP増やすだけです」
「あー、そっか……」
それでも装備したのは、アリスちゃんが使っていたアクセサリーより強力だったからか。
僕が耳に装備しているアクセサリー、かなり強力なヤツだから変える必要もないし。
「まあ、回収はしておこう……違うアイテムだった」
「なんだったです?」
「えっと、【真珠の髪飾り】だな。頭防具か……」
「使うです?」
「MP増加と、MP回復速度を若干上げる感じか」
非常にゆっくりとだが、このゲームではMPは自動回復する。
まあ、待ってられないから大抵の人はMP回復アイテム使うんだけどね。
「アリスちゃん、良かったら使う?」
「一応貰うです」
未強化だからどこまで使えるかわからないが。なお、レア度は星4だった。
「他には何かないですかね?」
「とりあえず収穫を掲示板に書き込んでっと……あ、MP回復速度上昇は結構レアみたい」
「それでも他にあるですか」
「自動回復特化装備のテンプレもあるらしいね。場合によっては、頭は入れ替えか? とか騒いでいる」
「へぇ……自動回復特化」
「おおっと、余計な知識を入れてしまっただろうか」
今まで以上に空中機動しまくるアリスちゃんが見える。
よくよく見ると、ブーツも更に厳つくなっているし……
「そういえば、アリスちゃん楽器はどうしたの?」
「あー……実は今、【サモナー】にして育てていたです。なので、楽器じゃなくてナックルにしてきているです」
「ホントだ……」
でも昨日は装備していなかった――って、昨日は箒を装備していたのか。
「って、いつの間に召喚獣を手に入れたの?」
そもそも【サモナー】の転職条件って召喚獣を一体以上手に入れることなんだけど。
いままで姿かたちも見ていなかったが……
「ついこの間です。ただ、炎系なので水の中だと出せないです」
「あー……なるほど」
「はい。とりあえず、ある程度レベルを上げて普段も使えるレベルにしたいですので、職業を変えていたんです」
「まあ、僕も時々やっているけど。とりあえず探索を再開しよっか」
「はい!」
あと、掲示板にいつの間にか妹分が知らぬ間に強くなっていた件についてって書いておこう。あ、顔を真っ赤にしたアリスちゃんが掲示板で反論してきた。
「直接言えばいいのに」
わざわざ、一人で突っ走るお兄ちゃんに言われたくないですって書き込みおって。
「ならお兄ちゃんも書かないで直接言えばいいです」
「それもそうか」
あと、掲示板の民よ。壁殴りはやめてくれ。怖い。凄いなそのアスキーアート……パソコンからコピペして持ってこれないからわざわざ書いたんだよな。え、持ってこれるの?
「へぇ、コピペで文章とか持ってくる方法あるんだ」
「なんかわき道にそれていませんです?」
「あ、そうだった。探索探索」
「まったく――あれ?」
「どうしたの?」
「なんか教会みたいなのがあそこに」
「うん? んー、ホントだ。教会っぽい建物がある」
ちょっとしたステンドグラスと、中には神様のシンボルが飾られている。
たしかに、教会だな……
「とりあえずノックしよう」
「もしもーし――って誰もいないですよ」
「まあ、一応ね」
中に入ってみると、確かに教会だ。そして、唐突に目の前が光ってシステムメッセージが表示される。『海底の廃墟』を登録しましたって出てきたんだけど……え、ここファストトラベルで来ることができるの?
「人、一人もいないのにですか?」
「ファストトラベルに必要なの、教会だから……そうか、これでいつでもここに来ることができるのか」
「どうするです? 一度村に戻れるですけど」
「…………それもアリだけど、探索していないところもあるし、先にそっちに行こうか」
「ですね」
というわけで、探索再開。他には素材アイテムがいくつかと、ポーション類しか見つからず。採掘できる場所がいくつかあったが、『水中採掘』のスキルが別途必要らしい。手に入れてから後でこよう。掲示板でも『水中採掘』は未確認だったらしくて、驚きの声が上がっている。
あとで検証チームが調べてくれることだろう。
「いよいよ最後の建物だな」
「ですね――ちょっと大きな建物ですけど」
「なんか、変な声が聞こえるね」
「で、です……幽霊じゃないですよね?」
「違うと思うけど……なんか、猿の鳴き声みたいな」
キーキー聞こえる。
とりあえず中に入るしかないな。ゆっくりと入ってみると、水色のナニカがいくつか部屋の中を飛び回っている。いや、泳ぎ回っているのか?
水の中と言っても呼吸は出来るし、ちょっと動きに抵抗があるぐらいだからあんまり水中って気にならないんだよなぁ……
「おばけです!?」
「いや、違うっぽいけど――なんだこいつら?」
見た目は水色の猿だ。のっぺらぼうにぼんやり輝くような眼だけがついている顔で、首のところにはエラのようなものがある。手には水かきがついていて、腕と背中にヒレがついている。
モンスターか? そう思ったが、HP表示は特にない。
「なんなんですか、こいつら」
「うーん……なんかこのパターン前に見たことがある」
「? そういえば、アリスも…………」
しばらくしていると、猿たちがこちらをじっと見つめてきて――そのうちの二匹が僕たちめがけて飛び込んできた。
「うおわ!?」
「なんです!?」
特徴的な音と共に、システムメッセージが表示される。内容は、『サモン・シーモンキー』を習得しましたという表示。
……あ、召喚獣スキルか。どうりで覚えがあるパターンだと思った。
「って、ここもしかして召喚獣確定入手ポイントなの?」
「大発見です?」
「まあ、ほとんど見つかっていないらしいし……ただ一つ気になったことがあるんだけど」
「どうしたです?」
「シーモンキーって、ミジンコみたいな感じの微生物じゃなかった?」
「…………海のおさるさん、ですから」
「いや、そうは言ってもさ……」
「ツッコミ無用、ですよ」
口に指をあててしーっというポーズをするアリスちゃん。
え、なにその妖艶なポーズ…………ただ、もうちょっとムードある状況でやるべきだな。
「場にそぐわない」
「ひ、ひどいです!?」
まあ、とにかく新スキルをゲットしたのはボートが壊れてしまった怪我の功名と言っていいだろう。
検証のために村に戻ってもいいし、先に進んでもいいし――いや、いったん村に戻って僕も【サモナー】に変えてもいいかもしれない。
そうするか……そうだ。ボート回収できるじゃん。
「いったん村に戻るか」
「ですね」
というわけで、僕たちはひとまず村に戻り、もう一度準備を整えてから再度大陸上陸作戦を決行することになったのでした。
炭鉱の新人とかも考えていますが、やるにしても次章以降。




