階段を下りた先の別世界
ちなみに、誰がPKプレイヤーなのかは現段階で明言はしません。シリアスではないですが。
その後も二人とはいろいろな話をした。
今まで遊んだゲームの話とか、あそこの敵が強いだとか、今までで一番作るのに苦労したアイテムだとか。そんなとりとめもない話だ。
最初に転職した職業では、僕についてはスルーされたのは納得いかない。いや、知れ渡っているからいいんだけどね。
でもそろそろ取り留めのない話もネタが尽きてきた。指輪職人さんも疲れた様子でハァとため息をついている。
「しっかし長い階段だよなぁ」
「ですね。もうボス部屋にでもなんでも到着していい頃合いなのに」
「…………地下深く、ってことは、古代文明、関係」
「でもこれ、メインストーリー関係ないぞ」
「そのあたり詳しくないですけど、大聖堂のクエストも古代文明系じゃありませんでした?」
夏イベントの時に周回した、エルダー(海)と戦ったやつ。
「あー、そっか。エルダーはストーリークエストにもちょくちょく出てくるし、サブでも別におかしくはないのか」
「エルダーなら、弱点属性がない」
「水底の王者って言うぐらいだし、水属性だろうからその対策しているけど、無駄だったか?」
「攻撃属性は水でしょうから、防御方面としては合っているのではないかなと」
「それもそうだな」
エルダーはもれなく弱点属性が無いボスである。攻撃属性は種類ごとに違うので、防御面の対策は水属性防御で間違いないだろう。もしくは、属性なしか。まあ、その場合は素の防御力や回避力だけ考えればいいわけだが。
というわけで、僕たちは敵がエルダーだと仮定していたんだけど……なんか、徐々におどろおどろしい装飾が増えてきたんだけど。
「…………なあ、本当にエルダーか? 壁に発光しているラインがあるから古代文明系な気はするんだけど、やたらとおどろおどろしい装飾が多いんだが」
「他の遺跡は、もっと、シンプル」
「ヒルズ村地下の遺跡に近いはずなのに、なんか別世界というか……」
巨大な蛇みたいな化け物の装飾があちこちにあるし、重苦しい雰囲気があるというか何というか……あれ? これ、ヤバいやつでは?
「どうします? 帰ります?」
「いや、ゲームなんだし進んでなんぼだろ。負けたら負けたで新情報ってだけだし」
「負けても、クエスト失敗じゃない、から」
「それもそうか。じゃあ、行きましょうか――水の中へ」
終点と思しき場所は、小さな丸い部屋だった。真ん中には、人が2人くらいは通れそうな水の張った穴がある。たぶん、この中に入れってことだろう。
可能性は考えていたけど水中戦だよなぁ……まあ、歩くよりは体を動かしやすそうだ。それに、たぶん戦う相手もヒントが出ている。
「……メタな話しますけど、このゲームってドラゴンっていますか?」
「ストーリーでちょっとだけ語られる」
「直接戦った人、まだいない」
「じゃあ僕たちが最初のドラゴンスレイヤーですね!」
「倒せたらな!」
「……ストーリーだと、古代に、災害とまで、言われた、存在」
「あと、古代兵器も元々はドラゴンを倒すために作ったって設定なんだと。その後、戦争に使っちまって滅びたそうだが」
「へぇ――なら、古代兵器効きそうですね」
「お、確かに。いい感じにいけそうだぜ」
「……なら、あたしも、【古代のナイフ・改三】に、付け替えておく」
「そうしておきな――って改三!?」
「いくらイベント配布の古代兵器だからって……改造はかなり大変なのに」
「これで、安心」
「なあ、村長はそのガントレット強化段階いくつだ?」
「改(強化段階1)ですよ」
「だよなぁ……メインに使っている人でも改までばかりだぜ」
そもそも改二にするための素材が手に入らないというのに。
いや、嘆いていても仕方がない。おそらく出てくる敵は、ここに来るまでの装飾にあった巨大な蛇みたいなヤツ。勘でドラゴンとか言い出したけど、水の中で戦う蛇みたいなドラゴンみたいな存在と言ったらほぼ間違いなくアレだろう。
今回戦うモンスターの名前は、『リヴァイアサン』だ。
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水の中に潜ると案の定HP表示にリヴァイアサンの名前が表示された。
見た目は巨大なウミヘビ――いや、顔はとても厳ついトカゲ顔、完全にドラゴンですね。ご立派なツノもあるし。それに、胴体にはコウモリの羽のような形のヒレがついている。
っていうかベヒーモスよりでかくね? これ、レイドボスじゃないの?
「システム的には、クエストボス」
「HPは多そうだけどな……どっちかアイツの弱点わかるか?」
「…………魔法、耐性、すさまじい……全属性に耐性」
「マジかよ」
「うわぁ……水の中だから爆弾も効果が落ちているし、僕はどうやって戦おうか」
よくよく考えたら、僕の戦闘方法って圧倒的火力で押し切るか、魔法攻撃による牽制の2パターンなんだよね。魔法攻撃が効かないなら圧倒的火力、ドリルとか巨大な腕での攻撃なんだけど……アイツ相手にはどっちも使い勝手が悪い。
「仕方がない。僕は防御と支援に回るので、なんとかやってみてください」
「無茶を言う――だけど、やるしかないか!」
「ツノを、壊せば、弱体化。魔法が、効くようになる」
「そういえば、そんな話もストーリークエストに出ていたな……そうしたら村長も攻撃に参加できるか?」
「モチのロンだよ! とりあえずは『サモン・マーメイド』!」
ちまちま【サモナー】で強化(地味なレベル上げ作業のたまもの)していたおかげで、マーメイドによる支援魔法の効力が上がっている。それに、召喚中は回復魔法も使ってくれるし。ただ、支援と回復両方やるから特化型よりは効力が低いのだが。
「お、ありがてぇ!」
「せんきゅー」
「とにかく、攻撃を喰らわないように立ち回りましょう! ドラゴンの類ってだけで強いでしょうし!」
「ドラゴン種は、このゲーム内で、最強クラス」
「おし! 油断はするな! っていうかそういう話を戦闘直前に持ち出さない!」
「ひうっ」
「らむらむさんがおびえていますよー」
「いや、スマン――ってうおおおお!?」
無駄話が過ぎた。リヴァイアサンが口からビーム的な何かを撃ってきたのだ。狙われていた指輪職人さんが間一髪躱すが、当たっていたらどれだけHPが減っていたのだろうか?
三人ともバラバラの方向に動き、攻撃を開始する。僕は召喚獣を維持しながら盾スキルによる防御と補助系の魔法の使用。こういう時、魔力値の高いヴァンパイアが重宝する。
あとは、隙を見てガントレットで殴るぐらいか。
「水の中だとそもそも落下ダメージが発生しないし――っていうか、壁が見当たらないし」
今気が付いたが、壁が存在しないのだ。なんていうか、水で満たされた宇宙空間みたいな世界である。これ、通常のフィールドとは隔離された空間なんじゃ……いや、そのあたりの考察は終わった後にしよう。
とにかく相手の攻撃を防いで二人のためにチャンスを作るのだ。
「行きます――!」
「補助かけます!」
「こっちも頼む!」
「もってけ泥棒!!」
「言い方!」
二人が突っ込んでいき、攻撃する。まず最初に指輪職人さんが古代兵器のほうの斧で攻撃した。それにより、敵の防御力が下がる。次にらむらむさんが攻撃を加えている。
最初のうちは、パターンも少ないので順調にいっていた。こちら側も攻撃を喰らい、HPを持って行かれたけど支援効果とマーメイドの回復によってピンチと言うほどではなかった。だが、HPの5分の1を減らしたところで奴の動きが変わった。
リヴァイアサンが咆哮をし、水が震える。体の動きが鈍くなってしまう。プレイヤーを拘束するタイプの攻撃だろう。二人も急激に動きが変化したので上手く動けなくなってしまったのだ。
「うぉ!?」
「これ、マズい」
硬直した二人をリヴァイアサンの尻尾が薙ぎ払おうとして――そこに、巨大な腕を割り込ませる。
「うおおおおお!!」
「なっ――なんですぐにカバーできるんだよ!?」
「こちとら今まで常に動きが悪くなっていた状態で戦っていたようなもんだ! 動きが鈍くなった分、いつもの感覚に近くてすぐに対処できたッ!」
「なんか、悲しい、理由」
「言わないで!」
あと、ノックバックさせても壁がないからダメージが――あ、結構出ている。元々の威力がバカ高いとはいえ、ここまで火力出たっけ? あ、ドラゴン種が古代兵器に弱いからか。それに、防御デバフもまだ発生していたな。
でもガントレットもそう何度も使えないし、さっさと弱体化させるべきだな。そろそろツノが折れてもいいころだろう。
「古代兵器でツノ、ツノ狙って!」
「思った以上に削れているな」
「三人だから、HPも、少ない」
「なるほど、いけるかもなこれ」
「とりあえず『解除』、さてと、どうやって狙うか」
というわけで、ガントレットはすぐに待機状態に戻した。巨大化させたままだと次に使えるまで30分近くかかるし。一撃の威力が高いから、確実にツノを破壊するまでは出来る限り温存したい。もしくは、破壊するために使うのならアリか?
「…………そのほうがいいかもな。僕がもう一度ガントレットで殴るので、今度はサポートお願いします」
「分かった。ヘイトを俺に向けるから、突っ込んでくれ――ラララララ!」
『挑発』と呼ばれるスキルがある。
敵の注目を集め、攻撃を自分に集中させるスキルだ。主に、【剣士】、【戦士】、【盾使い】などが覚える。もちろん【重戦士】も使えるだろう。上位職は下位職のスキルそのまま使えるし。
「いきます――『集中』、『連撃』、『クリティカルブースト』、セイヤァアア!!」
らむらむさんが、水を蹴りながら進んでいく。身のこなしが軽くなったり、壁を蹴ってより高い所にジャンプできるスキルがあるはずだから、その類か。
それに先ほど発動したスキルは順に、命中率とそれに伴うクリティカル率の上昇、ヒット数の増加、クリティカルダメージの増加だったはず。古代兵器のほうには適応されないが――いや、【古代のナイフ】は元々クリティカルブースト効果があったか。だったら相乗される?
実際、角に到達したらむらむさんによって結構なダメージが出ている。しかし、元々短期決戦用のスキルだ。そう長い時間使えるものじゃない。
「――おねがい、します!」
「任された!」
らむらむさんが下がり、僕が前に出る。
その間もリヴァイアサンは水の球を吐き出して攻撃していたが、主に指輪職人さんを狙っていた。らむらむさんも狙っているけど、僕はターゲットにされていない。
「もう一回、『発動』!」
腕が巨大化し、リヴァイアサンのツノを殴り飛ばす。
まるで釣鐘のような音があたりに鳴り響き、リヴァイアサンの絶叫が水の中にこだました。
「耳があああああ!?」
「うるさい、これ」
「ちょ、体がまた動かないんだが!?」
また拘束効果付きかよ!?
でも、リヴァイアサンものたうち回っていて攻撃どころじゃない。すぐに僕たちの拘束も解けて、リヴァイアサンも臨戦態勢に戻る。
「……あ、今のは追撃防止か」
「あれだけの巨体、無茶な挙動、危ない」
「バグ対策か……」
「ゲームバランスじゃないか? 一方的に倒されないように」
「あー、それもあるか」
「二人とも、次が来る」
「おおっと!?」
「『ガード』!」
スコップで防御して、攻撃を弾く。今度は水の球の連射だった。何発も撃ってくるし、防ぐので精いっぱいだが……もう魔法攻撃が効く様になったはずだ。
でも何度も防御していると耐久値が不安になってくるし、早いところ決着をつけたい。
「あたしの、スキルで、アイツの情報が、更新された――弱点属性は、無いけど、魔法が、効くようになった」
「オッケー……もう一回召喚獣で支援かけるんで、近くへ」
いつの間にか消えていたし。
「了解。今度は俺もアックスを使って突っ込むわ。案外、倒せそうだな」
「古代兵器があると、難易度が簡単になるっぽい」
「特攻武器、怖いわ……」
「まあ、アイツの攻撃力もバカ高いかもしれないけどな」
「うん。それは思った」
ちょっとウィンドウを出して耐久値チェック。やっぱり減り具合がいつもより凄い……スコップの命のほうが先に消えるかもしれないので、急いで決着をつけよう。
装備をすぐに変更して、ガントレットを【古代のナギナタ・真】に変える。
ガントレットを強化するために集めた素材のあまりで、こちらも完全修復が完了したのだ。
「一気に決めますよ! 『発動』!」
「行くぜ、『発動』!」
「あたしは、発動しっぱなし、だけど!」
指輪職人さんがアックスで攻撃し、直後に僕がナギナタと言う名の高枝切りチェーンソーで攻撃する。いつの間にか切れていたが、防御力デバフが再び発生し、直後に古代兵器による攻撃で大ダメージが発生した。
らむらむさんは背中のヒレを狙いっているが、攻撃が来ているのか、時折躱している。
「続いて、『マジックドリル』! からの、『チャージビーム』!!」
魔法スキルにもよるが、ドリル状態で魔法を使うと威力が強化された状態で四方八方に飛び散ってしまう。周りを囲まれた時には有効だが、大型の敵や味方が多い時には使えない。
だが、『チャージビーム』の場合は逆だった。ドリルの回転が加わり、ビームに貫通力が追加される。更にチャージも大幅短縮される。
「貫けぇえええ!」
「おりゃああああ!」
「――!」
ビームでHPを削る中、指輪職人さんが追撃し、らむらむさんが三人に分身したと思ったら、大きな斬撃音があたりに響き、リヴァイアサンのHPが無くなった。
……そして、スゥっとリヴァイアサンの姿が消えていき――僕たちはまるでマグマの噴火のような下から吹き上げてくる泡の奔流に巻き込まれてしまう。
「何事ぉおおお!?」
「ちょ、なんだこれ!?」
「元の、場所への、ワープ的なやつ?」
「もっと普通に戻してくれないの!?」
そして、びしょ濡れの状態で再び城の外壁まで戻されるのであった。




