逆転する物語
守られていたのは、誰だったのか。
「逆転」する物語。
戦い終ってみると、今回もやたら恥ずかしいセリフを言ってしまったなと後悔している。しかも、掲示板に音声入力で書き込んでいたから今回協力してくれたプレイヤーたちに全部バレている。
「……」
手で顔を覆い、その場に蹲る。
戦っている時は気にならなかった隣に表示されたウィンドウが僕の精神に継続ダメージを与えてくる。だってみんな草しか生やしていないんだもん。
あと誰だ、青少年の主張とか書いた奴。これ以上書き込み見ているのもつらいからそっと閉じる。
予想よりも荒れていないのが気になったが、今はそのことを考えている余裕はなかった。
「死にたい」
蹲っていてもベヒーモスを倒したことで自動的に元の場所に転送される。
正直もうログアウトしたいのだが、それをする間もなく元の場所へ帰ることになった。
正直、少し気になっている点はあるのだが……それについては気にしないことにした。結局、今回の一件で僕が怒っていたのは、あの化け猫が僕に対してしていた事じゃなくて、アリスちゃんへの対応だとか、仲間への侮辱とも取れる言葉を使ったからだし。
周囲の光景が切り替わり、元のヒルズ村の風景へ。そして、決着がついたことで出迎えに来たのか村の住人+αがいる。具体的に言うと、ポポさん、ニー子さん、イチゴ大福さんの三人だ。協力を頼んだ身とはいえ、にやにやと笑いながら出迎えられるの嫌なんだけど。
「青春じゃのー」
「村長、そういう熱いのワタシ結構好きよ」
「魂のこもった叫びでしたねー」
「最後、大勝利っての可愛かったニャ」
「いっそ殺してくれ。っていうか、やっぱり全部バレていたのか……」
「さすがに個人情報が漏れないように、チェシャーがそのあたりのプロテクトもかけていたみたいで伏字も多かったけどね」
「おかげで、実はゲリライベントだった説が出ておってのう……ほら、村長は積極的に夏祭りに協力しておったじゃろう? じゃから、今回のことも運営とプレイヤーが協力してリアルなイベントを行ったんじゃないかと思われておるんじゃ」
「運営開発にはドラマチックワールドオンラインを遊んでいたプレイヤーや、運営は開発そのものにかかわっていた人も多いのよね。あのゲーム、運営側とプレイヤーが一緒に演劇をする感じでロールプレイをするゲームだったから、今回も当時の再現をしようとしていたんじゃないかなって話も出てきているし」
「あー、そういう……いや、よく考えたら下手に大事にしてゲームできなくなっても嫌だし、それでいいのか……僕の恥ずかしさに目をつぶれば」
その部分にようやく気が付いたのも本当恥ずかしい。穏便に済ませることが出来るなら、そのほうがいいのだ。顔が赤くなりそうなんですが。
しかし、僕以上に顔を真っ赤にして蹲っている人物がいた。
そう、アリスちゃんである。
「―――――――ッ」
「え? お兄ちゃんが自分のために怒ってくれた嬉しさと、身内のしでかしたことの申し訳なさと、この状況の恥ずかしさで頭が沸騰しそうですって?」
「なんでみょーん殿はアリス殿が何を言っているのかわかったんでござるか……」
「あれね、年の功ね――って誰が年寄りよ! まだ20代!」
「誰も言っていないでござる……」
その後、落ち着くまでに10分かかりました。
お互いあーうーしか言えなくて、意思の疎通が大変だったがみょーんさんが間に入ってくれることで何とか会話はできた。さすが既婚者。
「既婚者関係ねぇニャ」
「なんでわかるんじゃろうな」
「さぁ? ですが、無事に終わってよかったです……終わったんですよね?」
「勝ちはしたが、現実側で何かアクションを起こされても対処はできないぞ?」
「さ、さすがに叔父さんもそこまではしませんが……一応、手は打ちました」
復活したアリスちゃんがそう言うが、みんなは何のことかわからないだろう。
僕もそれを聞いたときはむごいことをすると思ったが……いや、当然の報いか。
「いったい何をしたのー?」
「あー、あの神話あるじゃないですか。案の定お母さんに許可とらないで昔の話を脚色して使っていたので、全部バラしちゃったです」
「――――なんとむごいことを」
「ある意味当然と言えば当然なんだけどね」
「何もそこまでしなくてもいいのではないでござるか?」
桃子さんが冷汗を流しながらアリスちゃんにそう言ったが、アリスちゃんは笑顔でそれを否定する。
「せっかくのデートを覗いていただけじゃなくて邪魔したんですよ? 当然の報いです」
「それは許されないでござるな」
「そうね、万死に値するわ」
「報復はあってしかるべきニャ」
「一度徹底的に懲らしめるべきー」
ヒルズ村女性陣が全員賛同しやがった……みんな笑顔なの怖いんだけど。なお、村の住人じゃない女性のニー子さんであるが、オレにはわからないって呟いてちょっと離れたところに移動していた。
ちなみに、他男性陣は身をこわばらせて彼女らの話を聞いている。
「メールで家で今回のことで説明を聞きますって呼び出したので、確実に悪は討たれるはずです」
「後に響かないようで安心したわ」
「実際問題一プレイヤーが相手にするのにはキツイ相手だからニャ」
「もっとも、かなりの数のプレイヤーに事の顛末が知れ渡ったから何もできないでしょうけどー」
「そうでござるな。もっとも村長殿もアリス殿もしばらくはからかわれるでござろうが」
「うう、恥ずかしいです」
そっか、そうだよな。しばらくはからかわれるか。
実のところ今回の顛末というか噂話程度でも、多くの人に知れ渡ってくれれば今後下手にちょっかい出せないだろうなぁとは思ったけど……その代償として、受け入れるしかないんだろうなぁ。
と、そこで約一名この世の全てを呪いそうな顔で何かを叫び出した人がいた。
「また一組カップルが産まれたというのか――キサマも敵だぁ!」
叫び出した人、ニー子さんがそんなことを言い残して走り去っていったのである。
いや、別にカップルではないんだが……状況的にはそう見えてもおかしくないのは分かっているけど。
「お祭り好きの連中が騒いでいるだけさ。しばらくすれば他の話題で上書きされるよ」
「ポポさんの言う通りじゃ。村長のことじゃし、そのうち強烈なことをして印象を上書きするだろうしな」
「なにそのうれしくない信頼」
「今までにやったことがやったことですからね。今回だって、ほとんどバグ技みたいな戦い方だったじゃないですか」
色々さんがそんなことを言ってくるけど、そこまでひどかっただろうか? いや、ひどかったか。
「それはそうだけど――そっか、バグ技か」
「おい村長、今何を思いついた」
「いや……たぶん後で落下ダメージ関連か、古代兵器そのものかはわからないけど修正されると思うから今のうちにやってやろうかなって」
僕の言葉に女性陣も反応したのか、近くに寄ってくる。
今度は何をするつもりなんだってみんな言い出して、酷いと思うんだけど。
本当、そんなに大したことじゃないんだ。
「単純に、修正される前に倒せるやつは倒しておきたいって思っただけだよ」
「じゃからそれは何を相手にするつもりなんじゃ?」
「アレだよ、地下にいる奴。『鋼の獅子王』も今回と同じ手なら倒せるんじゃないのかなって」
@@@
ゲームからログアウトして、アリスの視界は見慣れた自分の部屋を映していました。
さすがに強くて、『鋼の獅子王』は一筋縄ではいかなかったです。
最後のほうなんてどうやって倒したのかわからないぐらいの感じでしたが、それでもアリスたちはあのモンスターを倒すことに成功しました。
まあ、それでみんなの気力が尽きてその後はあっさりとやられちゃったんですけど。
「ふぅ……いい時間ですね」
VRセットを外して、体をほぐします。
叔父さんの職場からアリスの家までの距離を考えると、そろそろ着くころでしょうか? そう思ってリビングに行ってみると、叔父さんが正座させられていました。お父さんも帰ってきていて、お母さんを止めようとしていますが……怖くて足が震えているです。
「お許しを、お姉さま」
「だめー。しかもアリスの好きな人に迷惑かけたって――ねえ、どうしてほしい?」
お母さんがにっこりと笑うと、叔父さんは体をブルブルと震わせます。
「ひぃっ!?」
と、そこでアリスが部屋から出てきたのに気が付いたのかお父さんが声をかけてきたです。
「あ、アリス!? 好きな人ってどういうことだ!?」
「お父さんには関係ないです――あと、神話のことお父さんも知っていましたね?」
Reリックさんには許可をとっていると言っていましたから、たぶんお母さん以外の人には許可をとっているんじゃないかなぁと思ってそう言ってみたです。
まあ、カマかけってやつですね。
「…………な、何のことかなー」
「お姉さま以外には全員許可とりました!」
「お、オイ!」
「あらぁ……お仕置きする人たちが増えたのねぇ」
「「ギャァアアア!?」」
「悪は討たれたです」
まったく……お兄ちゃんはお父さんじゃないのに。
叔父さんは、いまだに昔、お父さんとのことでお母さんが泣いたことを気にしているです。だから、当時のことを思い出してお兄ちゃんにあんなことをしでかしたんだろうって、お母さんが言っていました。
今回のことを説明して、お母さんはそう推理しているです。
「まったくもう、この人たちはいつまでたっても……」
「叔父さんも、お母さんが好きだから時々おかしなことをしちゃうです。お母さんも昔はすごかったって聞いたですよ」
「誰に?」
「そこに倒れている人たちにです」
「これはお仕置きを増やさないといけないわね……でも、アリス…………良かったわ。前より、良い顔で笑うようになった」
「えへへ、アリスもちょっとは大きくなったんですよ」
「…………ごめんなさいね、私たちのエゴであなたにつらい思いをさせて。私に似ていたからこそ、出来る限りのことは伝えたいと思ってやりすぎちゃって……」
「いいんです。それに、今は友達がたくさんできました」
「そっか……私たち、いろいろ間違えちゃったけど――今度は、良かったのね」
「はい!」
それに、結果的にですけどお母さんの教えてくれたことのおかげで、お兄ちゃんたちに出会えたですから。
直接言うと、変に気にしちゃいそうですから言いませんが。ありがとうです。お母さん。
「そう…………終わり良ければすべて良し、あとマイブラザー。今回、あなたがゲームをアリスにプレゼントしてくれて、そこで出会いに恵まれて……そのこと自体はアリスにとっても良いことだったから、身内の恥を面白おかしく話したことは許すけど……次は無いから」
「い、イエスマイシスター……」
「あと、相手の子に迷惑かけちゃ駄目よ。今回の暴挙はまだ許したわけじゃないから、そこのところを忘れないように。人に迷惑かけるなって言っておいて、アンタが迷惑かけていたら世話ないじゃない」
「ご、ごもっともな話です……」
「しかも相手もまだ子供なんでしょう? なのに大人のアンタが暴走して、止められたって……」
「ほんと、すんませんでした」
「……後でちゃんと相手に謝っておきなさいよ。私達も人のこと言えるような過去じゃないし、アリスによかれと思ってやったことが裏目に出たなんてこと、たくさんあったし」
「お母さん……」
「でも、結局のところ、アリスが幸せならそれでいいんだから――本当、相手の子に感謝しなくちゃね」
出来れば直接会ってお礼を言いたいんだけど、さすがにマズイわよね――お母さんはそう呟いた後、ポンと手を叩きました。
「私がゲームで会いに行けばいいのか」
「ごめんなさい、余計話がこじれそうなのでそれは勘弁してほしいです」
「ならば、俺もログインしてアリスに相応しいか確かめねば!」
「だからこじれて嫌なんです! というか、これ以上お兄ちゃんに迷惑をかけるのはやめてほしいですから、本当、お願いしますからやめてです!」
結局、話し合いがヒートアップしてしまい翌日寝不足で学校に行くことになり、その日はゲームにログインしてすぐさま寝落ちすることになったのでした。
@@@
「で、本当のところは一体全体どうして、こんなことをしたんだ? 会社からも大目玉喰らっただろうに」
「……」
「俺としては、姉を泣かせた俺を殴ってでも目を覚まさせた、お前みたいなお人よしが単なる私怨で行動したとは思えないんだが」
「まったく、義兄さんはそういうところは鋭いんだよなぁ……だからモテて周りを巻き込むんだよ」
「ヒドイ言い草だな、オイ」
「私怨混じりは本当だし、嫌なこと思い出してやり過ぎたのもその通りだから否定のしようは無いけどね……彼、本当にやたらと引きが強いんだよ」
「というと?」
「バグも引きまくって、報告のお礼とお詫びにガチャチケ大量に渡している。全部が全部じゃないけど、二桁は渡しているからね」
「それはまた……」
「だから、会社――上層部からもプレイヤーネーム『ロポンギー』について調べるようにとは言われていたんだよ。ログデータから、チートを使っていないか確かめるようにね。実際、開発側からはボクが担当していたけど、運営側からも監視している人もいたんだよね。松村って言うんだけど」
「なるほど、実は件の彼って結構危ない状況だった?」
「結局はシロだったし、そんな事実は無かったから放っておいても大丈夫だったかもしれないけど。松村も一応念のためレベルだったし……それでも、驚異的な引きの強さの持ち主だ。バグ以外にも妙に引きの強い部分があったからこそ上層部からチートプレイヤーと疑われていてね。損益に問題が出そうなのもあって、単に引きが強いって認めきれなくて一方的に彼のほうが悪いことにされていたかもしれない」
「それはまた……もし、完全に誤解されてアカウント停止にでもなっていたら、アリスが悲しんでいたな」
「だから確かめたんでしょうが。本当にチートプレイヤーだったらアリスちゃんを騙していた可能性だってあるんだから。それに、直接対決してくれたほうがログから洗い出しやすいし、上の連中もハッキリとした映像があったほうが文句を言えないからね」
実際問題、完全なシロという証拠を集められたおかげで今後よほどのことがない限りは大丈夫だろう。まあ、問題はなくとも今後何かバグ的なことをやったら小言ぐらいは言うが。
「言いたいことは分かるが、もっとうまくやれなかったのか?」
「悪いね、ボクもこういうことに不器用だからさ……それに、あれだけ悪く言われて怒らないような人に、アリスちゃんを任せておけないだろ?」
「確かにそうだな……それに、思った以上に真摯に受け止めてくれているみたいじゃないか。俺たちが、うまくかみ合わなくてアリスにつらい思いをさせてきたのを、彼は何とかしてみせた」
「……わかってるよ、その点に関してはボクらが悪かったさ。それに、彼への疑いを晴らすためと、個人的な確認のために迷惑をかけてしまったのも事実だし、どこかで、ちゃんとお礼と謝罪を言わないといけない。それに、そもそも彼がアリスちゃんの笑顔を取り戻したこと自体は最初から分かっていたし、だからこそ上層部に疑われていた彼の疑いを晴らすために、直接対決という形でチートを使っていないことを証明したんじゃないか。ログでは完全にシロだったけど、非常識なレベルの引きの強さだからね。だからこそ上の連中は直接確かめてこいって言ってきたんだし」
それに、元々無茶な挙動というか遊び方をしていたプレイヤーではあるのだ。規約違反ではないが、スレスレと言えるかもしれない。
アリスと遊んでくれたお礼とでも言うべきだろうか。今回の戦いのログと合わせて、彼が正規の手段の組み合わせで戦ったことを上層部に証明したのだ。
「だからって、やり方が不器用と言うか回りくどいというか……それと、今回の一件に私情入れすぎているんだから、お前……会社からは減給で済めばいいが。それに、結果的にお前が先走ったから多くのプレイヤーを巻き込んだんだろう? そのあたりのフォローとかどうするんだよ」
「が、ガチャチケかな。1時間の間にログインしていたプレイヤー全てに配布で…………いや? チェシャー討伐報酬って形で全プレイヤーに配布したほうが無理がないか?」
「それ、会社的には大丈夫なのか?」
「げ、減給も、覚悟の上だし」
「声が震えているぞ、義弟よ」
「っていうか、あんなことあった後なのになんでアイツら自重しないんだよッ――今までだって、無茶な挙動するから後々修正したり、計画の前倒しが起きたり大変なんだぞ!? 『鋼の獅子王』だって、今後のアプデで地下が増築されるから番犬代わりに配置したのに倒されたってさっき通知が来たときは肝が冷えたんだぞ!? そういう事しているから目を付けられるってのにッ」
「いっそ道を閉じておけばいいのに……」
「それやると、コードの削除でエラー起こす可能性があったから……一番負荷が少ない方法を使ったんだよ。一応、工事中の場所は世界観に合わせたキープアウトテープっぽいもので通行止めしてあるけど」
まあ、『鋼の獅子王』自体は倒されると通知が手元に届けられるためのトリガーであって、倒されること自体に問題は無いのだが。
あくまでも、プレイヤーが奥に進みそうという情報を自分たちが入手するためにそういった機能があるだけだ。本当に奥をふさいでいるのはまた別にいるし、未実装エリアへ通れないように別の対策もしている。
「本当、いろいろとギリギリだな」
「まったくね……今後のアップデートはもう少し慎重にいかなくちゃいけないなぁ…………新大陸も大幅に見直すことになりそうで憂鬱だよ」
「それで、彼への謝罪とお礼はどうするんだ?」
「うーん…………これはこれでプレイヤー側とかにバレるとマズいけど、彼が一番欲しいモノが渡ってくるようにはしてあげようかなって。まあ、形としては枠を一つ増やして彼の手元に届くようにする形だね。元々スタッフが敵役で参加して討伐報酬に豪華景品を渡す企画で用意はあるし、書類上はこれでクリアできるかな」
あとは少し手を入れて良いものが渡るようにしよう。それに、あらぬ疑いをかけた上層部も文句は言えないだろう。他企業の回し者や個人的な悪意を持ってハッキングやワザとバグを起こそうとするプレイヤーもいないわけではないので、警戒するのも分かるが……今回の一件で今後は慎重に動くことだろう。そもそもプレイヤー側に調査していることを悟らせないようにしろってのが無理難題だったのだ。あえて無茶苦茶な言葉を使ってそっち側の思惑を悟らせないようにはできただろうが……二度とやりたくない。
彼にはこちらの個人的な都合と企業の都合といろいろと迷惑をかけてしまった。直接お礼を言うとそれだけで問題になりそうだから言えないが、ボクの討伐報酬を受け取ってほしい。
謝罪は、また次の機会に。
@@@
話は『鋼の獅子王』討伐隊が出発した頃にさかのぼる。
打ち上げ、みたいなものである。
他のプレイヤーたちも話を聞きつけたのか、ゾロゾロとやってきてみんなで古代遺跡突破をすることになった。その数総勢30名。アクア王国にたどり着いていた人たちだけだからこの人数だけど、本当はもっと多くの人が今回の件に協力してくれた。ありがたいことです。
「結構な人数になったなぁ」
「ヨっちゃんがやられたー」
「蘇生、蘇生を急ぐんじゃ!」
ディントンさんのフレンドも近場までたどり着いていたそうで、ついてきている。この場にいるほとんどのプレイヤーはまだ鉱山ダンジョンを突破出来ていないが、そもそもアクア王国にたどり着けるレベルのプレイヤーなら攻略できるデザインな上に人数もいたから余裕で突破できた。
問題はその後の古代遺跡である。急激に変化するレベル差、レベルカンストプレイヤーであるポポさんであってもピンチに陥る強敵たち。こちら側の戦線が崩壊するのは時間の問題だった。
まあ、それまで散々暴れ回ったんだけどね。ダンジョン内にノイズが走った時は本当に焦った……
「強い強い! 強すぎるだろこれ!? っていうか、俺【村長】から【盗賊】に戻すの忘れていたから能力値低いんだけど!?」
「アチキに任せなさいな! いっくわよーん!!」
「視界の暴力!?」
うっかりやらかしていたアドベン茶さんのフォローにランナーBさんが入るが……突然視界に入ったビジュアルのせいで余計にビビっている。
いや、ビビるか。ムキムキマッチョのメイド服なんて見たら。
「こ、怖いです」
「しっかし随分と大所帯になったの……これはこれで楽しいが。っていうかあちこちから爆音が響いていて――そういえば村長とめっちゃ色々さんが危険物売っておったの」
「村人に勧誘する? 素質あるわよ?」
「何の素質なんだよ――じゃなくて、勧誘はいいかなぁって思う。人が増えた方がいろいろとやれることは増えるし、【村長】の使えるスキルも増えるんだろうけどさ、いろいろな人がいてそれぞれの冒険をして、たまにこうやって一緒に遊んだり、協力しあったりするのが楽しいんだよ。人数的には、今ぐらいがちょうどいい」
「そうね、自分に合った距離感ってあるものね」
「……自分に合った距離感、ですか」
アリスちゃんはその言葉を反芻し、僕に向き合った。
「お兄ちゃんは……やっぱり、まだ距離を縮める気にはなりませんよね?」
「うん……ごめんね」
「いえ――いいんです。でも、あれだけ全力でアリスのために怒ってくれた人、もっと好きになるんですよ。それだけは、覚えておいてくださいね」
そう言って、アリスちゃんは花のように笑った。
その顔を見て、少し顔が熱くなったが――前のほうで悲鳴が上がる。
「銀色のライオンがでたぁ!?」
「――むぅ、締まらないです」
「あはは……ワタシたちらしいわね」
「ですねー」
「村長、目的のヤツが出てきたぞ」
「…………ははっ、ホント締まらないな。僕たちは」
ここに来るまでに【古代のガントレット・改】のエネルギーは回復している。強化改造のおかげで、再使用まで短くなっているおかげだ。それに、遺跡を探索中の間もアイツにぶつけるために温存しておいた。
獅子王に向かって走り出す中、先ほどの熱について考える。今はまだ、恋だの愛だのそういった感情はよくわからない。でも、そのうちハッキリと答えを出せる日が来るだろう。だから、それまでは前を向いて突っ走ればいい。いつも通りにこの遊び場で。
「いくよ――『発動』!!」
これにて4章閉幕。
実は運営から疑われていて、非常にまずい状況だったロポンギー君。そのせいで、運営側から静観されていたという。
引きが強すぎることと、今までの無茶に対するアンサー。まあ、秘密裏に疑いが晴れるのも引きが強い。
なお、自重はしない。
4章は掲示板に書き込まないで「掲示板の皆さま助けてください」を成立させるという話でもありました。
なのでタイトル詐欺ととられようとも意図的に書き込まない状態にしていたのですが、さすがになんの説明もなしはマズかっただろうか……
ミスリードのために叔父さんのキャラも意図的に悪い方向に突出させたから大分アレな感じになっちゃったけど、もうちょっとうまくやれたんじゃないかと反省中。荒れるの前提だったとはいえ
本編中に盛り込んだヒント:神話のくだりで河原でなぐり合った件と、アリス発言の本当は悪い人じゃない。など。
5章からは少しだけ時間が飛んで、劇中で9月頭から。
いよいよ大陸編序章、スタートです。