真夜中の出会い
夜である。何はともあれ、まずは普通に動けるようにならなくてはいけない。掲示板でのアドバイスも結局動いて慣らすしかないという結論になったので、ひとまずは恐る恐るアクア王国のほうへ向かう。
スコップを杖代わりにゆっくりと歩いていくが……何人か奇異な目で見られている。
「意外と、プレイヤーもログインしているんだな」
普段はこの時間帯ログインしないからなぁ……夏休みに入ったときに徹夜してみょーんさんに怒られたぐらいだっけか?
あと、夏休みで何か忘れているような? 宿題はやったし、何だろうか……夏、夏――暑いから水分補給? いや、もう9月に入ったしそこまででもないか?
そこで、何か思い出せそうだったが――
「もしもし、旅のお方――お話、よろしいかね?」
「はい?」
黒いローブを羽織った老人が僕に話しかけてきた。
口調からして、ロールプレイヤー……じゃないな。NPCだな。
「その手に輝くのは、【水底の指輪】!」
「あ、うん。そうですけど」
たしか、エルダー(海)のレアドロップだったなこれ。
かなり周回したからいつ手に入れたのか忘れたが、『サモン・マーメイド』の性能が上がるから重宝しているアクセサリーだ。
「オヌシには資格がある――わしの頼みを聞いていただけぬか?」
「分かりました」
「おお、ありがとうございます」
中には強制テレポートされてしまうクエストもあるが、それはそれで別にいいかなとクエストを受ける。変なクエストだったら、破棄すればいいし。
「水底の王者への挑戦権を持つオヌシに頼みたいことがある――水底の王者を打ち倒してほしいのだ」
「水底の王者?」
「この国の王城、外壁から証を持つ者のみが入れる隠された入り口がある。その先へ進み、彼の存在を打ち倒してくれ――頼んだ、ぞ」
老人はそれだけ言い残し、ばたりと倒れてしまった。
「ちょ、おじいさん!?」
思わず駆け寄ったが、次の瞬間スゥっと消えてしまう。
思わず目が点になりあたりをキョロキョロと見回すが――あ、向こうの路地にいる。
「…………そうだよな。ゲームだもんな」
むこうの路地では、前髪で顔を隠したプレイヤーが僕と同じように話しかけられ、そのまま同じようにおじいさんが倒れる場面へ。おろおろしているが、やがて別の場所に再出現したおじいさんを見つけたのか、胸をなでおろしていた。
「……クエストログ確認しよう」
なんとなく恥ずかしくなってどんなクエストか確認する。
えっと、『水底の王者』か。クエスト名もそのままなんだな。種別はサブクエストか。
クエストにもいくつかの種別があるが、サブクエストは街の住人などから受けられるクエストのこと。以前受けた大司教のクエストもこれである。
他にはストーリークエストや、ボードクエスト(ギルドで受けられるお使い系など)がある。あ、あとイベント限定のイベントクエストもあったか。
「でもこのクエスト……間違いなく討伐系だよな」
ソロで大丈夫か? 【一匹狼】の称号効果で【村長】のステータスの低さをカバーできるとはいえ、何というか非常に嫌な予感がするんだが……
とにかく、城の外壁まで行ってから考えよう。受注条件は水底シリーズの装備だろうから誘える相手もいないし。
しかし、外壁まで行くのも一苦労だなぁ。体のシンクロ率はいつになったら上がるのだろうか。
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外壁とは言っても、大分広いし手探りでそれっぽい場所を探していた。装備が反応するのかなとも思ったが、特にそんなことはなくほぼほぼノーヒントでの捜索である。
体も動かしづらいし、今日は諦めた方がいいかなと思っていた矢先。いつの間にか僕のように外壁を手探りで探っているプレイヤーが他に二人いた。
「ねぇなぁ……それっぽい入り口」
「――――ハズレクエストだったかな」
一人はスキンヘッドの巨漢。頭に小さいけど角があることから、種族はオーガであることがわかる。革で出来た下地に金属のプレートが張り付けられた鎧を着ている。背中には大きな斧を背負っており、いかにもファンタジーの戦士って感じだ。むしろここまでのテンプレ装備は久々に見た気がする――いや、みょーんさんとライオン丸さんも普段は正統派の格好だったな。イベント続きでネタ装備だったからすっかり忘れていたけど。
そしてもう一人は先ほど見た髪で顔が隠れている人だ。いや、隠れているのは片方だけだった。さっきは角度で見えなかったけど……女性プレイヤーだった。雰囲気は桃子さんに似ているだろうか? 耳が長いからたぶん種族はエルフ。全身黒色で、地味な格好をしているが…………腰にしまわれている二本の短剣が非常に禍々しい雰囲気を放っている。っていうか、紫色の瘴気が漏れている?
「うん? その上半身裸のマフラーに短パン。もしかして、ロポンギーさんか?」
「は、はい。そうですけど」
唐突にスキンヘッドの男が話しかけてきた。
深夜帯だし、もっとソロプレイヤーが多いのかなと思っていたがイメージに反した気さくな人だ。いや、そのあたり僕の偏見だな。
「俺の名前は『指輪職人』まあ、そっちの人もそうだが同じ目的みたいだな」
「――――は、はいッ」
女性の方はいきなり話しかけられて驚いたのか、非常におろおろしている。両手を小さく上下に動かしながら、あたふたと動いていた。
「なにあの漫画的な動き」
「すまねぇ、話しかけられるの苦手なタイプだったのか」
「い、いえ……大丈夫です。あ、あたしは「らむらむ」。たぶん、お二人と、目的は、同じです」
「あー、やっぱり水底?」
「だろうなぁ。びっくりしたぜ。突然爺様に話しかけられてよ」
「わかる。そしてロクな説明もなくいきなり倒れるし」
「ま、直後に再出現するんだけどな」
「緊張感抜けますよね」
「なんて、コミュ力――ッ」
えっと、らむらむさんだっけ? 彼女が僕と指輪職人さんのやり取りにおののいていた。
「あ、そういえば自己紹介がまだだった。僕はロポンギー……って、知っているのか」
「掲示板もちょくちょく見ているぜ。この間は凄かったな」
「あ、あたしも、見ているだけ、なら」
「ああうん。恥ずかしいからみんなの記憶から消したい」
「しっかしあのチェシャーさんもなんであんなことしたんかねぇ。芝居がかかっていたというか何というか、わざとらしかったし」
「終わってみると、よく、わからなくなった。結局、全プレイヤーに、ガチャチケと、経験値ブーストアイテムが、配布されたし。チェシャー討伐記念って」
かなりスピーディーな対応だった。
なんというか、答えにたどり着くための最後の一ピースがそろわなかったのだ。運営は意図的に静観していたみたいだし、あの化け猫も何か他の目的もあったっぽいし。終わってみてから、わざとらしかったってのは思ったけど……まあ、僕がキレた部分はその目的とは関係ないだろうから、いつかわかる日が来るだろう程度に考えておけばいいか。
「すぐに、配られたあたり、試験的な、イベント説、あります」
「かもしれねぇな。そのあたり、どうなんだよ? 掲示板もすぐに消えちまって、確認のしようがないんだよなぁ……元々伏字も多かったし、スクショもとれなかったらしいしな」
「僕も全容はわからないというか……まあ、今考えても答えは出なさそうなんで気にしないことにしています」
アリスちゃん経由で聞こうにも、あの化け猫しばらく仕事場に缶詰になっているそうで、あの日家に呼び出したのを最後に会えていないそうだ。
それに、僕自身出来ることならこの話は静かにフェードアウトしていってほしい。今後謝罪とかしてくるかもしれないけど、正直な話別にいいかなって……そういうのよりも、ゲームできなくなるほうが嫌だし。だからこそバグを見つけても笑い話になるもの以外は誰にも言わないで報告しているし、人に言うにしてもゲーム内掲示板だけにとどめている。これならまだ規約違反じゃないしね。
結構無茶な方法を使っていることが多いだけに、そのあたりチェックはしているんだよ……時折、アリスちゃん(無茶する人筆頭)と二人でやらかした? あれ? これ、やらかしたんじゃないの? って会議することもしばしば。大砲移動とかも後々、NPCがやり方を教えてくれるという情報を聞いたとき、普通に使っていただけにヤバかったのかもしれないなぁなんて冷汗を垂らしたものである。
というわけで、この話はここまでと言うことに。
そんなことよりも目の前のクエストである。
「っていうか普段はこんな時間に遊んでいないだろ? なんでまたこんな真夜中に」
「いやあ、パソコンを新しくできたんですけど……反応速度が上がり過ぎて体が上手く動かせなくて」
「だから、スコップを、杖代わりに?」
「シンクロ率が低すぎる。歩けるだけで奇跡なのよ」
「自分で言う事かよ……っていうか、またなんでそんなことに」
「今まで、思った以上にパソコンのスペックが低くてなぁ」
自分でもよくもまぁ、今までまともに動けていたものだと思う。
自分の反応速度に対して体が動かないのに合わせていたから、急激に動きが良くなってむしろうまく動けない。現実とも感覚が違うし、慣れるまでもう少しかかりそうだ。
もしかしたら今までやたらバグを見つけていたのも、そのあたりのラグが関係していたのかもしれない。
「……このクエスト、討伐系だけど大丈夫なのか?」
「心配、ですけど」
「ダメじゃないかなぁ」
「オイ」
「明らかに、強そう」
「そうなんだよねぇ……」
「ハァ――いや、でもソロで挑むにはキツイ予感がするし、良かったら二人とも一緒に攻略しないか?」
「僕はいいんですけど……現状、固定砲台ぐらいしかできませんよ」
「それでも大丈夫だ。タゲ取りしてくれるだけでもやりやすくなるよ」
「あ、あたしも、ですか?」
「そのつもりだけど……」
「こんな、のろまで、引っ込み思案な、あたし、でもいいんですか?」
「……なんでこの子、そんなネガティブ発言を?」
「さぁ……世の中にはいろんな人がいますから」
「――そうだね」
オイコラ。なんでこっちを見て言ったんだ。
数話ぐらいヒルズ村住人は出ないかなぁ。
改めて考えたらロポンギー君、ことを大きくしたくはないよなぁと。
本人もなんだかよくわかんないけど、喧嘩を売られたので買いましたぐらいの認識。
あと、バグ云々について感想でも言われていますが、作品内でまだ発展途上とも説明しています。
つまり、元々多い。たぶんどこかで書きはしたと思う。さらっと流されているかもダケド。
何話か先でそのあたりの話もする予定です。




